藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑戦する第83期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社)は、藤井名人2連勝で迎えた第3局が5月9日(金)・10日(土)に大阪府泉佐野市の「ホテル日航関西空港」で行われました。対局の結果、意表の相矢倉戦から中盤で抜け出した藤井名人が102手で勝利。3連勝として防衛にあと1勝と迫りました。
予想外の相矢倉
後手番で迎えた本局で藤井名人は2手目に角道を開ける趣向を披露。3月に行われた王将戦七番勝負第5局に続く2度目の採用で、永瀬九段が得意とする角換わりを避けつつ雁木などの力戦形に持ち込みたい狙いです。やや意表を突かれたか、先手の永瀬九段は序盤からこまめに時間を使って作戦を考慮。局面は相矢倉の持久戦に推移していきます。
矢倉の堅陣を築き合う戦いは昭和・平成の時代を通じて戦われたクラシカルな戦型。実戦経験の面では永瀬九段に一日の長があるかと思われましたが、本局はここから藤井名人の中盤力がいかんなく発揮されることに。3筋の歩交換に反発するように金銀を盛り上げるのは定跡化された対応。藤井名人は手に乗って中央に厚みを築きつつ戦いの時を待ちました。
にらみ倒しの快勝譜
藤井名人の記した封じ手が開かれ2日目の戦いがスタート。千日手模様の展開を打開したのは永瀬九段の方でしたが、それならばと藤井名人は好機の仕掛けでペースをつかみます。9筋の端攻めでもたれたのが実戦的な好手。先手から手がないのを見越しており、手順に飛車角桂香すべての駒を好位置につけ本格的な戦いの前に作戦勝ちを手中に収めました。
第2局に続いて空港開催となった名人戦。午後からは対局室のカーテンが引き上げられ全面展望が視界に入ります。後手優勢で迎えた終盤の入り口に藤井名人の決め手が待っていました。自陣への銀ばさみの脅しを無視してジッと6筋の歩を伸ばしたのがそれで、遅いようでもこれが格調高い最短の矢倉崩しです。先手は8筋を守るために上がった角を的確にとがめられた格好に。
終局時刻は19時28分、最後は自玉の寄りを認めた永瀬九段が投了。中盤のわずかな模様の良さを優勢につないだ藤井名人の快勝譜にファンも「隙がない将棋で強かった」「勝ち方がなかなかにエグいな」と嘆息の声を上げました。これでスコアは藤井名人の3勝0敗に。永瀬九段が後手番でカド番をしのげるか、注目の第4局は大分県宇佐市「宇佐神宮」で行われます。
水留啓(将棋情報局)