
日本は世界でもトップレベルで車好きが多く、また貴重な車も数多く存在する国だ。都内ではもはやフェラーリですら珍しくない存在であり、いかに日本が車好きにとって恵まれた国であるかは言うまでもないだろう。
【画像】車好きなら一度は訪れたい!ドイツのポルシェミュージアムの詳細を編集部が取材(写真51点)
しかし車好き、特にOctane読者のようなエンスーの方々は、誰しも一度はヨーロッパで本場の自動車文化を体験してみたいのではないだろうか?今回はヨーロッパを訪れた際に、是非とも訪れていただきたいスポットをご紹介しよう。
今回の企画の記事を執筆するにあたって、私、Octane編集部スタッフ吉田がまず最初に訪れたのはドイツ、フランクフルト。日本に並ぶ自動車大国ドイツの大都市だ。ここから200kmほど南に下ったところにあるのがシュトゥットガルトである。この街はメルセデス・ベンツとポルシェ、ボッシュのお膝元であり自動車産業が世界一盛んな街と言っても過言ではない。
フランクフルト国際空港で車を借り、いざアウトバーンへ。約2時間のドライブを終え、シュトゥットガルトの街に入ると、視界に飛び込んでくるのは巨大な箱のような近未来感のある建物。そしてその前には、911が天を突くように掲げられたオブジェがそびえ立つ。異質な存在感に圧倒されながらその前を通り過ぎ、駐車場に車を駐車し、いざミュージアムの中へ。
今回ミュージアムをガイドしてくださるのは、ミュージアムスタッフのベルジエ=シュナイダー・ヨシコ=ミュリエルさん。日本とドイツのハーフの方で日本語も堪能だ。
最初に解説していただいたのはこのミュージアムと併設する工場について。911とタイカンのアッセンブリーラインや、レストラン、そしてミュージアムの象徴とも言えるこの彫刻について教えていただいた。彫刻は、イギリス人のアーティストによって作られたもので、天高く掲げられている3台の911はエンジンが搭載されていないそうだ。
ミュージアムの入り口をすぎると、正面にレセプションカウンターとエスカレーター、左手にレストランとカフェ、右手にグッズショップ、そしてエスカレーターの奥にはミュージアムの車両専門のファクトリーがある。ファクトリーはガラス張りになっており、通常は外側からしか見れないのだが、今回は特別に内側に潜入させていただいた。
ミュージアムには356をはじめ、911GT1のようなレーシングカーや、最新の992まで多種多様なポルシェが展示されている。そのためこのファクトリーではどんなモデルでも対応しなくてはならない。そんなレベルの高い技術が要求される場ながらも、働いているメカニックの方達は皆大好きなポルシェで働くことが大好きで、生き生きとして幸せそうだったのが印象的だった。
このミュージアムには約80台の車が展示されているのだが、近くのシークレットガレージに700台のコレクションがあり、それらを定期的に入れ替えて展示しているという。
エスカレーターで2階に上がるといよいよその80台の展示車両とご対面。円を描くようにぐるりと建物全体に車両が展示されている。それぞれの車両には足元に解説プレートが設置されており、どのようなヒストリーが隠された車なのかを知ることができる。
展示は時代をさかのぼるように始まる。最初に出迎えてくれるのは、1898年に誕生した電気自動車「P1」。フェルディナント・ポルシェが手がけたこの一台は、ポルシェという名が世に出るずっと前の原点とも言える存在だ。時速はわずか35km、それでも航続距離は80kmと現代基準でも侮れない。だがそのバッテリー充電にかかる時間は……なんと1週間。展示車両というより、まるでタイムカプセルのような静けさと存在感があった。
そのまま順路を歩いていくとフェルディナントが手がけた名車たちが次々と姿を現す。中にはタルガ・フローリオに52戦参戦し、43勝したマシン「サッシャ」なども。
そしてさらに進むといよいよ私たちの見慣れたスタイルのポルシェが現れる。356、911のコンセプトや初期ロットといった希少な車両が並ぶ。
市販モデルとコンセプトモデルの違いを発見することができるのは、ミュージアムならではの体験だろう。例えばこの911のコンセプトはどこが市販モデルと異なるかお分かりだろうか?
そう、リアオーバーハングが少し長いのである。フェリーポルシェはこのスタイリングを見て、デザイナーに改善を要求し、市販モデルの形になったそうだ。
展示されているのはもちろんロードモデルだけではない。ポルシェ906をはじめ、917/20”ピンクピッグ”、935/78”モビーディック”、959パリ・ダカールなど多種多様なレーシングカーの展示も楽しむことができる。レーシングカーの中にはプロストが乗っていたポルシェ製エンジン搭載のF1マシン、MP4/2Cも。
段々と展示車両はモダンなモデルに移ってゆく。
初代ボクスターや918スパイダーのコンセプト、911GT1などまさしく博物館級のモデルばかりだ。911GT1はポルシェミュージアムにとっても特別なモデルなようで、最も目立つ位置に3台鎮座しているのが印象的だった。そしてこの3台はフラッシュを焚いて写真を撮ると特別な効果が生まれるのだが、どんな写真になるかはぜひ現地にて試していただきたい。
919ハイブリッドEvoは特別にステアリングを持たせていただくことに。手にした瞬間、重みと精度の異様なまでの本気が伝わってくる。後で聞けば、開発コストはなんと約650万円。レースの世界は、細部に宿る狂気がすべてを決める。この個体は、まさにニュルブルクリンクのアスファルトを蹴ってきた本物。飛び石の痕、溶けたタイヤのカス、あらゆる傷が”勲章”としてそのまま残されており、どんな美しい展示よりも雄弁に走りの物語を語っていた。
最後のエリアに並んでいたのは、フェリー・ポルシェやフェルディナント・ポルシェら、ポルシェファミリーの節目の年に贈られた特別なモデルたちだった。なかでも心に残ったのが、911(930)ターボの初号車。これは、フェリー・ポルシェの姉・ルイーゼの70歳の誕生日に贈られた一台だという。
外装のラインも内装も、シックなタータンチェックで統一されたワンオフ仕様。しかも、ルイーゼの「車幅は広げたくない」という希望を受けて、ターボモデルでありながら、あえてカレラと同じフェンダーが特別に採用されている。走りの性能よりも乗る人への想いを優先したこの一台には、ポルシェが単なる工業製品ではなく、家族の物語を紡ぐ存在であることを強く感じさせられた。
もちろん、展示されているのは車だけではない。世界中のポルシェ・オーナーズクラブのバッヂの数々(もちろん日本のものも!)、レースで勝ち取ったトロフィーの山――どれも、ブランドの軌跡を物語る貴重なアーカイブばかりで、眺めているだけでも時間を忘れる。
館内には、VRドライビング体験やスロットル操作シミュレーションなど、大人も子どもも楽しめる体験型コンテンツも用意されていた。単なる「展示」を超えた、ポルシェを「感じる」場がそこにはあった。
そして忘れてはならないのが、ミュージアムショップの充実ぶりだ。書籍やアパレル、精巧なミニカーなど、どれも日本ではなかなか見かけないアイテムばかり。特別なアクセサリーやマグカップなど、お土産選びには困らないどころか、つい荷物が増えてしまいそうになる。車好きなら、ドイツみやげはここで決まりだろう。
ポルシェ・ミュージアムは、その名のとおり「見る場所」かもしれない。だが、実際に足を踏み入れた瞬間に感じるのは、静寂の中に確かに響く「エンジンの鼓動」であり、70年以上にわたって走り続けてきた「夢」そのものだ。
展示されているのは、単なる金属の塊ではない。そこには「Driven by Dreams」というスローガンのとおり、人々の情熱と挑戦、そして未来へ向かう意志が詰まっている。 その空気感、金属の質感、そして車たちの佇まいは、言葉でも写真でも到底伝えきれない。
百聞は一見に如かず――いや、百の写真より、一度のエンジンサウンドを。 ポルシェオーナーでなくとも、このミュージアムが放つフェリー・ポルシェとフェルディナント・ポルシェが築いたブランドの哲学を感じに、ぜひシュトゥットガルトを訪れてほしい。
⑴所在地・アクセス
住所: Porsche Museum Porscheplatz 70435 Stuttgart-Zuffenhausen Germany
電車でのアクセス: シュトゥットガルト中央駅からSバーン(S6またはS60)に乗車し、Neuwirtshaus(Porscheplatz)駅で下車。駅の目の前がミュージアム。所要時間は約20分。
車でのアクセス:
・A81号線「Stuttgart-Zuffenhausen」出口からB10を経由し、「Stuttgart-Neuwirtshaus」出口へ。
・市内中心部からはB10号線経由で「Korntal」方面へ進み、Porscheplatzを目指す。
・地下駐車場あり(有料)、バス・キャンピングカー・バイク用のスペースも完備。EV充電スポットも設置済み。
⑵開館時間・入場料
開館時間: 火曜〜日曜 9:00〜18:00(最終入場 17:30) ※月曜定休。祝日や特別営業日は公式HPで要確認。
入場料:
・一般:12ユーロ
・17時以降のイブニングチケット:6ユーロ
・14歳以下は大人同伴で無料
・10名以上の団体(ガイドなし):1人10ユーロ(マルチメディアガイド付き)
⑶ガイド・展示体験
・来館者には無料のマルチメディアガイドを貸し出し(子ども用もあり)
・音声案内は英語/ドイツ語に対応、日本語は非対応
・ガイド付きツアー(11:00/15:00開始)あり、要現地受付
・バリアフリー対応、車椅子・折りたたみ椅子も無料貸出可
・視覚・聴覚障がい者向けツアーや触覚用グローブ、盲導犬受け入れにも対応
⑷所要時間の目安
・展示を一通り見学するのに約2時間
・カフェやショップを含めると滞在は3時間程度がおすすめ
⑸カフェ・レストラン
Coffee Bar(9:00〜18:00):軽食・コーヒー
Bistro Boxenstopp(11:00〜18:00):サンドイッチや国際色豊かなランチ
Restaurant Christophorus(11:30〜14:30/17:30〜24:00) 高級レストラン。USプライムビーフや地元食材の料理とワインセレクション。ガラス越しにポルシェプラッツと「Inspiration 911」彫刻を一望できる贅沢な空間。
⑹ミュージアムショップ
・営業時間: 火曜〜日曜 10:00〜18:00 ・ミニカーやアパレル、限定コレクターズブック(Edition Porsche Museum)などを販売
・シュトゥットガルト工場敷地内のWerk 1ショップ(徒歩5分)もおすすめ 。営業時間は月〜金曜 8:30〜16:30。
⑺その他:ポルシェドライビングエクスペリエンス
Porsche Drive Rental(レンタカーサービス)
・博物館から911、718、タイカン、パナメーラなど最新モデルを数時間〜28日間までレンタル可能
・受付はエントランスカウンターにて
・営業時間:火曜〜日曜 9:00〜18:00、月曜のみ 9:00〜11:00
・詳細: www.porsche.de/drive