
グーリンの快投に報いる万波の一打
GW前半戦、敵地のソフトバンク3連戦は見事スイープを達成し、シーズン序盤戦を27戦15勝12敗と手堅くまとめることに成功した。打線がもう少し繋がったらなぁと思う(得点はホームランが多かった)けれど、まぁ欲をかいてはキリがない。当の対戦相手ホークスがケガ人続出で、「開幕戦スタメンで今も残ってるのが山川だけ」と言われるのを見ると、皆、無事で野球やってくれてるのを感謝するしかない。ホークスには柳川大晟の死球(今宮健太に当ててしまった)をお詫びしたい。選手のやりくりが苦しいところで主力が一人欠けてしまうなんて、ホークスファンは胸の潰れる思いだろう。
この3連戦、伊藤大海の力投130球、吉田賢吾の恩返し打、水野達稀の勝負強さ、山﨑福也の今季初勝利、万波中正復調の兆し、石井一成1軍昇格打、古林睿煬NPB初勝利etc.と見どころ満載であったのだが、SNSの投稿がいちばん多かったのは第3戦(5/1、ソフトバンク5回戦)の「上沢直之攻略」だったと思う。米球界へのポスティングを経た「ルール上、問題のない」移籍はファイターズファンの感情を大いに逆なでした。その上沢との初対戦、7回表に飛び出した万波6号決勝ホームランには留飲を下げたことと思う。この3連戦のハイライトは間違いなくあの痛快なホームランだ。
ただ僕個人は何しろ当日ベルーナドームで西武-楽天4回戦を見て、平沼翔太サヨナラ打に拍手喝采(藤平尚真のボーンヘッドに驚愕)していたくらいなのだ。グーリンの来日初勝利は願っていたが、上沢はもう相手チームの投手でしかない。ていうか、上沢と当たることで感情を波立たせること自体が嫌だった。相手投手を打ち崩すだけのこと。たとえば同期の松本剛には特別な思いがあるだろうけど、僕はとっくに断ち切った。「上沢を負かす」ことより、「グーリンを勝たせる」ことのほうが百倍も大事だ。なので万波6号はグーリンの快投に報いたという意味で「痛快なホームラン」、そういう認識である。
解説者からも絶賛された好走塁
それよりこのソフトバンク3連戦には珠玉のシーンがいくつも散りばめてあったと思うのだ。ファイターズは今シーズン、ホームラン数12球団トップ&「犠打ゼロ」で突っ走ってきた。MLBのトレンドを見ても打線の破壊力は必須なのでホームラン数が増えたのはいい。が、「犠打ゼロ」は自慢にならない。これは犠打を企図しなかったわけじゃないのだ。他チームよりサインの出る回数が少なかっただけのことで、単に「送りバントを失敗した」「犠牲フライが打てなかった」という意味でしかない。ことさらスモールベースボールを目指す必要はないけれど、必要なバント、必要な犠牲フライはきっちり決めてほしい。空中戦も緻密な小技も両方あってこそ強いチームと言えるんじゃないか。
このソフトバンク3連戦でファイターズはやっと「緻密な小技」を決めた。水野達稀がスクイズを決めたし、郡司裕也が犠牲フライで打点を稼いだ。これは技術の問題なので「やらない」はあっていいが、「やれない」はよくない。特に接戦をものにするのにホームランを待望していてはラチがあかない。一発で決まれば豪快だが、必要なときにしっかり技術を披露できてプロというものだろう。新庄剛志監督の胸中にもしかしたら「今の段階でチームを小さくまとまらせたくない」があって、バットを強く振り抜かせるように仕向けたのかもしれないが、といってバント失敗シーンに顔を曇らせるのも再三見かけた。仕掛けるときにはきっちり決めてほしいのだ。
というわけでホームランもいいけれど、スクイズや犠飛が見られた(どちらも今シーズン初)ことを当コラムでは特記しておきたい。そしてこの3連戦でいちばん興奮したシーンも記録には決して残らない、技術やセンスの結晶のようなものだった。
それは4/30の第2戦の7回表、無死1、3塁の場面で起きた。スコアは3対1、まだどっちに転ぶかわからない。打者・清宮幸太郎はファーストゴロを打つ。3塁走者・淺間大基はここで「本塁突入しませんよー」という偽装をした。ファースト石塚は淺間を見て、ホーム送球ではなく併殺を取りにいく。セカンドへ送球し、3-6-3のダブルプレーを完成させるのだが、淺間はその間にホームを奪い、決定的な4点目を手に入れていた。これは「野球を知ってる」選手じゃないとできないプレーだ。一瞬、3塁に戻りかける芝居をして、石塚の目を欺(あざむ)き、するするっとホームを盗み取る。起きてから(清宮がファーストゴロを打ってから)考えたのでは足りない。あらかじめこうなったら石塚はこう反応するからこうだな、とイメージがなくてはならない。つまり、準備だ。
僕はあの「決定的な4点目」は淺間のセンスと技術、そして準備の勝利だと思う。あの瞬間、チームは勝てると確信した。愉快なことにその日の『プロ野球ニュース』(フジテレビONE)にも3塁走者・淺間の映像がなかった。解説陣(佐伯貴弘、高木豊両氏)はわざわざ時間を取って、映像なしで淺間の偽装を絶賛したのだ。これぞ、ザ・プロ野球。映像が何でも拡散され、流通する時代に胸のすく出来事だと思いませんか。