
「4月は最も残酷な月」とT.S.エリオットは著書『荒地』で記したが、4月2日、ドナルド・トランプ大統領が「解放の日」と名付けた日は、イギリスの高級車メーカーにとってまさにそうだった。
グローバル貿易の崩壊を懸念させる出来事に対して「解放」とは、実に奇妙な表現だ。イギリスは他国と比較すると軽い打撃で済んだが、自動車メーカーはそうではない。ウイスキー蒸留所、機械メーカー、サーモン養殖業者、製薬会社などは北米への製品輸出に10%の関税が課されただけだが、自動車メーカーは25%の関税を負担しなければならない。
クラシックカーも新車同様の25%関税が課されると予想されていたが、実際にはそうではないようだ。ただし、トランプの4月の「斧振り」の正確な影響はまだ判明していない。
市場は即座に反応した。すでにジャンク評価直前で苦戦していたアストンマーティンの株価は即座に6%下落。アメリカ国内で一部モデルを生産しているドイツの自動車メーカーも軒並み下落し、BMWは4%、フォルクスワーゲン(アウディ、ベントレー、ランボルギーニを傘下に収めている)は3%、メルセデス・ベンツは2.5%下落した。メルセデスは2月と3月に大量の車を輸入することでトランプの関税に対するヘッジを試みていた。
モーガンの不運は特に際立つ。”オバマの法律”として知られる少量生産自動車に関する法律施行により、年間最大325台までアメリカ市場へアクセスするために必要な資格を取得したばかりだった。Plus Fourの連邦基準を満たすためにすでに200万ポンド以上を費やしており、今後アメリカのエンスージアストは25%高い価格を支払うことになる。
ヨーロッパの首脳陣からも厳しい反応が示された。「根本的に間違っている」、「世界的な攻撃」などの反応だ。英国自動車製造販売者協会(SMMT)のマイク・ホーズ氏はこれを「メーカーが吸収できない懲罰的な関税」と呼んだ。彼は、コストが消費者に転嫁され、需要に影響を与え、生産の減少につながるだろうと示唆した。
「イギリスの自動車産業、特にアメリカが最も重要なグローバル市場である高級車、プレミアムカー、スポーツカーメーカーにとって、重大な悪影響がある」と彼は付け加えた。
イギリスの高級車・スポーツカービジネスは”ヴェブレン財”として知られ、逆需要曲線の弾力性限界を長年にわたって拡大してきた。富裕層がマクラーレン、ロールスロイス、ベントレー、アストンマーティンを「高過ぎる」として敬遠する臨界点は誰にもわからないが、トランプ関税は冷静な判断を迫るものだろう。そして、年間40万台の生産量の4分の1をアメリカで販売するジャガー・ランドローバー(JLR)は配送を一時停止した。
「中長期的な計画を策定する間、4月の出荷を一時停止するなどの短期的な対応を実施している」と同社は声明で述べた。サンデー・タイムズ紙によると、同社はアメリカに2ヶ月分の販売車両の在庫を確保しており、これらは新しい関税の対象にならないという。
クラシックカービジネスに高い関税が課された場合、将来的に深刻な影響を及ぼすことを業界団体は警告していたが、今回はトランプ関税の斧を回避した。業界の表面上の価格は天文学的で、PGウッドハウスの主人公たちが豚を育てたり、牛型クリーマーを集めたりするのと同じように、大金持ちが数百万ポンドの趣味に耽っているという認識があるかもしれない。しかし現実は7桁よりも6桁、6桁よりも5桁(ポンド)の車両の取引が多い。
また、北大西洋を横断する完成車だけでなく、部品にも関税が課される。名目上、10%の一律関税の一部となるが、よくよく見てみると実は複雑だ。オースティン・ヒーレー、トライアンフ、ミニなどの人気メーカーのサプライチェーンは複雑かつ多国籍である。
「場合によっては、一つの部品に10社もの異なるメーカーが関わることがある」と、様々なクラシックカー向けに多種多様な部品を供給するアメリカ大手部品販売会社、モス・モータースの幹部バイヤーは述べた。
鋼鉄とアルミには25%の一律関税のほか、調達先によって追加の関税が課される懸念がある。サプライヤーは鋼鉄やアルミの溶解や鋳造、炉の場所などについての問い合わせが殺到しているという。
金価格が高騰し、米ドルが暴落し、金融市場が混乱に見舞われている中、クラシックカーへの軽い関税処遇が、最近不確実だった市場にプラスの効果をもたらす可能性があると考える人もいる。ただし、投資において断言はできない。
クラシックカー市場は「解放の日」に向けて確かに力を得た。クラシックカーブローカーであり収集家でもあるサイモン・キッドストン氏によると、アメリカのコレクターたちはトランプの発表前、より悪い事態を予想して活発に動いていたという。
「常識が勝ったことに確かに安堵感があります」と彼は言い、米国の輸入税率は2.5%のままであると確信していると述べた。ただし、州税も考慮する必要がある。
「売上税はどの州にいるかによって異なります」と彼は言う。「モンタナ州に拠点を置くコレクターが非常に多いように見えるのはおそらくそのためです。というのも、モンタナ州には売上税がないからです」
また、彼はクラシックカーの輸入はヨーロッパでも関税がないわけではない、と指摘する。イギリスは5%、フランスは5.5%、オランダは6.5%、ドイツは7%、イタリアは10%の関税が課せられており、スイスだけが0%でクラシックカーの重要な取引拠点となっている。
しかし、部品は別の話だ。キッドストン氏によると、古い車両用に供給する部品に対してより高い関税が課される可能性について懸念を示すいくつかのメーカーから連絡を受けているという。例えば、メルセデス・ベンツは旧車向けの部品供給元を自社のミュージアムに集約している。これは、同社が所有する車両やアーカイブコレクションのメンテナンスと保存、博物館や活動の運営のための収益源を確保するための動きだ。
EUは20%の一律関税に直面しており、アメリカでメルセデスを維持することはより高価になりそうだ。
「アメリカのクラシックカー修復ビジネスの立場はどうなるだろうか?」とヒストリック・クラシック・ヴィークル・アソシエーション(HCVA)の最高経営責任者であるデール・ケラー氏は問いかける。詳細があまりに不明瞭なのだ。
「25年以上経過した車両をアメリカに輸入する際、関税は従来通りの2.5%のままであることだけは分かりました」と彼は言う。「でも、古い在庫部品と新しい部品、車に取り付けられている部品とトランクに入れっぱなしの未装着部品の取り扱いは分かりません」。
彼によると、アメリカの輸入コードは解読がほぼ不可能だという(素人には意味をなさない、と示唆する)。はたしてクラシックカーの部品は一般的な自動車部品として取り扱うのだろうか?
毎度のことながらトランプ大統領の命令については、様子見するしかない。
文:アンドリュー・イングリッシュ 翻訳:古賀貴司(自動車王国)
Words: Andrew English Translation: Takashi KOGA (carkingdom)