
EDM界のスーパースター、スクリレックスが放つ新作はタイトルからして過剰だ。その名も『Fuck U Skrillex You Think Ur Andy Warhol But Ur Not!!(ファック・ユー・スクリレックス、お前はアンディ・ウォーホル気取りかもしれないけど違うからな!!)』。
【写真】スクリレックス、YOSHIKIとの邂逅でオリジナリティが爆発
ダンスミュージックのシングルというのは、本来DJがミックスしやすいように作られ、長尺の中にエフェクトを配置していくことで、フロアを一体化させていくことを狙っている。だが、2010年に登場したスクリレックスは、そんなルールに従う気などさらさらなかった。彼の音楽では、すべてが一気に襲いかかってくる。引き伸ばされたようなベース音、わざとらしくて笑ってしまうくらいのサンプリングのセリフ……サイモン・レイノルズという評論家が「digital maximalism(デジタル・マキシマリズム)」と呼んだそのサウンドは、スクリレックスのサウンドの核であり、彼はリスナーに最新型のVRヘッドセットをかぶせ、その背景を秒刻みで変えていくような世界に放り込む。シュールというよりは、ブラックライトの下で見る遊園地の鏡の部屋みたいな感じだ。サイケデリックなダンス・ミュージックにもいろいろある。
スクリレックスはその後、ポップミュージックの世界にもスムーズに進出。グラミー賞をいくつも受賞し、ディプロやジャスティン・ビーバー(ジャック・ユー名義の「Where Are Ü Now」)とのコラボでもヒットを飛ばした。ソロとしても精力的にキャリアを重ね、2年前には『Quest for Fire』『Dont Get Too Close』という2枚のアルバムを、わずか24時間差で連続リリースしている。
それでも、今作『Fuck U Skrillex You Think Ur Andy Warhol But Ur Not!!』(文中以下『FUS』)には、不思議なくらい新鮮なエネルギーが充満している。ハイテンションでぶっ飛んでるけれど、それだけじゃない。曲と曲が、あざやかに、あるいはいたずらっぽく繋がっていき、アルバム全体がひとつの旅のように展開する。何度も聴くうちに、小さな仕掛けがどんどん見えてくる。怒涛の音の波のなかで、ふと訪れる静けさも、同じくらい大切なのだ。
アルバムの冒頭で、「スクリレックスは死んだ」と女性の乾いた声とともに、DJスモーキー演じるハリウッド調のナレーターがそう宣言する。この”映画っぽさ”は偶然じゃない。『FUS』は、音だけで作られたIMAXの壮大な映画のようだ。2025年アカデミー賞長編アニメーション賞作品『Flow』の主役は猫だが、『FUS』の主役はサイボーグである。
スクリレックスは、音の膨張主義を単にベース音にとどめない。このアルバムでも、声という声が加工され、ズラされ、切り刻まれ、あちこちで形を変えていく。同じセクションが繰り返されても、風景が同じままであることはほとんどない。小休止のような場面もあるが、『FUS』は決して足を止めない。たとえナレーターが「音楽は沈黙に置き換えられました」と宣言しても、その裏ではコオロギが鳴いている。そしてその鳴き声は、いつのまにかトラップのリズムに姿を変え、また別のベースが風景を爆発させる。
そのベースは、リスナーの手を引いて案内役を買って出る(「社会を捨てろ! 自然に帰れ!」と語りながら、アナログ・シンセがふつふつと立ち上がり、少女たちのコーラスが輪唱のように広がっていく)。でも同時に、それは物語なんて存在しないんだよ、という皮肉でもある。いつだってそうだ。スクリレックスの音楽にとって大事なのは”意味”じゃなくて”感覚”なのだ——しかも、ここまで細部まで徹底して作り込まれているのなら、それはもう立派な芸術だ。