はしがき
王将リーグでの奮闘も記憶に新しい西田拓也五段が「私の戦い方」に登場。前号で「振り飛車に愛があるタイプではない」という印象的な発言を残した西田五段だが、深掘りしてみると、出てきたのはさらに過激なフレーズだった。クールでフラットな新感覚の振り飛車党棋士が語る将棋観は新鮮だ。
【インタビュー日時】2024年12月20日
【扉・インタビュー写真】田名後健吾
【記】會場健大
※本文中の段位は将棋世界本誌掲載当時のもの
将棋界の話題
―まずは最近のタイトル戦について伺います。竜王戦について、どのようにご覧になりましたか。
「佐々木さんの研究がすごく深かった印象です。特に先手番の優位を最大限に生かしていた印象がありました」
―2日制のタイトル戦なのに、初日からハイペースで終盤戦に突入して、1日目で終わるんじゃないかと心配されるなど、研究勝負はさらに加速している印象もあります。
「いまの将棋の流れとしてそういうものだと思います。自分の知っている世界で戦えるというのが大きいですし、持ち時間を節約して終盤に残せるというのも大きいですね」
―1月に開幕する王将戦についても伺います。西田先生は惜しくも挑戦者決定プレーオフで敗れ、永瀬九段の挑戦が決まりました。永瀬九段の印象と、この番勝負の展望について教えてください。
「王将リーグでは、永瀬九段の研究の深さを思い知りました。相居飛車のことはぜんぜんわからないので、番勝負についてはちょっと予想が立ちませんが、竜王戦でもそうだったように、先手番が優位に進めるという展開が続くかどうか、というところに注目しています。今後の将棋界の傾向として、先手がめちゃくちゃ有利という展開になっていくのか、それとも後手が盛り返してくるのか、そこが気になっています。従来、統計的に先手の勝率は53%と言われていたと思うのですが、タイトル戦を見ていると、先手勝率はそれより明らかに高いように思われます。そういう傾向が続くのか、環境を占うタイトル戦になると思います」
―両棋戦のタイトルホルダーである藤井竜王・名人についても伺います。西田五段は、本誌で「やねうら王と行く 藤井将棋観戦ツアー」連載の経験もあります(「AI解析で読み解く 藤井聡太の決断」として書籍化)。その経験も踏まえて、藤井竜王・名人の将棋についてどのように思われますか。
「研究がすごいのももちろんですけど、それを離れたところの地力、終盤力がものすごく高いですよね。AIで研究をして、評価値で200点とか300点有利な状態で終盤戦を迎えたとしても、それはそのあともAIが正確に指すことが前提の有利なので、実際にはまだまだ難しい将棋であることがよくあります。逆に、AIでも簡単に結論が出ないような終盤だからこそ、そこまで点差が開いていないということでもありますから。そういうところから正確に指す力が藤井竜王・名人は高いです」
―西山朋佳女流三冠が挑戦している棋士編入試験も話題です。現在、2勝2敗で、次の一番で合格か不合格かが決まります。
「西山さんのことは昔からよく知っています。西山将棋は終盤型で、勝ちへの道筋を見つけるのがすごくうまいという印象です。よくなったところからの着地もそうですし、形勢が悪いときにも、逆転する道筋を見いだす力にたけています。奨励会級位者の頃からそれは有名で、自分がいいはずなのにいつのまにか逆転されているという声をよく聞きました。2局目の山川四段戦は力を封じられていた感じですけど、それ以外は実力を発揮されていたのではないでしょうか。最終局もベストを尽くしてほしいです」