
今年1月に放送されたテレビ番組『EIGHT-JAM』の「プロが選ぶ年間マイベスト10」ではいしわたり淳治が「眼差し」を1位にピックアップし、『日経エンタテインメント』が発表する「2025年の新主役100人」にも選出されるなど、今年に入ってますます注目を集めているjo0ji。その「歌」に対する評価がさらに高まりつつある2025年、1発目の楽曲としてリリースしたのは『謳う』だ。
大事な友達へ語りかけるように歌うjo0jiが『謳う』という楽曲をリリースし、《でも大丈夫、僕らにはうたがある》と歌ってくれることには、とてつもない頼もしさと、jo0jiの「歌」への信頼の大きさを感じていた。そしてこのインタビューでわかったことは、jo0jiの「うた」に対する広くて美しい解釈だ。jo0jiにとって「うたう」とは、ただメロディに歌詞を乗せて上手に歌うことではない。今も鳥取の海が見える家で暮らすjo0jiは、「業界」と呼ばれる煌びやかな場所から注目を集めても、田舎で生活を営む人間に対する眼差しと「うた」に対する目線はマイペースを保ち続けている。
関連記事:imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」
―今年に入って『EIGHT-JAM』や『日経エンタテインメント』だけでなく、音楽業界外からも急速に注目を集めている状況だと思いますが、ご自身の気持ちはいかがですか?
音楽評論家の吉見佑子さんと会った時、「ジョージって知らないの」と言われて調べたのがつい最近。「ジョージ 漁師」で検索すると、鳥取の漁港で働きながら音楽活動をしているという少し前の記事が出てきた。
Apple… pic.twitter.com/mdj2rTfUAV — 古市憲寿 (@poe1985) March 7, 2025
jo0ji:色々とありがたいですね。でも自分としては特に何も変わってないです。いつも通り、今まで通りの感じではあります。
―自分のペースが崩れてないのは素敵なことですね。新曲「謳う」は、「ワークソング」以来、5カ月ぶりのリリースとなりましたが、これはいつ頃書いた曲ですか?
jo0ji:1番までは去年の3月あたりに作って、そこから6月とかにフル尺を作ったかもしれないですね。出すタイミングを見計らってました。春っぽい感じがしていたので、温かくなるタイミングがいいかなって。新学期や新生活のタイミングに心が丈夫になれるような曲を出すのがいいのかなと思って、「謳う」がちょうどいいなと。
―「謳う」って、すごいタイトルだなと思ったんです。jo0jiさんにとって一番大事な核心部分を、今、楽曲のタイトルで掲げるんだと思って。
jo0ji:人生を謳歌するとか、そういう意味で「謳う」と付けました。夢を高らかに言ったりすることも「謳っている」と言うじゃないですか。自分のやりたいことを「謳う」とか。やりたいことを言っていこう、みたいな意味で「謳う」と付けましたね。
―歌詞の中には、《謳うだけさ》ともあるけど、《でも大丈夫、僕らにはうたがある》というフレーズもありますよね。とても大切で、存在感のある一行になっていて。
jo0ji:そこをひらがなの「うた」にしたのは……人って、気持ちを込めてしゃべるとき、テンポに乗る気がするんですよ。力が入って熱も込めて言いたいことを言っているときって、どこかテンポがある気がするんです。その人のなりのしゃべりのテンポがあって、それに上手く乗ると、人は饒舌になると思うんですけど。
―たしかに。誰かのしゃべりのテンポに合わせて自分の言いたいことを言おうとするよりも、自分のペースでしゃべれるときが一番話しやすいですよね。
jo0ji:ゾーンに入った感じがありますよね。熱を込めて好きに素敵にしゃべっている姿って、歌っているのと似ているんじゃないかなと思って。メロディとかがなくても、声に出して人に伝えている状況というのは、その人の「歌」なんだろうなと思う。熱を込めて饒舌になる瞬間というのは誰しもに発動すると思うので、「それがあるから大丈夫」という感じの歌詞ですね。
―「歌う」ことが、歌を訓練した人だけのものではなくて、誰しもの生活の中にあるものなんだという考えがjo0jiさんにはあることはこれまでも感じていたんですけど。自分の言いたいことを自分のテンポで言えている瞬間も「歌う」と表現するのは……素敵すぎます。
jo0ji:あ、マジっすか。嬉しい(笑)。2番の《言えないことが多すぎる/でも大丈夫、僕らにはうたがある》もそういうことを言っているんですけど。言えなかったことも、テンションが上がってきたらポロっと出ちゃったりするじゃないですか。そういう瞬間があるから、いつか言えるから、大丈夫だよっていう。そういう性質が人間にはあると思うので。その人の中の少年少女がちょっと出てこないとそういうゾーンには入れないと思うので、子ども心を想起させるような音にしましたね。
―自分にとって大事なことって、「言おう」と思うとなかなか勇気を出して言えなくて、逆にふとしたときにポロっと言えちゃったりするんですよね。
jo0ji:それがなるべく引き出しやすい世の中であってほしいなというふうに思いますね。
この曲で一番言いたかったこと
―ライナーノーツにもありますが、曲を書き始めたきっかけは友達に子どもが生まれたことだったんですか?
jo0ji:友達に子どもが生まれたりもしましたし、田舎なんでね、結婚するのも子どもができるのも早いんですよ。同級生で子どもが2人いるやつもいるし。今の子は、スマホがあるせいもあって早熟というか、わかったような気になっちゃう瞬間がめっちゃあるなと思ってて。想像力とかにブレーキがかかっちゃいそうな気がして。自分は子どものときにずっと映画を見ていて、現実にはありもしないことを自分の世界に置き換えて想像しながら、バカみたいな感じで生きていたんですけど(笑)、でもそれがよかったなと思うんですよ。曲とかを作っていても、そういうちょっと突飛な想像力が何かしらに繋がっている気がして。現実的な瞬間を見るのは歳を取ってからでもいいよなと思う。子どもたちは、意味わかんないことを言っていればいいと思うんです。でもそれにブレーキをかけるような世の中である感じもちょっとするんですよ。SNSとかを見ていると、小中学生がちょっと痛い発言をしてたら叩くじゃないですか。それに釘を刺す必要もないと思う。「どんどん黒歴史を作っていけ」という気持ちを込めてこの曲を作ったというか(笑)。
―たしかに、黒歴史を作ることをいかに避けるか、という時代になっていますよね。すぐ誰かにネットに書かれたりもするし。
jo0ji:だから嫌だなと思うんですけど。理解のある大人たちがちゃんと許して、やりたいことをやっていってほしいなと思う。そうすることで、許してもらってきた子どもたちは人のことも許せるだろうなと思って。そのほうが世界がよくなる気がするんですよね。
―今回、シンプルな言葉を選んで歌詞を書かれているなという気がしたんですけど、それは意識されたところですか?
jo0ji:そうですね。誰でもわかる言葉で書くことを最初に決めました。直接的でも意味が通じるし、歳を取って色々知ってからだと「これはこのことを言ってたんだ」と違う受け取り方ができるようにはしてみました。
―《国の外には出たことがない/日本語すらもあやしい》《言葉足らずで伝わりにくいけど/それでも懲りずにやってみるよ》とか、全体的に飾りのない言葉で、jo0jiさん自身の丸裸な姿勢が見えるくらいの曲な気がしました。
jo0ji:そうですね。誰かが先陣を切ってくれると、そのうしろをついていきやすいなと思って。「一回、俺が飛び込んでおきます」っていう感じで、ある程度おおっ広げにすることは意識していました。
―それがすっごく伝わってきました。
jo0ji:《叱られりゃいいさ、何度でも》から始まるパート(《くよくよするこたねぇさ/明日には晴れるさ/許してもらった分だけ/誰かを許すことができるみたいだ》と続く)が、一番言いたかったことではあります。やっぱり、怒られないように生きようと思えば生きられちゃうので。だけど、いちいち石橋を叩いて進むより、突き抜けちゃうほうがいいと思うんですよね。ものを作るときもそうだし。いろんな分野で、失敗から学ぶことのほうが多かったなと思うので。今は情報が多くて失敗例もいっぱい出てくるせいで、失敗や経験がなくなってしまう感じがあって、それもすごくもったいないなと思う。中高校生の思春期とか、「ちょっとクールにしてるのがかっこいい」みたいな時期ってあるじゃないですか。そういうときにSNSがあると、本当に何にもしなくなっちゃうなと思ってて。俺が中学生くらいだった頃は、そこまで「炎上」みたいなものはまだなかったと思うんですよ。高校くらいからそういうものが出始めて、俺も高校のときはちょっとクールなのがかっこいいと思っていたので冷めた感じでやってて、バカなことをやらなかった感覚があるんですけど……いや、マジでもったいないと思うので。
―斜に構えてる時期って、あとから振り返ると「なんであんな人への接し方をしたんだろう」「素直に動けばよかったな」「もったいなかったな」とか思うんですよね。
jo0ji:そう、大人になると思うじゃないですか。自分もそういうものがなかったら、もしかしたらもっと早くに音楽を始めていたかもしれないし。ブレーキをかけちゃうのはよくないなと思って。そのブレーキが昔よりも今のほうがかかってきている感じがあるので、「なんぼでも叱られればいいと思うよ、許してくれるはずだから」っていうふうに言ってあげたいなと。
―子どもだけじゃなくて大人に対しても言ってあげたい言葉でもあるし。
jo0ji:そうなんですよ。多少のことは許してあげようっていう。逆に許さないでいるほうが体力を使うし。
『ライオンキング』とWONKから得たアイデア
―井上幹(WONK)さんと共作したアレンジに関しては、どんなことを考えてましたか?
jo0ji:『ライオンキング』を見ていたんですよ。野生のライオンたちが、いろんな試練と戦いながらサバイブしていくじゃないですか。「謳う」には、野性的な感覚を大事にしようというのもテーマとしてあったので、この映画の曲を参考にすれば、野原を駆け回る感じもイメージしやすいなと思って。『ライオンキング』は子どもの頃から始まって、何も知らないところからいろんな失敗をしながら大人になっていく過程を描いているし、そういう内容も含めてこの曲と近しいものがあるなと思ってこのアレンジにしました。
―最初のリファレンスが『ライオンキング』だったとは、面白いです。1番はギターのジャガジャカという音と、手拍子と、歌だけでいくじゃないですか。あれはクラシックギター?
jo0ji:俺のデモではアコギをジャカジャカしていたんですけど、幹さんが、ゲンブリというモロッコの民族楽器を入れてくれました。
―通りであまりに聴いたことない音だなと思いました。そうやって1番はミニマルな音数で歌が際立つ感じにして、2番から合唱やサファリ感が入ってくるというのは、どういう意図でした?
jo0ji:子どもって、ある程度までは初期装備で生きていくじゃないですか。ハイハイから始まって、幼稚園、小学校に行くようになって装備が増えていくというか。2番からは、人との出会いがあったりするけど、ぶつかるものに対してめげずにいてくれというふうに歌っている感じですかね。2番からは民族っぽい感じ、土着感を足してほしいということを幹さんに言いました。そうしたほうがより一層、その土地ごとの子どもたちの空気とかが生まれて、聴いた人の地元を感じてもらえそうな気がして。
―毎回、アレンジにもしっかりと意図やストーリーがあるのが面白いです。この曲を『jo0ji 2man tour「馴染」』の名古屋公演でWONKと歌ったときは、どうでした? 動画からハッピーさ溢れる感じが伝わってきました。
この投稿をInstagramで見る jo0ji(@jo0ji.t)がシェアした投稿 jo0ji:本当に楽しかったですね。いつもライブは緊張しちゃったり、「ちゃんとやんなきゃ」という気持ちが先行して「楽しむ」という感覚があまりないんですけど、WONKと一緒にやった「謳う」は楽しかったです。WONKの音楽は高校くらいから聴いていて、自分の音楽の遺伝子の中にはWONKがいて。幹さん、(江﨑)文武さんと編曲の趣味が合うのも、WONKを聴いてきたからだと思うし。その人たちが全員揃って演奏してくれている上で自分の曲を歌うっていうのは、すごく感慨深かったですね。とにかく楽しかったです。
MV、ジャケットの意図。『フジロック』への想い
―ジャケットは、今までと違うテイストできましたよね。『ライオンキング』とかのディズニー感とか、ピクサー感を感じました。
jo0ji:『ライオンキング』がリファレンスだということとか、子どもたちに向けた曲であるということを伝えて、いつもMVやジャケットをやってくれているMargtがMVと繋がる形で、小さいドアの小窓から外を眺めている子どもを作ってくれました。あえてCGでやったのも、ファミリー向け映画みたいな雰囲気が纏うようにというか。MargtのArataが、この曲を聴いて『モンスターズ・インク』の感じがしたということを言っていて、そういうのもイメージの中にあったと思います。希望なのか不安なのかがわからないような眼にして、閉じ込められているのか、自分が出ないようにしているのか、見る人によってどちらでも捉えられるように、っていうことを考えて作ってくれました。
―ピクサーのファミリー向け映画も、子どもも楽しめるし、でも歳を取るとまた違う楽しみがあったりしますよね。
jo0ji:ピクサーに関しては特に、大人に向けて作っている感じがするんですよ。この曲は、俺なりにピクサーみたいなものを作った感じはありますね。
―ミュージックビデオも素晴らしいですね。
jo0ji:素敵なMVになったと思います。トラックの荷台がキャンピングカーみたいになってて、その中で生活している主人公がいて、外に出る勇気がなくてウジウジしてて、小さな小窓から外の世界を恐る恐る見ていて。最後は雷が落ちて車が止まったことで外の世界に出て、外の世界を知るという、希望のあるような終わり方になったんですけど。MVに出演してくれた74歳の河原田さんが、「初めて聴いたときからいい曲だと思いました」「こういう曲がもっと売れる世の中になってほしいです」みたいなことを言ってくれて、それも嬉しかったですね。SAMPOというクリエイティブコレクティブが作ってくれたジオラマも、SAMPOなりの想いを込めてくれました。この曲を聴いたときに、現実にある風景というよりかは想像の世界をイメージしてくれたらしく、だからUFOが落ちていたりして。みんなの思う「子ども心」みたいなものが集約された映像になった気がします。
「謳う」ミュージックビデオで使用されたジオラマ
回転式のジオラマセット
ーXには「主人公が音楽をやる前の自分と重なった」と書かれていましたね。
「謳う」 MUSIC VIDEO
世界を恐れて眺めるだけの主人公が音楽をやる前の自分と重なった。後ろ指差されないように生活していたあの時は、とても息苦しかったと今は思う。なんの因果か音楽を始めてみてよかったなとMVを観て思った。なんでもやってみることだ。その勇気をくれるMVになったと思う。 pic.twitter.com/wkxpNzFeUd — jo0ji (@jo0ji3) March 12, 2025
jo0ji:自分は照れ屋なので、恥ずかしくて言いたいのに言えないことがいっぱいあったけど、曲を作るようになって、音楽というものがひとつ挟まると素直に言えた感覚があって。自分の中で溜めていただけの気持ちを今は人に伝えることができているけど、曲を作る前の自分は息苦しかったんだろうなと。言いたいことを抱え込んで、やりたいことも言わずに、黙って生きとったことを思うと、曲を作ってよかったなと思って。あのMVが、「俺、そういうふうに思ってたな」っていうことを思い出させてくれました。なんとなく曲を作ってみたから今に繋がっているわけで、だから失敗しようが、何でもやってみるものだなと思うんですよ。やった分だけ、歳を取ったときに素敵な大人になれる気がするので。
―ちょっとした行動が、後々振り返ると自分の世界を大きく広げたきっかけになっていたりするんですよね。今後の予定としては、7月12日に東京・渋谷CLUB QUATTROで、『jo0ji special oneman live「onajimi」』が開催されますね。
jo0ji:バンドもいつつ、そこでしかできない編成とか、スペシャルライブ的な感じでやれたらいいなと思っています。今、考え中ですね。どうするのかを作戦会議中です。あと曲も作ってはいるので、今年何かしら出すと思います。より一層、謳っていこうぜっていう感じですね。
―ワンマンのあとには『フジロック』もありますね。
jo0ji:『フジロック』はめっちゃ気合いが入ってます。やっぱり僕は(忌野)清志郎が大好きで、『フジロック』は清志郎が好きなフェスで。憧れの人が立っていたフェスに出られるっちゅうのは、「ここまで来たのか」という感じがしてすごく感慨深いですね。
―周りからは「今年が大事だ」とか言われると思うけど、今年もマイペースに頑張ってください。自分のペースでね。
jo0ji:頑張ります、ありがとうございます。俺はあまりペースを乱されたりしないんですけど、逆に周りが俺のペースに対して心配したり焦ったりしてないかなと思ってますね(笑)。鳥取にいるからマイペースを保てている部分もあると思います。同じ(音楽の)世界にいる人たちがずっと真横にいる環境だと焦ったりするのかもしれないですけど、地元に帰ったら何も気を遣わないやつらがいて、すぐに普通の感じに戻れるので、最近は会うたびにありがたみを実感しますね。海を歩きながらずっと「謳う」を歌ってくれたりして。あいつら、大人社会に入ってはいるけど、ずっとピーターパンなんですよ。
―そうやって子ども心を持ち続けることとか、商業としての「歌」ではなく日本の田舎の日常にある「歌」を感じていることとか、jo0jiさんの音楽の中身に大きな影響がある気がしますね。
jo0ji:本当、そうだと思います。東京に来るといろんな人に褒めてもらって、それまであまり褒められてこなかったので「あ、すご……」とか思うんですけど、地元に帰ったら普通に怒られるので調子乗らずに済む(笑)。褒められてばっかりだと、人間不信まではいかないですけど、やっぱり不安になるじゃないですか。あいつらと会うといつも通りに戻れる感じがして安心しますね。
<リリース情報>
jo0ji
『謳う』
配信中
<ライブ情報>
jo0ji special oneman live「onajimi」
2025年7月12日(土)渋谷 CLUB QUATTRO
時間:OPEN 17:45 / START 18:30
チケット購入はこちら:https://sma-ticket.tstar.jp/artist/jo0ji
オフィシャル先行:2025年3月21日(金)21:00~2025年4月6日(日)23:59
Rolling Stone Japan vol.30(2025年5月号)
発行:CCCミュージックラボ株式会社
発売:株式会社CCCメディアハウス
2025年3月25日発売
価格:1320円(税込)
jo0jiがimase、なとりとともに出演した『Juice』ライブレポートと、公演終了直後インタビューを掲載中!