
フェラーリジャパンによる初のフェラーリ・クラシケ公式イベントが東京都内で開催された。そこには、日本に連綿と紡がれるフェラーリの歴史があった。
【画像】288GTO、F40、F50、Enzoなど、珠玉のクラシックフェラーリが一堂に!(写真26点)
数十台の車が集まって、「上品」かつ「華やか」に見える光景など、実はそうそう多くない。もちろん車好きにとっては、それがどんなカテゴリーの集まりであろうとも、「素晴らしい」光景であるには違いないのだけれど、それでも「華麗」だと思えることは正直、稀だと言わざるを得ない。
フェラーリジャパンが公式的に初めて開催したクラシケイベントの景色は、誰の目にもそう映る数少ない例外だった。2月下旬、アークヒルズのカラヤン広場に集まった名馬24台の居並ぶ様子はまさに華麗のひと言、そのうえ荘厳でさえあった。
初めての試みにも関わらず展示の申し込みは募集台数の優に4倍はあったという。日本世界もまた、愛好家たちによって連綿と紡がれてきた伝統の賜物だと言っていい。ブランドは歴史が作る。マラネッロもまたそのことをよく理解しており、ここ数年は特にクラシック&ヴィンテージに力を入れている。
その中核にあるのがクラシケ部門だ。2004年にジャン・トッドの進言によって設立が検討され、06年からは正式な部門として業務を開始。現在では40名近くのスタッフがマラネッロ本社工場内にある歴史的建造物にオフィス兼ファクトリーで活動している。
今回のイベントは、そんなクラシケの活動をより多くの歴史的名馬オーナーに知ってもらうべく企画された。日頃、新車ディーラーと付き合いのないクラシックモデルのユーザーにももっと気軽にコンタクトしてもらえたら、というマラネッロからの提案だ。もちろん、クラシケのサーティフィケーション(認定書)サービスやレストレーション、部品供給などは正規ディーラーが窓口になる。クラシックモデルのオーナーにとっても新車ディーラーは強い味方になりうるというわけだった。
華麗な光景の主役たちの姿は写真でじっくりご覧いただくとして、ここでは当日の参加者(展示車オーナーと招待客)による人気投票で選ばれた3台と、私が個人的に気に入った2台についてリポートしておこう。
私的2ベストは2台のディーノだ。白の246GTと赤の208GT4。前者はこのイベントに合わせて登録を済ませたという日本初披露の車両。とある海外コレクターの所蔵品だったらしく、オリジナル度はもちろん、その艶やかな白いペイントと深く輝くメッキパーツのコントラストが多くのマニアの視線を釘付けにした。後者の208GT4は私が今、最も欲しいと思っている”跳ね馬”で、なんなら「クルマ人生”終のパートナー”」候補として挙げたいほどだ。この日もイベント終了後、意気投合した展示車のオーナーに乗せられて、とある中古車ショップへ売り物を一緒に見に行ったほどだった。2リッターV8の、いかにもキャブ付きフェラーリエンジンというべきメカニカルノイズが素晴らしい。
人気投票は、1位が(288)GTO、2位が 365GT2+2、3位が212Interという結果に。288GTOに関しては予想通りだろう。クラシックフェラーリの人気は今、50~60年代という少量生産時代の定番クラシックモデルに加えて、80年代以降のスペチアーレ、マラネッロがいうところのスーパーカーシリーズへの注目が異常に高まっている。
要するにこの世界にも世代交代の波が確実に押し寄せており、なかには60年代以前の驚くほど高価な名馬に手をだすくらいなら、80年代以降の人気モデルを手に入れておいた方がいいという売買の専門家もいるほど。そんななか288GTOに始まり、F40やF50、そしてエンツォ、さらにはラフェラーリまでのスペチアーレは、モダンコレクションの象徴であり、その人気は黎明期のヴィンテージカーに匹敵する。GTOはちょうど世代交代の間にあって、両方の層から一目を置かれる存在なのだろう。
2位と3位は、やはりその際立った存在感が注目を浴びた結果だった。2+2で全長5m近い365GT 2+2の流麗さは他を圧倒していたし、めずらしいカロッツェリア・ギア・エグル製ボディの212インターに至っては黎明期の跳ね馬らしさを今に伝える貴重な証人であった。参加者たちがある意味、尊敬の念を込めてこれらのモデルに投票したであろうことは容易に想像がつく。
マラネッロは昨年、創業80周年を記念した限定スーパーカーF80を発表した。そのテクノロジーはもちろん最新である、と同時に、デザインモチーフにはヘリテージの要素も多数見られた。最新フラッグシップのドーディチ・チリンドリも然り。
いや、そもそもこの日展示された名馬たちの自慢の要素、V12エンジンであったり、美しいスタイリングであったり、時代を象徴する高性能であったりは、最新モデルの296GTSやドーディチ・チリンドリにも引き継がれている。裏を返せば宝石箱のようなヘリテージがなければ、魅力的な最新モデルの登場もなかった。
クラシケイベントは伝統と革新、過去と未来を学ぶ絶好の機会になる。是非とも年に1回と言わず、最低でも関東と関西で年に2回、春と秋に開催してもらいたいものだ。
文:西川 淳 写真:フェラーリジャパン
Words:Jun NISHIKAWA Photography:Ferrari Japan