本当のブランデッド・レジデンスとは|N°001 MINAMI AOYAMA DESIGNED BY ASTON MARTIN

1年に渡りそのプロジェクトを取材してきたアストンマーティンによる邸宅、「N°001 MINAMI AOYAMA DESIGNED BY ASTON MARTIN」。その幾度かの取材を通して文中ではしばしばブランデッド・レジデンスという言葉を使ってきた。ところがここでいうブランドとは何か。本物のブランデッド・レジデンスだけがもつ価値とは。VIBROA代表取締役CEOの吉田利行さんほか、本誌編集長堀江、自身もブランドビジネスを手掛け、VIBROAのチーフ・ブランディング・オフィサーも務める田窪寿保さんに伺った。

【画像】アストンマーティンによる邸宅を通じて、ブランドとは何か?を語る(写真19点)

ブランドは、製品やサービスの単なる識別子を超えた、強力な無形資産である。自動車のエンブレムが輝く瞬間、時計の文字盤に刻まれたロゴが光る瞬間、そこには単なる製品を超えた物語が宿る。そんなブランドという冠を持つ邸宅が、東京・南青山にて間もなく竣工する邸宅「N°001 MINAMI AOYAMA DESIGNED BY ASTON MARTIN(以下、N°001南青山)」である。そして、邸宅作りにおけるアストンマーティンの日本のパートナーが東京・赤坂に本社を構える株式会社VIBROA(以下、VIBROA)だ。

VIBROAの代表取締役CEOの吉田利行さん、本誌編集長堀江史朗、そして東京・名古屋・大阪で「ヴァルカナイズ・ロンドン」を運営するBLBG(ブリティッシュ・ラグジュアリーブランド・グループ)株式会社(以下BLBG)の代表取締役社長であり、VIBROAのチーフ・ブランディング・オフィサーも務める田窪寿保さんに「ブランド」について語りあってもらった(以下、敬称略)。

堀江 まず、口火を切らせてもらうと、昔から車自体が魅力的かつ複合的な商品であったので、自動車メーカー名が”ブランド”として名を馳せてきたわけです。限定車を作ったり、もっと差別化を求める顧客のためにスペシャルモデルを作ったり、ブランド力を生かしたビジネスが展開されています。でも、もっと古くから自動車メーカーは車の枠を超えて、ファッションで言うところの「メゾン」みたいな考え方をしていたように思います。分かり易い例を挙げるなら、クルーザーやヨットなどの船舶の展開ですね。国産車メーカーもほぼ全て、船舶や船舶エンジンを手掛けている、という事実は興味深いです。ただ残念ながら、国産車メーカーは汎用品の普及に重きを置いている雰囲気なので、メゾンという考え方ではなさそうですが。

田窪 メゾンの例えは的確ですね。そもそもブランドがメゾン、つまりは「館」であることを意味します。ブランドはそれぞれが館であって、それぞれの個性が色濃く反映されているものです。そんな世界観に共感する人達がファンになり、買い手になってくれるものです。アストンマーティンが不動産を手掛ける面白さは、アストンマーティンの世界観がしっかりしているからこそできるブランドビジネスなんですよね。しかも画一的な家作りではなく、それぞれのプロジェクトがユニークなものである、という点に面白さを感じます。

吉田 ブランデッド・レジデンスは世界的なうねりになりつつあるように感じています。と同時に、自動車メーカーはブランドとして確立されたポジションにあり、他業種との接点の持ち方を模索しているようにも感じています。弊社では用地取得、顧客探し、設計、施工、内装といった業務を足掛け3年、N°001南青山に費やしていますが、邸宅作りでは前代未聞のことだと自認しています。ただ、アストンマーティンが求めるクオリティを担保するためには、時間を惜しむことはできないと悟りました。

堀江 でも、アストンマーティンで良かったですよね。彼らの世界観を押し付けてくるのではなく、VIBROAから提案された日本の住宅事情に求められる要件を聞き入れるだけの柔軟性も持ち合わせていたと伺っていたので。デザインやアイディアを一方的に押し付けられるだけでは、良いモノは出来上がらないでしょう。もっと大資本の自動車メーカーだったら、面白いモノは作れなかったでしょうね。

田窪 かつてアンディ・パーマー氏がアストンマーティンCEOだった頃に、私が取り扱っているグローブ・トロッターとアストンマーティンは似ているよねと言われたことがあります。自動車業界を俯瞰して見ると小規模な1社に過ぎないアストンマーティン、ラゲージ業界で見ると小規模な1社に過ぎないグローブ・トロッター、という見方だったようです。でも両社、ブランド力はピカイチだとも。ブランド力を築きあげるのは大変なことですけど小規模だとフレキシブルだし、VIBROAじゃなきゃ絶対に付き合えなかったと思っています。

吉田 通常、設計図が出来上がったらその通りに施工を進めるものですが、N°001南青山はプログラミングで例えるなら”アジャイル開発”でした。アストンマーティンとの打ち合わせは毎週でしたし、施工途中であってもバンバン変更が入ります。大手の不動産デベロッパーでしたら、プロジェクトから降りてもおかしくなかったかもしれません。先ほど田窪さんがおっしゃったように、小規模で柔軟な組織だからこそ応えられたことも事実です。ブランデッド・レジデンスって、単に冠を付けるだけの住居ではありませんから。

田窪 イギリスに行って、アストンマーティンの本社を見学して、フィロソフィーを学び、どういう工場で、どういう思いでアストンマーティン社員が仕事をしているのかを知って、毎週がボクシングのスパーリングで”戦う不動産デベロッパー!”でしたよね。吉田さんの源泉かけ流しみたいな情熱がなければ、相次ぐ施工途中での変更や工期の延長で関係者を納得させることはできなかったと、身内ながら思っています。

堀江 吉田さんはイギリス本国「OCTANE」のキャッチコピー、FUELING PASSIONと同じですね(笑)

吉田 アストンマーティンの工場を見学した際、まず見せてくれたのは縫製の作業風景でした。オーナーが触れる部分はとことん手作業で、作業効率はまるで無視しているかのような風景でした。そして、高いクオリティを見せつけられました。だから我々もN°001南青山を作るにあたって、一切の妥協もしないと心に決めました。我々はアストンマーティンのパートナーの1社に過ぎませんが、私は時としてマレック・ライヒマンCCO(チーフクリエイティブオフィサー)だったら、私がローレンス・ストロールCEOだったら、我々がアストンマーティンの従業員だったら、と思い浮かべながら取り組んでいます。

田窪 ブランデッド・レジデンスはブランドの冠を付けるだけの足し算ではありませんよね。坪効率とか作業効率とか口にしようものなら、ブランドビジネスの根幹を理解できていない、と思われてしまいます。それにしても、VIBROAはつくづく関係者に恵まれましたね。

堀江 本誌の連載に登場している「PLuGG」ですね?

吉田 おかげさまで、我々は不動産デベロッパーとして様々な協力会社の仲間を得ることができています。工期が伸びても、途中で計画が変更になっても、とことん付き合って頂いています。そんな仲間の総称を PLuGGと呼んでいます。通常の不動産デベロッパーの域を超え、お住まいになるオーナー様のコンシェルジュ的な役割が担えるような体制を整えることができたのは嬉しいかぎりです。

堀江 アジア初のDESIGNED BY ASTON MARTIN邸宅ですし、日本国内だけではなく文字通り世界が注目するプロジェクトなだけに関係者の士気が高いのは素晴らしいことですね。

吉田 特に無理を聞いてもらっている施工会社、オノコムの社長はイギリスの AAスクール(王立建築学校)ご出身で、アストンマーティンにお乗りだった、というご縁もあります。

田窪 建築家が施工会社を率いているのは珍しいケースですし、オノコムは”なければつくる”が社名に付随するキャッチコピーですもんね。あとは、やっぱり吉田さんの熱量が周囲を納得させるんだと思っています。

堀江 N°001南青山はそろそろ竣工間近でしょうが、続きもあるわけですよね?

吉田 映画「007」シリーズのように、おかげさまでたくさん続編の計画が入っています。アストンマーティン車だけでなく、アストンマーティンのヘリコプター、アストンマーティンのクルーザーなどで出向ける場所における邸宅作りのお話も頂戴しています。詳細はまだ明かせる段階ではありませんが。

堀江 ブランデッド・レジデンスを手掛ける不動産デベロッパーとして、アストンマーティン以外とのお話もあるのですか?

吉田 アストンマーティンと弊社のパートナーシップは確固たるものですが、ほかのブランデッド・レジデンスを手掛けないわけではありません。実際、いくつか打診が来ている状態です。

堀江 となると、VIBROAのチーフブランディングオフィサーである田窪さんの腕の見せどころですね。「ヴァルカナイズ・ロンドン 青山」は見事なまでに数々の高級ブランドを一か所に集めていらっしゃって、バッティングを起こさせない術があるわけですから。

田窪 ブランドの神髄を理解し、話合うことで理解を得ることはできると思っています。”ブランド”と一括りに言っても、業種が競合しないかぎりはミックス&マッチは実現できるものだと思っています。個人的に好んで使うフレーズは”東京ツイスト”です(笑)。

N°001南青山の竣工が待ち遠しいだけでなく、VIBROAの今後にも期待が高まる。

文:古賀貴司(自動車王国) 写真(インタビュー、車両):高柳 健

協力:(株)ヴィブロア、(株)オノコム、ヴァルカナイズ・ロンドン 青山

Words:Takashi KOGA(carkingdom) Photography:Ken TAKAYANAGI

Thanks:VIBROA、ONOCOM、VULCANIZE LONDON Aoyama

参考資料

https://media.astonmartin.com

aston-martin-applies-its-design-mastery-to-first-luxury-home-in-japan

VIBROA(ヴィブロア)https://www.vibroa.com/