国土交通省および経済産業省は2月末に「第5回 高度物流人材シンポジウム」を開催した。今年のテーマは「新技術や異分野連携によって新たな付加価値を創出できる人材」。いくつかの基調講演の後、異業種の人材をゲストに招いたパネルディスカッションも実施した同シンポジウムの様子をレポートする。
供給制約の解決に向けて
冒頭、国土交通省の鶴田浩久氏が開会の挨拶。その中で、鶴田氏は「国内では人口構造が変化してエッセンシャルワーカーが不足し、『供給制約』が起こっています」と切り出す。言い換えれば、人手不足などの原因で(需要に対する)供給が追いついていない現状がある、との指摘。これを今後、どうやって改善していけば良いのだろうか?それには「物流を改善する」「物流で改善する」の両方が必要ではないか、と続ける。
「供給制約を乗り越えるには、担い手の処遇改善がマストです。でも今の物流のあり方のままドライバーの処遇だけ上げる・上げない、で議論しても明るい展望は開けません。ウィンウィン、三方良しを実現するには効率化と生産性の向上が必要になる。これまでの数十年間で物流業界は少量・多頻度化が進みましたが、昨今の人口構造の変化を踏まえ、今後は効率性をどうリバランスしていくか、が大事になるのではないでしょうか。学問の世界も、これまでは細分化・断片化が進んできましたが、現在は人口減少にともない、統合化の転換点を迎えています。そういった意味では私たちは今、様々な課題を乗り越えるチャンスの時代に生きていると言えるかも知れません」(鶴田氏)
次に、東京大学の西成活裕氏が「荷主企業と高度物流人材」をテーマに基調講演を行った。西成氏は、CLO(Chief Logistics Officer、物流統括管理者)には業界の全体像を見渡せる人が望ましい、しかし最新技術・財務・ビジネスモデル・倫理のすべてに精通する人物は国内でも数人しかいない、そのため「高度物流人材チーム」を編成すべきだ、という持論を展開する。
たとえば物流に関連した最新技術には、数理最適化、データ解析、ロボット技術などがある。「なんと言っても、最近話題にあがるのはLLM(大規模言語モデル)です。LLMに『いまどのくらいの段ボールがありますか』と聞けば、コンピュータビジョンが正確に答えてくれる、そんな時代になっています。様々な場所でこうした重要技術が使われつつあり、これを頭に入れておく必要があります」と西成氏。
ビジネスモデルについては「つまり儲けられるか、ちゃんと自前で回していけるか、ということです。補助金だけでやっていても2年くらいで終わりが来ます。ではビジネスモデルを作るために、なにが大事になるでしょう。それは異業種やライバル企業との間で『競争』と『協調』をうまく線引きしながら連携していくことです。私は、アサヒ飲料さんと日清食品さんによる共同輸送の事案を聞いて感激しました。ビールは重いので、トラックに満杯まで積むことはできません。すると貨物の上のスペースが空くわけですが、そこに軽量のカップラーメンを積んで運ぶというアイデアです。ビールがよく出るのは夏、カップラーメンが売れるのは冬ということで、積載率の平準化もうまいことできています」。
最後には「荷主企業に必要なのは、様々な分野に精通するスペシャリストたちであり、複数の分野に理解がある高度物流人材。それはCLOを支える人材であり、自身が将来CLOにもなれる人たちです」といった見方を示して基調講演を終えた。
パネルディスカッション
続くパネルディスカッションでは東京大学の西成教授がファシリテーターを務め、伊藤忠商事の長谷川真一氏、三井不動産の大間知俊彦氏、国土交通省の木村大氏、オプティマインドの松下健氏に話を聞いた。
”異分野連携”という文脈の中で三井不動産の大間知氏は、先の基調講演で西成教授が話した内容に親和性を感じた、と明かす。「そもそも私たち不動産ディベロッパーと言われる企業は、プロジェクトをマネジメントするのが仕事です。専門性の高い人たち、具体的には設計者、建設会社、インテリアを扱う企業、アパレルや飲食など、各分野のプロフェッショナルを束ねてオーケストレーションしていく力が必要とされます。予算・体制・スケジュールを管理して、現状の問題点を可視化して、課題を抽出して対応策の仮説を立てて、そのために必要な専門性を定義してチェックして回していく、ということをやっています」と大間知氏。先の講演で西成教授が「CLOには業界の全体像を見渡せる人が望ましい」「高度物流人材チームを編成すべき」とした内容に共感したようだった。
伊藤忠商事の長谷川氏は、プロジェクトを進めるときの極意について説明。「メンバー全員が知的好奇心を持てるような環境を用意することが重要で、そのためには時間がかかっても良いので”ブループリント”を書くことを勧めています」とする。「たとえば世の中にある課題、企業内の課題、部門の課題、お客様との間にある課題などを洗い出して、すべてが解決に向かうロードマップをえがく。専門的なことは専門家に聞くことも必要です。とりあえずラフスケッチができたところで、はじめてチームを巻き込む。すると『ここまでの絵ができているなら、ひとつの議論になるよね』ということで、メンバーの好奇心が増します。こうしたやり方で進めることで、課題を解決できると考えています」と話した。