配信者はなぜ狙われるのか、女性ストリーマーたちが直面するストーキングの現実 米

Twitchで活躍する米・女性ストリーマーたちが、配信中にストーカーや脅迫の被害を受けている。ゲーム配信という身近な場所が、いつの間にか彼女たちにとって危険な空間へと変わってしまったのだ。いま、彼女たちに何が起きているのか。その背景を追った。

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レイチェル ”ヴァルキュレイ” ホフステッター、ブリタニー ”シンナ” ワッツ、そしてエミリー ”エミル” シュンク。彼女たちはTwitchで圧倒的な人気を誇る配信者であり、SNSのフォロワー数はそれぞれ数百万にのぼる。これまでの配信を通じて、彼女たちは巨大なコミュニティを築き上げてきた。そのファンたちは、彼女たちがゲームをプレイしたり、ブートキャンプに参加したり、料理対決をしたり、時にはカメラマンを引き連れて現実世界を歩き回る──いわゆる「リアル配信(IRL配信)」を楽しむために集まっている。

そして3月2日、その「IRL配信」が、一瞬で安全なものから危険な状況へと変わった。

それは、「Sis-A-Thon(シス・ア・ソン)」と題された数日間にわたる配信マラソンの一幕だった。ヴァルキュレイ、シンナ、エミルの3人は、夜のサンタモニカ・ピアを2人のスタッフと共に訪れた。そのうちの1人が、配信用のカメラを担当していた。3人は現地でファンと写真を撮ったり、談笑したり、終始リラックスした様子で歩き回っていた。

だが、ある瞬間、それは破られた。アトラクションのそばにしゃがみこんでいた半袖のボタンダウンシャツを着た男が3人を呼び止め、「自分の歌を聞いてほしい」と話しかけてきたのだ。しかし突然、男は態度を変え、エミルに電話番号を尋ね始めた。彼女が断ると、男は「じゃあ、ずっとついていくだけだ」と言い放った。

女性たちは、ピアの出口へと足早に向かいながら、「ストーカーかもね」などと不安を紛らわせるように冗談を交わしていた。しかし、その直後、あの男が再び現れ、またもや3人に近づこうとした。だが、カメラマンと、もう1人映っていないスタッフが男を制止し、彼女たちを守った。そのとき、ヴァルキュレイたちの顔は明らかにこわばり、声にも怯えがにじんでいた。そして次の瞬間、男は3人に向かって飛びかかるような動きを見せ、「今ここでお前らを殺してやる」と叫んだのだ。女性たちは悲鳴を上げながら警備員を呼び、必死でその場から逃げ出した。

この一部始終はTwitchの配信で生中継されており、その直後、配信画面はヴァルキュレイとシンナのイラストに「BRB Traveling(ちょっと移動中)」という文字が添えられた待機画面に切り替わった。

サンタモニカ警察は、Rolling Stoneの取材に対しメールでこう回答している。「サンタモニカ・ピアで、ある個人がグループに対して脅迫的な発言をしたとの通報を受け、警官が現場に出動しました。警官は関係者と接触し、安全確保のためにエスコートを実施しました。また、当該人物の捜索も行いましたが、その時点では発見に至りませんでした」。

事件の翌日、シンナとヴァルキュレイは再びTwitchの配信を行い、今回の出来事について語った。彼女たちはあの男から逃げるために近くの店に駆け込んだことを明かした。「アイツはまだ外にいる。でも私は、できる限りの手段を使ってアイツを見つけ出そうとしてる」。そう語るヴァルキュレイの隣で、シンナは涙をこらえきれずにいた。なお、ヴァルキュレイ、シンナ、エミルの3人はRolling Stoneのインタビュー依頼には応じなかった。

Twitchの担当者はRolling Stoneの取材に対し、こうコメントしている。「ハラスメントや暴力的な行為は、たとえTwitch外で起きたことであっても、私たちは強い憤りを感じています。現在、安全管理チームが継続して調査を行っています。Twitchはクリエイターとその安全を最優先に考え、彼女たちがしっかりとサポートされるよう努めています」。

今回の事件が起こる数日前まで、シンナとヴァルキュレイは、お互いの髪をアレンジし合ったり、ゲームをプレイしたりと、いわゆる「お泊まり会」風の配信マラソンを続けていた。しかし、この配信は、反動的なコンテンツクリエイターたちの標的にもなっていた。たとえば、ダニエル ”キームスター” キームが運営するX(旧Twitter)のアカウント「DramaAlert」は、クリエイター同士のゴシップを拡散することで知られているが、彼らの投稿は女性配信者を貶め、「その振る舞い」を批判し、彼女たちのコンテンツは人気男性ストリーマーのそれよりも劣っている──といったメッセージを広めていた。

今回の襲撃が、3月2日に至るまで女性たちが受けていたデジタル上での誹謗中傷によって引き起こされたという証拠は現時点ではない。しかし、こうした出来事は、非常に深刻な傾向の一端を示している。

Rolling Stoneの取材に応じた著名な女性ストリーマー数名によれば(そのうち2人は実際にストーカー被害を受けた経験がある)、今回の事件は、女性配信者たちが日常的に直面している「オンライン」と「現実世界」の両方での嫌がらせやストーキング行為の氷山の一角にすぎないという。これらは、デジタル空間に根深くはびこるミソジニー(女性嫌悪)が生み出す”症状”のようなものだ。

オータム・ローズは新米ママであり、同時に人気コンテンツクリエイターでもある。彼女は10年以上にわたってゲームとストリーミングの世界で活躍しており、Xのフォロワーは8万2000人以上、Twitchでは24万人以上のフォロワーを抱え、過去にはプロeスポーツの舞台にも何度も立ってきた。

しかし、その輝かしいキャリアは、しつこく執着するストーカーによって大きく傷つけられてきた。ローズは、このストーカーから19歳のときから現在に至るまで、SNSを通じて何万通もの性的に露骨で、さらに脅迫的な内容のメールやダイレクトメッセージを送り付けられていると語る。現在、ローズは28歳──その間、被害は止むことなく続いている。

「Twitchでは、お気に入りの配信者をサポートするために投げ銭するのは、すごく普通のことなんです」と、オータム・ローズはビデオ通話越しに説明する。「私は16歳の頃から一人暮らしをしていて、大学の学費を自分で貯めていたから、その収入は本当に大事だった」。けれども、そんな彼女を支援していたある”気前のいい”ドナーが、次第に自分に特別な権利があるかのように振る舞いはじめたという。Twitchのチャットで彼の存在に触れなかったことをきっかけに、態度は急激に険悪になった。

「当時、元パートナーが医者を目指していたこともあって、私生活はできる限り秘密にしていたんです」とローズは振り返る。「でも、そいつは私に恋人がいることを知ってから、一変しました。突然、メールが山のように送られてきて──『お前を殺してやる』『カナダまで飛んで行って、お前と彼氏を見つけてやる』みたいな内容ばかりでした」。

ローズは、その男から送られてきたとされるメール、テキストメッセージ、SNSのダイレクトメッセージのスクリーンショットをRolling Stoneに共有している。今回の記事では、その男の実名は伏せられているが、メッセージの内容はあまりにも過激だ。たとえば、自分の資産をローズに譲渡するという”契約書”を勝手に書いて送りつけたものもあれば、「警察に通報しろよ、クソ女──お前の運命はもう決まった」といった嘲りのメールや、「俺を逮捕させてもいいが、俺が殺されるように祈っておけ。お前が俺をダメにしたんだ」などという脅迫的なメッセージもあった。TikTokでは「お前は苦しむことになる──よく聞け、ビッチ。お前はもう死んでいるも同然だ」といったダイレクトメッセージまで送られてきたという。

カナダを拠点にしていたローズは、彼が住んでいたカリフォルニア州の警察にこの行為を何度も通報した。「でも、何も変わりませんでした。そいつは嫌がらせをやめなかったし、結局、逮捕されたのは私が22歳のときです。それまで3年、4年、毎日、毎日、嫌がらせを受け続けていました」。そう語るローズの声は震えていた。「本当に、いつ死ぬんだろうって思ってました。もう、うつ状態で、怖くて仕方なかった。何年も生き延びることしか考えられなかったのに、誰も助けてくれなかった。警察も、何もしなかった。Twitchも、何もしてくれなかった。ただ状況はどんどん悪化していったんです」。

ローズにとって、ストリーミングは主要な収入源だった。だが、その収入を得るための場所は、今や恐怖と嫌がらせに満ちた地獄と化していた。その数年間、彼女はリアルイベントへの参加を断念することが続き、キャリアにおける数々のチャンスも失ってしまった。「Twitchに連絡したのを覚えてる。『TwitchConに行きたいんだけど、怖くて』って相談したんです」。そう振り返るローズ。「そしたら返事がきて、『うん、TwitchConには行かない方がいい。安全じゃないから』って言われたんです。それってつまり、私の仕事にも生活にも影響を与えてるってことなんですよ」。

この件について、TwitchはRolling Stoneに対して次のようにコメントしている。「ここ数年、私たちはTwitchConの安全対策を見直し、強化し続けています。イベントのセキュリティは最優先事項であり、妥協はありません」。

しかし、ローズは当時、自分が「放置された」と感じている。「女性は、こんな目に遭っても、何度も何度も声をあげて『助けて!』って叫ばないといけない。それなのに誰も助けようとしない。そんな現実が、本当に腹立たしいんです」。彼女は悔しさを隠さない。

ローズを恐怖に陥れていた男は、最終的に2019年12月に逮捕された。報道によると、逮捕時、彼は「撃ってくれ」と懇願し、ベイエリア警察によってテーザー銃(スタンガン)を使用されて取り押さえられたという。2019年2月には、重罪としてのストーキング行為1件と、軽犯罪としてのストーキング行為1件について争わずに有罪を認め、禁錮120日の判決を受けている。

現在、ローズはパートナーと幼い子どもと共にアメリカに住んでいるが、彼女は今もなお「またあの男が自分を探しに来るのではないか」という不安と隣り合わせで暮らしている。

オータム・ローズ、Twitchストリーマー(写真提供:オータム・ローズ)

詳細こそ異なるものの、このストーリーはTwitchで活動する多くの女性たちにとって「他人事」ではない。「ある男が配信を見始める──そして、やがてその男は執着を深め、ファンから常習的な嫌がらせやストーカー行為に至る」。そんなパターンが、何度も何度も繰り返されているのだ。

ジョナ・メイは、「ミセス・メイ(MissesMae)」の名前で知られる人気ストリーマーだ。2012年からオンラインコンテンツを制作しており、配信業界ではベテランの一人である。彼女のパートナーであるマイク ”ディーゼル” カーもまた、よく知られたゲーム界のインフルエンサーだ。二人は一緒に配信をすることも多いが、まさか「ストーカーに狙われる」という経験まで共有することになるとは思っていなかった。メイによれば、ある男が彼女のFacebookをフォローし始めたのがきっかけだった。当時、メイはFacebookの配信プラットフォーム拡大に貢献するコンテンツクリエイターの一人だった。今回も、Rolling Stoneではその男の名前は伏せられている。

「最初はすごく礼儀正しく、感じのいい人だったんです。でも、ある時から突然、配信中のチャットで不適切なことを言い始めました」と、メイは説明する。「もう、支離滅裂なことを延々と書き込んできて、どんな内容でもとにかく自分に注目させようとしてくるんです。だから私も、『ちょっと落ち着いて』って言ったんですよ」。

ところが、その男は今度はディーゼルことカーのTwitch配信にも現れ、同じような行動をとるようになった。「たぶん、薬でもやってるんじゃないかって思ったよ。だって、書いてることがめちゃくちゃだったから」と、カーは振り返る。「最初は意味不明なことばかり書いてたかと思ったら、突然、完全に狂ったような、性的なことをぶつけてきたんだ」。

ローズのストーカーと同様に、カーとメイに嫌がらせを続けていたその男も、Twitchやその他のプラットフォームで何十ものアカウントを作り直し、しつこく2人に付きまとった。「すぐにわかるんだよ。まるで自分が誰なのか隠そうとすらしていなかった」と、カーは語る。昨年末、メイがメールの迷惑フォルダーをチェックしていたときのことだ。探し物をしていたはずが、そこには例の男からの嫌がらせメッセージが大量に溜まっていたという。「Gmailの迷惑フォルダーは30日ごとに自動で削除されるから、それ以前の2年間にどれだけのメッセージが送られていたか、想像するだけでゾッとするんです」とメイは話す。

カーの迷惑フォルダーにも同じ男からの大量のメッセージが届いており、その中には「ミセス・メイを”買いたい”」という内容まであったという。不気味な状況が続いていたが、それでも2人はコンテンツ制作を続け、公の場にも姿を見せていた。2024年にはカリフォルニア州サンディエゴで開催されたTwitchConにも参加している。だが、その週末に事態はさらに悪化した──ただし、それはTwitchのイベント会場ではなかった。

TwitchはRolling Stoneに対し、次のようにコメントしている。「無期限停止処分を受けたユーザー(Twitch外での違反行為も含む)は、TwitchConのチケットを購入できません。アクティブアカウントを持っていないためです」。このポリシーのおかげで、サンディエゴ・コンベンションセンターで開催されたTwitchCon 2024の会場では、その男が2人に近づくことはできなかったのかもしれない。だが彼は、同じ週末に2人が訪れていたサンディエゴ・パドレスの試合会場で2人を見つけ出したのだ。「私たちはパドレスの大ファンなので、その週末はホワイトソックス戦を3試合観に行ったんです。最初の2試合では、そいつから『今から試合に行くつもりだ』っていうメールが届いてたから、3試合目のときは試合のことをSNSに一切投稿しなかったんです」と、メイは説明する。

だが3試合目の終盤、カーとメイが席を立とうとしたそのとき、男が近づいてきて「写真を撮らせてほしい」と話しかけてきた。「最初は、誰だかわからなかったんです」と、メイは振り返るが、カーはすぐに相手が誰なのかを察知し、「今すぐここを離れよう」と彼女に告げた。その後、メイは彼が自分たちを見失うことを願いながら、人ごみの中に紛れるようにしてスタジアムのトイレに隠れた。「結局、20分以上もトイレに籠もっていたんです」。TwitchConの週末を終え、シカゴの自宅に戻ったメイとカーは、「このままではいけない」と決意した。弁護士をしている友人が協力を申し出てくれ、2人はそのストーカーの身元と居場所を突き止め、大量の証拠を一冊の分厚いバインダーにまとめた。そしてメイは、その証拠を持って地元の郡事務局へ赴き、緊急の接触禁止命令を申請した。

彼女たちが最も「決定的な証拠」として挙げたのは、男から送られてきたある一通のメールだった。そこには、こう書かれていた。「俺はお前に自分の精子をジップロックに入れて送ったんだ。お前がそれで妊娠できるようにって。でも、送り返されちまった。お前はもうその私書箱を使ってなかったから……。でもさ、悪気はないんだ。ただ、本当にお前のことが好きなだけなんだよ」。

さらに、男はパドレス戦の試合に来ていたことや、メイがそのとき履いていたパンツを褒めるような内容のメールまで送ってきていた。こうした証拠が積み重なり、メイは緊急の接触禁止命令を得ることができた。そして今年1月、イリノイ州クック郡巡回裁判所で、正式に2年間の接触禁止命令が発令された。

「2年も続いたあの状況から解放されたときは、本当に大きな安堵感がありました」と、メイは語る。「でも、その安心はずっと続くわけじゃない。今でもまだ不安は消えないんです…。ああいう経験は、心にずっと残るんですよ」。

裁判所を通じて、あるいはその他の手段で、ストーカーから身を守ることに成功したストリーマーは、メイやローズだけではない。だが、法的手続きを取るというのは、莫大な費用と複雑な手続きを伴い、誰もが気軽に挑めるものではない。そして、法執行機関はいまだにオンラインでの嫌がらせやストーキングに対して、十分な対応が取れていないのが現状だ。そこに加えて、インターネットに蔓延する女性嫌悪(ミソジニー)の空気──被害女性たちの体験をあざけり、あるいは「そんなことは起きていない」とまで言い切る風潮がある限り、多くの人にとって、こうした問題は「乗り越えられない障壁」となってしまう。

ヴァルキュレイ、シンナ、エミルがサンタモニカで直面したリアルな脅迫とストーキング行為の後も、X(旧Twitter)やその他のSNSでは、彼女たちを嘲笑し、誹謗中傷する投稿が相次いだ。なかには、事件の数日前から彼女たちを揶揄していた同じアカウントも含まれており、「すべてヤラセだ」「状況を大げさに騒ぎ立てているだけだ」といった憶測や中傷が拡散された。

ヴァルキュレイは、3月2日にX上で声明を発表している。「ノーはノー。誰かに所有権があるわけじゃない。私たちは集団で、公衆の面前で、しかも配信中に拒絶の意思を示したのに、それでも男は私たちの命を脅かした。それが、女性が生きる現実なんです。カメラが回っていないところで、女性たちは毎日のようにこうした状況に直面しています」。

ポリティクスとポップカルチャーの交差点をテーマに配信しているバラエティ・ストリーマー、キャロライン・クワンはRolling Stoneにこう語っている。「この世界でストーカー被害に遭っている女性たちは、その経験を公に語ることは滅多にありません」。「エミル、シンナ、ヴァルキュレイにあの事件が起きたあと、私自身だけじゃなく、他の多くの女性ストリーマーたちからも、普段はなかなか見せないような怒りの声がXにあふれていました」。そう語るのは、ストリーマーのキャロライン・クワンだ。「それは、抑えきれずに噴き出した怒りそのものでした。あまりにも多くの女性ストリーマーが、これまで恐ろしい経験をしてきたんです。でもそれって、すごく難しい問題なんですよ。一方では、自分の経験をシェアすることで、この問題に光を当てることができる。でも、同時に、自分自身がさらにターゲットになってしまう可能性もある。そうなると、嫌がらせをしている連中にとって”勲章”みたいなものになってしまうかもしれないんです」。

そして、こうした問題は、トップクラスの女性ストリーマーだけが直面しているわけではない。「これは全てのレベルで起こっています。たとえば、同時視聴者数が20人の女性ストリーマーにも、500人のストリーマーにも、普通に起こっているんです」と、クワンは続ける。「みんな、『ストリーマーって名前を聞いたことある人なら、きっとお金持ちなんだろう』って思ってる。でも、そんな人はほんの一握りですよ」。ちなみに、2023年にポキマネは「自分の資産は200万ドル(約3億円)を超えている」と公表しているが、クワンによれば、彼女のような一部の成功したクリエイターでさえ「毎月何千ドル(数十万円)もセキュリティ対策に費やしている」という。

シンシア・ミラー=イドリスは、過激主義と分断を研究する「PERIL(Polarization and Extremism Research and Innovation Lab)」の創設ディレクターだ。彼女によれば、オンライン上の女性差別(ミソジニー)は過去15年間、常にそこにあり続けている。「私たちは、オンライン上の女性差別が増加し続けているというデータを追跡してきました。これは2011年以降、確実に増え続けていることが記録されています」と、ミラー=イドリスは語る。

ジョナ・メイ(「missesmae」名義で配信)写真撮影:ウリエル・エスピノーザ

「この女性差別(ミソジニー)の可視化とエスカレートは、あらゆるレベルで起きています──小学生、中学生、大学生……そして、それが現実の暴力や脅迫へと発展するのも、私たちが目の当たりにしているオンラインのトレンドの一部なんです」。そう語るのは、PERIL(Polarization and Extremism Research and Innovation Lab)の創設ディレクター、シンシア・ミラー=イドリスだ。「今の政治的な空気の中で、若い男性たちが、まるで女性や女性の身体をコントロールする”権利”を得たかのように錯覚し、それを行動で示そうとする。ときには物理的な”所有”のように振る舞うケースまで増えているんです」。

ジョナ・メイやオータム・ローズを執拗につけ回した男たちも、まさにその典型だ。彼らは、自分たちが女性を「所有している」とでも言わんばかりの態度を取り、その「所有権」が否定された瞬間に、暴力的な言葉や強迫的な行動に走った。ヴァルキュレイ、シンナ、エミルに対して脅迫を行った男も、恋愛感情を拒絶された直後に行動をエスカレートさせた。こうした現象は、男性の間ではあまりにも一般的になりつつある。

2018年にアメリカ心理学会(American Psychological Association)のジャーナルに掲載された研究によると、「性的支配への動機づけが高く、カジュアルな性行為への肯定的態度を持つ男性は、女性に拒絶された場合、その女性に対して極めて敵対的な認識を形成し、攻撃的に反応する可能性が高い」とされている。

つまり、オンライン上のミソジニーは、単なる”デジタルの問題”ではない。それは現実の社会にも確実に波及しており、実際に被害が発生している。「X(旧Twitter)がますます”掃き溜め”のような空間になり、Meta(旧Facebook)もコンテンツのモデレーション(投稿監視)ガイドラインを大幅に削除してしまった。こうした基準が消えたことで、何が『ヘイト』に該当するのかというルールが曖昧になっている。それが女性に対するヘイトを助長しているんです」とミラー=イドリスは指摘する。

「いまや、平然と『女性は財産だ』と言うことができる。『LGBTQの人々は精神的に病んでいる』とも言えてしまう。そうした言説に”正当性”を与え、普通のことのように扱わせる風潮が広がっている。もちろん、DEI(多様性・公平性・包括性)に対する反発が強まる今の空気も、事態を悪化させている。この現状が被害をエスカレートさせていないはずがない、と私は思います」。

ミラー=イドリスによれば、ミソジニーはしばしば「女性の可視性」に対する異常な執着という形で現れるという。そして現代社会において、Twitchの女性ストリーマーほど「目立つ存在」はなかなかいない。「私が採用しているミソジニーの定義は、ケイト・マンのものです。それは『女性に対する憎悪』ではなく、『男性優位社会(パトリアーキー)の法執行機関』だという考え方なんです」と、ミラー=イドリスは説明する。「つまり、パトリアーキーが女性に課そうとする性別役割や期待──”従順であること”、”控えめであること”、”人前に出ないこと”、”リーダーにならないこと”──そうしたルールを女性が破ったとき、ミソジニーがそれを取り締まろうとするんです」。

こうした構造を理解することは、キャロライン・クワンにとっても重要な問題だ。彼女は自身のTwitch配信でもこのテーマをよく取り上げているが、ヴァルキュレイ、シンナ、エミルに起きた事件についても「社会全体がその背後にある力を認識する必要がある」と語る。「これは偶然起こったことじゃないし、たまたま1回限りで起きた事件でもないんです」と、クワンは強調する。そのうえで、事件直後にネット上で見られた反応に話題を移した。

「女性ストリーマーに起きている問題は、根底にあるミソジニーの結果です。そして、それを助長しているのが、キームスターのようなアカウントや”炎上狙い”のアカウントなんです。彼らは女性に対する憎悪や嫉妬、怒りを煽り、それを育てている」と、クワンは指摘する。「事件の2日前、DramaAlert(キームが運営するアカウント)がこんな投稿をしていたんです。『ポキマネとそのクローン(ヴァルキュレイとシンナ)は、ついにその”振る舞い”を批判された』って。でも、”その振る舞い”って何? いったい何を言ってるの? って思いましたよ」(なお、DramaAlertの運営者であるキームスターは、Rolling Stoneからの取材依頼に対してコメントを拒否している)

クワンは続ける。現在の政治的状況こそが、ミソジニーを助長しているのだと。「これは、より大きな”考え方”を象徴しています。ドナルド・トランプに投票した人たちの多く、そして多くの若い男性たちが、『自分たちは”目覚めた社会(ウォーク・ソサエティ)”によって犠牲者にされている』と感じている。女性やトランスジェンダー、その他のマイノリティが進歩の恩恵を受けていることで、自分たちが”損をしている”と思い込んでいるんです」。

正義を求める、果てしない闘いヴァルキュレイ、シンナ、エミルは、彼女たちを脅迫したをまだ法の裁きにかけることができていない。そして、ジョナ・メイやオータム・ローズ、マイク・カーらも、警察や裁判所、そして世間から「真剣に受け止めてもらえない」という現実に苛立ちを募らせている。これもまた、ミソジニーが根深く染みついた文化の副作用だ。

ローズは語る。「警察がまともに動いてくれるまでに、私は”このままだと全てを公表する”って脅すしかなかったんです。でも、フォロワーがいない人たちや、それができない女性はどうなるんでしょう?」怒りを込めて、ローズは問いかける。「とにかく、粘り強くやるしかないんだ」。カーはローズの言葉にうなずきながら、こう続ける。「悲しいけど……でも、根気よく続ければ、必ず道は開ける」。

そもそも、ハラスメントやストーキングをどうやって防ぐのか? 多くの人が考えているのは、X、Meta(旧Facebook)、YouTubeのようなプラットフォームが、ミソジニーを助長するような過激な投稿を削除する「倫理的責任」を果たすべきだということだ。Twitchに関しては、配信者側でチャット機能を制限し、「認証済みアカウントのみコメントを許可する」という設定が有効だという声もある。ただ、それだけでは万全とは言えない。そもそも「電話番号を渡すのは抵抗がある」と認証を拒むユーザーも少なくないし、悪質なユーザーはこれまでにも複数のアカウントを作成し、BAN(禁止措置)をすり抜けてきた歴史がある。

TwitchはRolling Stoneの取材に対し、クリエイターをより安全にサポートするため、さまざまな安全対策ツールを提供していると説明している。「専任のコンテンツモデレーターの配置」や「コミュニティを保護し、有害な行為を防ぐための幅広いツール」がその一例だという。また、「Shield Mode(シールドモード)」という機能もあり、これは「ストリーマーがワンクリックで安全設定をすべて有効化できる」仕組みとなっている。さらに、「AutoMod(オートモデレーター)」機能では、「チャット内の有害となり得るメッセージを自動でブロック」することができる。Twitchによれば、このAutoModは、すでに80%以上の配信者によって有効化されているという。

さらに、Twitchの担当者はこう付け加える。「Twitch外での違反行為も想定し、オフサービスポリシー(Twitch外での規範違反への対応ガイドライン)を設けています。これにより、Twitch以外でポリシーに違反した場合でも、当該アカウントに対して制裁を科すことが可能です」。

ストーカーによる複数アカウント作成についても、Twitchは「BAN回避行為の取り締まりを継続しており」、「”疑わしいユーザー検出ツール”を導入しています。これは、過去にそのチャンネルでBANされた可能性があるユーザーが視聴している場合、配信者に通知が届く仕組みです」。

キャロライン・クワン/Twitchで自らの名前をハンドルネームとして活動するバラエティストリーマー 写真撮影:ルーク・フォンタナ

しかし、Twitchのようなプラットフォームがどれだけ対策を講じても、オンライン上の嫌がらせが「現実世界での危険」に発展するのを完全に止めることはできない。この問題はシステムそのものの中に深く根付いており、現代社会から簡単に取り除くことはほとんど不可能にも思える。

「コンテンツのモデレーションは効果があります」。そう語るのは、PERILのディレクター、シンシア・ミラー=イドリスだ。「ただし、もっと予防的な介入が必要なんです。たとえば、私たちが10代の男の子たちに最も効果的だと感じるアプローチは、オンラインインフルエンサーたちがいかに彼らを操っているかを説明することです。インフルエンサーたちは、怒りやスケープゴート(責任転嫁)を煽るコンテンツを売りつけることで、孤独感やその他のリアルな悩みを抱える彼らを巧妙に操作している。それを理解させることが大切なんです」。

このような行動は、若い男性たちの間で進行しているメンタルヘルスの危機を示しているとも言えるが、キャロライン・クワンは、ヴァルキュレイ、シンナ、エミルに起きた出来事を受けて、私たちが違う問いを投げかけるべきだと訴えている。「『なんで彼女たちは警備をつけなかったの?』とか『なんでああしなかったの?』っていう質問は、もうやめるべきなんです」とクワンは語る。「本当に問いかけるべきなのは、『なぜあの男は、あれほど大胆に女性をつけ回すことができたのか?』『なぜこの社会は、ああいう男を”あの行動”へと駆り立てるのか?』そこを見ていかないといけないんです」。

クワンが繰り返し指摘するように、ヴァルキュレイ、シンナ、エミルに起きた事件は”たまたま”でも”例外”でもない。ストーカーはTwitchストリーマーだけを狙うわけではなく、彼女たちは単に「より目立つ存在」だったというだけのことだ。

2022年2月には、TikTokの若きスター、エイヴァ・マジュリーがストーカー被害に遭い、彼女の父親が自宅に侵入してきた武装した10代の男を射殺するという事件が起きた。マジュリーによれば、その少年は何ヶ月にもわたって、TikTok上でも、現実世界でも彼女をつけ回していたという。2023年3月には、ポッドキャスターのゾーレ・サデギとその夫モハマド・ナセリが、かつて彼女が保護命令を取っていた男に殺害される事件が起こった。犯人は、音声チャットアプリ「Clubhouse」でサデギと知り合った後、彼女やその友人たちに執拗にメッセージを送り続けていたという。

そして、こうした事件は、決して著名人やインフルエンサーだけの話ではない。元同僚や元恋人など、一般女性が男性のストーカーに命を奪われるケースは後を絶たない。たとえ警察に助けを求め、保護を求めたとしてもだ。

幸いにも、ミセス・メイ、オータム・ローズ、ヴァルキュレイ、シンナ、エミルは、ストーカーによる身体的な被害は受けなかった。しかし彼女たちは皆、加害者を法の裁きにかけるまでの過程や、自らの経験をSNSなどで発信する中で感じた「フラストレーション」を口々に語っている。それは、被害を公表しても軽んじられたり、信じてもらえなかったりすること。警察や司法当局に何度も何度も訴え続けなければ、自分たちの声すら届かない現実。そして、彼女たちにはまだ発信力や支援してくれる人々がいたからこそ声をあげることができたが──「他の女性たちも、同じように助けを求める手段を持っているだろうか?」という、深い懸念だった。

取材の終わりに、ローズは「メンタルヘルスへの支援」の重要性について改めて語ってくれた。この種の加害行為を予防するためにも、心のケアとサポートは欠かせない。そして彼女は、娘によりよい未来を残すために尽力し続けたいと誓う。

「私は、あの子にもっといい世界を残してあげたい」ローズは涙を浮かべながら、そう話してくれた。「娘には、怖い思いをさせたくないんです」。

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