フレンチブルーの衝撃|ヴァンセンヌの森に響くルノー R8 ゴルディーニの咆哮

車好きが集まると「どんな車が好きか?」という話題になる。趣味や嗜好はそれぞれだが、見るからに速そうなスポーツカーを好む人もいれば、ゆったりと余裕を持って走れる豪華な内装の車を好む人もいる。一方で、見た目は普通ながら、ひとたびアクセルを踏み込めば周囲の車を置き去りにできる”羊の皮を被った狼”のような車を好む人もいる。今回紹介するのは、まさにそんな車、ルノー R8 ゴルディーニだ。

【画像】シンプルなスタイルにホットな中身。R8 ゴルディーニの外観とディテール(写真28点)

ルノー8は、ドーフィンの後継車として1962年に登場した小型セダンで、リアエンジン・リアドライブを継承。最大排気量1100ccの4ドアセダンを、アメデ・ゴルディーニが魔法のようにチューンアップしたのがルノー R8 ゴルディーニである。

このR8 ゴルディーニのオーナーはトニーさん。彼の父親がルノー8に乗っていたことから、自分が手に入れるなら「ゴルディーニ」と決めていたという。そして50歳の誕生日に、奥さんがプレゼントしてくれたのがこのR8 ゴルディーニだった。以来14年間、愛車として付き合い続けている。

彼はル・マン クラシックをはじめ、サーキットやラリーへの参加にも積極的だ。そのR8 ゴルディーニへの愛は、彼の装いからも伝わってくる。先週のイセッタ撮影時は暑くて袖をまくるほどだったが、今朝は冬が戻ってきたような寒さ。そんな中、ゴルディーニの象徴的なフレンチブルーに合わせた冬用のレーシングジャケットを着用し、さらにラリーやサーキット用のヘルメットもフレンチブルー、Gordiniのロゴ入りだ。

今回の撮影のためにトニーさんと待ち合わせたのは、ヴァンセンヌ旧車クラブのミーティングが開かれるヴァンセンヌ。そのヴァンセンヌ城で待ち合わせ、ヴァンセンヌの森を走り出した。ミーティングがない日は当然ながら中には入れないためだ。

ヴァンセンヌの森はパリ最大の緑地で、ほぼ1000ヘクタール(東京ドーム213個分)の広さを誇る。競馬場、動物園、植物園などがあり、日曜の早朝にはジョギングやサイクリストで溢れかえる。寒い朝ながら、多くの人々が薄曇りの下、屋外へと繰り出していた。子どもたちもサッカーの練習に集まり、家族連れの姿も多く見られた。

そんな森の中で撮影を開始。フォグランプを灯したゴルディーニは、周囲に違和感なく溶け込んでいた。先週、イセッタを撮影したときは道行く人々が振り向き、子どもも大人もはしゃぎながら指をさしていた。しかし、ゴルディーニはカラーリングこそレーシングカー然としているが、スタイルはシンプルなセダン。これがかつてモンテカルロ・ラリーで暴れ回り、ツーリングカーレースで活躍したモデルとは想像できないのだろう。

むしろ注目を集めていたのは、レーシングスーツに身を包んだトニーさんだった。彼が運転席に乗り込み、イグニッションを回すと、デヴィル管から迫力のあるサウンドが響き渡る。その瞬間、それまで素通りしていた子どもたちも振り返った。さらにフォグランプが美しく光り、ゴルディーニが走り出すと、子どもたちは興味津々の様子で指をさした。

室内は意外にも広く感じられる。シートは個別だが、ドライバーとパッセンジャーを隔てるものはなく、開放感がある。リアエンジンのため、リアシートの奥からエンジン音が聞こえるが、レーシングカーのような騒々しさはない。よく吹け上がるエンジン、そしてフロアから伸びたシフトノブは、最初は懐かしいバスの運転席を思い起こさせた。しかし、5速になったギアの動きは小気味よく、まさにレーシングマシンのようなフィーリングだ。

そして何より、キビキビとした走り。完璧に手入れされたこの車は、トニーさんの几帳面な性格を反映しているようだった。日曜の早朝、"羊の皮が剥がれ落ちない程度にジェントルに"、ヴァンセンヌの森を駆け抜けるルノー・ゴルディーニ R8。その走りを堪能させてもらった。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI