
◆60歳以上のパート主婦も社会保険(健康保険・厚生年金)に自分で入る人が増える?
令和5年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(令和6年12月時点で最新)によれば、短時間労働者で厚生年金被保険者は約92万人(そのうち女性が70万人)で、前年より約11.7%も増えています。
令和6年10月からは、被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時51人以上、2カ月超の継続勤務の見込みで、その他の条件も満たせば社会保険に加入できるようになりましたので、短時間労働者の社会保険加入対象者(厚生年金被保険者を含む)はさらに拡大されます。
本来、60歳は、国民年金保険料の支払い義務がなくなる年齢ですが、要件を満たしていれば、パートで働いている人も社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することとなります。昨今、社会保険加入対象者を拡大する流れがあります。60歳以降パートで働く人の中でも、新たに社会保険に加入する人は増えていくでしょう。
◆パートの社会保険(健康保険・厚生年金)加入の条件
現時点における、短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金)加入の条件は以下のすべてを満たすことです。
・被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時51人以上の事業所、または、労使合意に基づき短時間労働者を健康保険・厚生年金の対象とする申し出をした事業所に勤めていること。
・週の所定労働時間が20時間以上であること。
・雇用期間が2カ月超見込まれること。
・賃金の月額が8万8000円以上であること。
・学生でないこと。
◆パート主婦が60歳で社会保険(健康保険・厚生年金)に入ったら将来の年金はいくら増える? いつモトがとれる?
パート主婦が60歳で社会保険(健康保険・厚生年金)に入ったら将来の年金はいくら増えて、いつモトがとれるのでしょうか。現在、60歳のパート主婦Aさん(昭和41年5月生まれ)が、上記すべての要件を満たして、社会保険に加入しているという例をもとに考えてみます。
賃金月額(月給)8万8000円で社会保険に加入すると、厚生年金保険料は月額8052円、健康保険料(40歳以上なので介護保険料を含む)は月額5095円を支払います(令和6年度協会けんぽ保険料額表・東京都より)。1年加入すると支払う社会保険料は、厚生年金保険料が年9万6624円、健康保険料が年6万1140円、合計15万7764円です。その他雇用保険も入ることになりますね。
また、パート主婦Aさんは、65歳から老齢基礎・老齢厚生年金を受けることができ、老齢厚生年金の増額分は標準報酬月額8万8000円×5.481/1000×12カ月=年5787円です。計算していくと、1年間厚生年金に加入し支払った厚生年金保険料のモトをとるのは、約81歳8カ月まで生きた場合となります。
◆【まとめ】パート主婦が60歳以降も社会保険(健康保険・厚生年金)に入ると本当に、得するの?
上記の計算をみると「社会保険に入ると手取りが減るのに、ほんとにお得なの?」と思うかもしれません。夫が会社員なら、社会保険の扶養(60歳以上の妻は年収180万円未満で入れます)に入ってしまえば、保険料は自分で支払わなくてすむのですから……。
それでも社会保険(健康保険・厚生年金)に入るメリットはどこにあるでしょうか。
健康保険に加入していれば、業務外の病気やけがで働けなくなった時、通算1年半傷病手当金を受けることができます。健康保険を民間の就業不能保険に見立てれば、決して保険料は高くありません。
また厚生年金に入ると、生涯にわたって老齢基礎年金に老齢厚生年金が上乗せされます。
さらに、パートで健康保険や厚生年金に加入できる人なら雇用保険にも入れます。雇用保険に入れば、1年以上働いてから退職すると、賃金月額8万8000円の約6割(約5万2800円)の失業等給付を最低90日間(自己都合退職の場合)、受けることができるのです。
このように社会保険加入はメリットも大きいのです。
●参考資料:令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
文:拝野 洋子(ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士)
銀行員、税理士事務所勤務などを経て自営業に。晩婚で結婚・出産・育児した経験から、日々安心して暮らすためのお金の知識の重要性を実感し、メディア等で情報発信を行うほか、年金相談にも随時応じている。
文=拝野 洋子(ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士)