
フェラーリバッジ初のV8ロードカーが誕生して50年が経つ。ジョン・ベーカーが改めて試した308GTB、F355GTS、360モデナは、すべてミドシップで、いずれもV8エンジンの進化という意味では重要なモデルである。貴方ならどのスモール・フェラーリに乗ってみたいと思うだろうか。
【画像】V8エンジン搭載のフェラーリ308GTB、F355GTS、360モデナ。貴方はどれを選ぶ?(写真2点)
姿はまだ見えない。サウンドだけが風にのってやってくる。切迫した遠吠えが次第に勢いを増し、通常のエンジンの限界を超えた激しさでサウンドを響かせていた。目眩を誘うような音域にまで達したのち、急に静まる。そこからまた低い唸りを発したかと思うと、サウンドは急激に伸び上がって、再びスリリングなクレッシェンドを披露しはじめた…。
バークシャーの丘にある駐車スペースで待つ私たちのようなエンジンサウンド愛好家にとって、それは音楽、V型に配されたシリンダーとフラットプレーンクランクによって奏でられる交響曲であった。
V8エンジンの成功
おそらくエンツォ・フェラーリはV8エンジンの可能性を見誤っていたに違いない。それ以前のV6ユニットと同様、V8にプランシングホースバッジは似合わないと当初は考えられていた。その証拠にV8エンジンを初めてミドに積んだガンディーニデザインのロードカー、308GT4にはディーノバッジが与えられている。今も昔も過小評価される市販唯一のベルトーネデザインの跳ね馬だが、慎重かつ巧妙にパッケージされた2+2のスタイリッシュなモデルで、より派手な装いになった後継車、モンディアルが登場してその輝きはいっそう明白となった。
フェラーリのV8ミドシップシリーズはGT4登場の2年後、つまり1975年に発表された。308GTBだ。ピニンファリーナの巨匠、レオナルド・フィオラヴァンティがスタイリストを担当した傑作であり、当初から跳ね馬バッジを付けることに誰も文句のつけようもない崇高なデザインだった。そしてここからスモール・フェラーリの50年にわたる華々しい歴史が幕を開けることになる。
フランコ・ロッキ率いるエンジン開発チームによって設計されたディーノV8は、252bhpを発する3リッター4カム16バルブに始まり、420bhpの3.6リッター4カム40バルブを360チャレンジストラダーレに積んで終焉を迎えた。その30年の間には155bhpを発するイタリア国内向けの2リッター税金対策仕様や、ツインターボ化で478bhpを誇るF40用の3リッター仕様など、様々なバージョンが存在した。ランチアテーマ8.32用に開発されたクロスプレーンクランクの3リッターという興味深いエンジンもあった。いずれも基本的に同じブロックを使い、ボアセンターも変わらなかったから偉大な開発であったと言っていい。
このたび改めてテストすることにした3台のミドシップフェラーリ、308GTB、F355GTS、360モデナはいずれも大人気を博したロッキV8搭載モデルである。中古車相場をみれば上物でも8万ポンド(およそ1500万円)前後で、それぞれに違った個性があるものの、蠱惑的なドライビングカーという点で共通する。由緒を同じくするV8エンジンを積むという以外にも、たとえば丸型の4灯テールライトやそれに合わせた4本の丸型テールパイプ、5本スポークのアルミ合金ホイール、リアホイールの前に貼られたピニンファリーナバッジといった見た目な共通点も多い。さらにデザインよりも幸せなことに今回の3台はすべてマニュアルギアボックスが積まれていた。
進化の足跡
1970年代にティーンエイジャーだった私にとって、308GTBは完璧なプロポーションのミドシップカーだと自信を持って言っておきたい。年月が経ってなお、その美しさはいよいよ増すばかりだ。数年前に季刊のフェラーリ専門誌『Enzo』で同じようなことを書いたら、なんとレオナルド・フィオラヴァンティ御大自らメールが送られてきた。曰く、オリジナルデザインからの唯一の変更点は、ボンネットを少し調整して平らに見えない様にすることだったらしい。
サイモン・テートが所有するこの308のボディカラーはめずらしいロッソ・ディーノで、355オートモビル・レストレーションによる徹底的な再塗装から仕上がってきたばかりだった。当然ながら見た目にとても美しい。初期のキャブレター付き252bhpエンジンモデルは最も人気のある仕様のひとつだ。だだし、これはスチールボディだ。最初期のヴェトロレジーナ(FRP)仕様が最も価値があるとされるが、わずか808台の生産に限られ、相場も跳ね上がるうえ、パネルギャップなど表面クォリティはさほど高くない。一方、後期のインジェクション仕様になると排出ガス低減を狙って大幅にパワーダウンしてしまう。魅力を一部回復できたのは4バルブ化されたクワトロバルボーレからだ。
308のエンジンカバーを開けようとするととても重いことに気づくだろう。FRP仕様から150kg増加した分が、すべてボンネットに集中しているのかと思ってしまうほどだ。V8エンジンは横置きされ、ギアボックスは最後部のシリンダーバンクの下に押し込められている。オリジナル・ミニと少し似た感じだろうか。このことはエンジンの後ろに便利な荷物スペースがあることを意味すると同時に、308はF355や360といった縦置きモデルと比べて、ピュアなミドシップとは言えないことを物語っている。縦置きモデルではギアボックスがエンジン後端に組み合わされており、エンジン単体で見ればより重心に近く、つまりホイールベースの中ほどに低く配置されているのだ。
3モデルとも車両重量は1300~1400kgの間に収まっており、さほど大きな差異はないが、その構造は世代を追うごとに洗練されていったことがわかる。308は60年代の手法を受け継ぐ鋼管スペースフレーム構造だが、90年代のF355になるとスチール製モノコックボディに鉄とアルミのボディパネルを被せている。99年に登場した360になるとマラネッロの技術的な進化はいっそう貪欲さを増す。フレームは重要なパートに鋳造品を配した溶接および接着のアルミニウム構造で、ボディパネルはすべてアルミニウムとなった。
・・・次回、308GTBのインプレッションに続く。
編集翻訳:西川 淳 Transcreation:Jun NISHIKAWA
Words: John Barker Photography: Alex Tapley