リンキン・パーク(LINKIN PARK)が「LINKIN PARK: From Zero World Tour 2025」の一環として、12年ぶりの来日公演を2月11日・12日にさいたまスーパーアリーナで開催。音楽ライター・s.h.i.による公演2日目の本誌独自ライブレポートをお届けする。
【ライブ写真ギャラリー】リンキン・パーク来日公演2日目(全11点)
本当に素晴らしいライブだった! ロック/メタル史上屈指の名シンガーであるチェスター・ベニントンが2017年に亡くなって活動休止、後任に女性シンガーのエミリー・アームストロングが加入して2024年9月に再始動。そうした流れを挟んでの12年ぶりの来日公演という経緯もあってか、以前との違いがどうしても意識されてしまう状況ができていたわけだが、その違いが合うか合わないかはともかくとして、パフォーマンスの見事さ自体にはほとんどの人が納得できたのではないだろうか。
ゼロ年代の名曲を序盤と終盤に連発しつつ、10年代のシリアスな佳曲群にも向き合うパートを長くとり、現メンバーによるニューアルバム『From Zero』の曲を効果的に散りばめる……というセットリスト構成は、バンド自身のオールタイムベストとしても、2020年代ロックの在り方を体現する文脈表現としても、非常に優れたものになっていた。そして、それを引き受け新たな表現力を引き出してさえみせるエミリーの歌声が実にいい。結成してから30年近くも経つベテランバンドがこんな形で新生し、今のシーンを象徴する存在感をも示すなんてことが起こるとは! 懐メロバンドなどではなく、超一流の現行バンド。生で観ることができて本当に良かったし、また来日してより多くの人に体験してほしいと思う。
リンキン・パークは21世紀で最も売れたバンドであり、『Meteora』20周年記念盤についてのコラムで述べたように、現代のポップ・ミュージック全般の礎となる音楽性を築いた存在でもある。ニューメタルを土台にヒップホップやゴシックロックを巧みに融合した音楽スタイルと、メンタルヘルスの問題を積極的に扱った歌詞は、90年代オルタナティブメタルの完成形となる一方で、10年代のエモラップや、ミクスチャーロックに接近した20年代のヒップホップを先取りするものにもなった。ブリング・ミー・ザ・ホライズンやビリー・アイリッシュ、ザ・ウィークエンドなど、今を代表するアーティストの多くが影響を受けたバンドなのだ。
今回のライブのセットリストは、そうした音楽性の系譜を実によく示すものだった。開幕の「Somewhere I Belong」「Points of Authority」(初日は「Crawling」)、そして本編最後の「Numb」「In the End」「Faint」といったゼロ年代の名曲群は、近年のロックやヒップホップにおけるY2Kリバイバルにそのまま対応(というかその本家本元)。ACT 2と銘打たれた中盤では、「The Catalyst」「Burn It Down」「Waiting for the End」「Castle of Glass」といった10年代の(初期からのファンには賛否あった時期の)佳曲が多数披露され、それがザ・ウィークエンドやエモラップを介してバッド・オーメンズのような新世代のバンドに繋がる系譜を示唆する。ニューアルバム『From Zero』(創設メンバーであるマイク・シノダとブラッド・デルソンが最初に結成したバンドSuper Xeroも意識した命名だと思われる)の収録曲は、以上のようなゼロ年代と10年代の音楽性を発展的に継承するものであり、双方の繋ぎとしてもうまく機能する。
中盤の「Burn It Down」(2012年の『Living Things』収録)→「Over Each Other」(2024年)→「Waiting for the End」(2010年の『A Thousand Suns』収録)という繋ぎや、アンコールの「Lying from You」(2003年の『Meteora』収録)→「Heavy Is the Crown」(2024年)→「Bleed It Out」(2007年の『Minutes to Midnight』収録)といった並びは、上記のような音楽的系譜と、剛と柔を併せ持つからこそこうした系譜を網羅できるリンキン・パークの持ち味をよく示していた。
Photo by Teppei Kishida
そしてそれは、エミリーの卓越した歌唱表現力があればこそ可能になったことでもあるのだろう。パワーとリリシズムの両立具合がとにかく見事。生きる力を燃やしつつ無理なく寄り添うような、お節介なエンパワーメントにはならないからこそ支えになる力が得られる感じの佇まいには、チェスターの切実な表現力を引き継ぎつつ優しく安定させたような親しみ深さがあった。その上で、芯のある高音で美しいメロディを描く「The Emptiness Machine」(音源で聴いたときはキーが高すぎるのではと思ったが、むしろそれこそが得意な音域だった)など、フィジカルの凄まじさで圧倒することもできる。そして、誰もが知る名曲ではフロアに積極的にマイクを向け、日本公演だということが信じられないくらいの大きな合唱を巻き起こす。
Photo by Teppei Kishida
以前との違いがどうしても意識されてしまう状況を技量と人柄で覆し、安心感をもって会場全体を惹き込んでしまえる存在感は、まことに稀有のものだろう。ステージングには遠慮がちなところもあったが、これはアリーナツアーを繰り返すなかで大きく化けていくはずだ。そうした意味で、他メンバーは常に頼もしい存在感を発揮し、とても良い補完関係を示していた。特に、リーダーであるマイク・シノダは、各楽曲の半分を占めるラップ(譜割の面白さだけで聴かせてしまえるフロウの出来はこの手の音楽性において史上屈指、作編曲家としての技が光っている)に加えて積極的なステージングも見事で、フロントパーソンとしてもバッキングとしてもバンドの大黒柱になっていた。伸び代のあるフレッシュな佇まいと歴史に裏付けられたベテランぶりが自然に同居するこういうバンド感は実に味わい深く、”From Zero World Tour”というツアータイトルをとてもよく体現していたと思う。
Photo by Teppei Kishida
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さて、今回のライブの本筋については概ね以上のような感じなのだが、それとは別に個人的に特に印象に残ったことがあった。3曲目に披露された「New Divide」(2009年のシングル、『トランスフォーマー・リベンジ』主題歌)はエミリーの歌唱が軸になっていたのだが、それがどことなくエヴァネッセンスのエイミー・リーを彷彿とさせるものだったのだ。これは「New Divide」自体の曲調によるところも大きいのだろうが、よく考えてみると、リンキン・パークにはゴシックロックやゴシックメタルの要素を持つ曲が他にもたくさんある。
今回のセットリストにおいても、「Lost」(『Meteora』の未発表曲であり2023年の20周年記念盤でリリース)→「Good Things Go」(2024年)→「What Ive Done」(『Minutes to Midnight』収録)→「Overflow」(2024年)→「Numb」(『Meteora』収録)という終盤の流れはそうした色合いが濃かった。特に、ニューアルバム収録の「Overflow」では、レディオヘッドの「Pyramid Song」やデヴィッド・ボウイの「★」を想起させる現代ジャズ〜エレクトロニカ的なイントロからダブがかったトリップホップに至る流れ、その全編に先述のようなゴシックの薫りが漂っていて、それがエミリーの歌声によって過去作以上に引き立てられている。これは、エヴァネッセンスのような類のニューメタルにも、スピリットボックスのような近年のメタルコアにも通ずるものなのだが、まさかリンキン・パークがそれらの系譜を繋ぎ並び立つような存在感を示すことになるとは! 今回のライブでは、そうした文脈の拡張表現がチェスター在籍期の曲でもなされていて、ニューアルバムの曲とともに見事な新境地を描いていた。こうした意味でも、今のリンキン・パークは本当に凄いし面白い。懐メロバンドなどではなく、超一流の現行バンド。今後の更なる飛躍が楽しみだ。
Photo by Teppei Kishida