現代屈指のギターヒーロー、ゲイリー・クラーク・ジュニアが語る進化と挑戦、アメリカと日本への想い

テキサス州オースティンから忽然と登場、メジャー・デビュー作『Blak And Blu』(2012年)がいきなり全米6位を記録し、次世代を担うギタリストとして注目されたゲイリー・クラーク・ジュニア(Gary Clark Jr.)。翌2013年と2019年に来日してフジロック・フェスティバルに出演、猛烈なパフォーマンスを見せてくれた彼が、4月に12年ぶりの単独来日を果たす

初期のギターヒーロー的なイメージを抱いたまま最新作『JPEG RAW』(2024年)を聴いたら、大胆な進化に驚くだろう。ブルースやロックの定型から大きくはみ出し、ジャズ、ファンク、アフロビートや西アフリカの現行ブルース・ロックまで飲み込んだ、壮大かつ野心的なアルバムを作り上げた。今回のインタビューでは音楽的な変化の背景と共に、歌詞で取り上げている時事的なテーマについても訊いたが、ゲイリー自身は”政治的アーティスト”と決めつけられるのは本意ではない模様。揺れ動く”トランプ・カントリー”で暮らすアフロ・アメリカンとして、その心中を率直に語ってくれた。

『JPEG RAW』とアフリカ音楽の再発見

―最新作『JPEG RAW』は、アフリカ音楽の影響が色濃いですね。なんでも、マリのソンゴイ・ブルースとライブで共演して刺激を受けたそうですが、彼らのどんなところに打たれました?

ゲイリー:ボイシングやメロディ、そしてその演奏からジョン・リー・フッカーに近い何かを感じたんだ。だから親近感が持てたというか。パーカッションやビート、リズムは違うんだけど、どこかブルース・シャッフルのようで(歌う)その間にジミー・リードがあったり、スティーヴィー・ワンダーがあったり……”わお! アフリカ音楽とスティーヴィーやジョン・リー・フッカーは一緒なんだ!”と思ったよ。言うなれば、生き別れになった従兄弟……みたいに。

―プロデューサーのジェイコブ・シバが意図的に、あなたに西アフリカのファンクなどを聴かせて、そちらの方向にあなたを傾かせたと聞きました。

ゲイリー:あれは”傾かせる”というよりも”洗脳”だったね。実際「君を洗脳して新しいものを作らせようと思ったからそうした」と1年後くらいにネタばらしされて「見事、そのとおりになったじゃないか」と思ったよ。そうとは知らず、スタジオでずっとかかりっぱなしの音楽を聴いていた。もう一つのきっかけは、カルロス・サンタナと話していた時、彼が”グローバル”という言葉を使ったことだ。「自慢じゃないけど、自分はグローバルなアーティストだ」と。それは彼が完璧なガンボのレシピを見つけたってことを意味してる。みんなが美味しいと思う完璧なスープ。僕もそれを目指したいと思った。ミュージシャンである以上、全力で、みんなに届けられる音楽を作りたい。言語と一緒さ。その言語を完全に話せるようになりたいんだ。ゆっくりだけど、確実に、流暢に話せるようになりたいと努力してる。

―アフリカはあなたにとってのルーツでもあるわけですが。自分の演奏に、あの大陸から来たと思われる要素や、アフリカからもらった何かを見つけることはありましたか?

ゲイリー:ああ。たとえば、ボブ・マーリー……特に初期のボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズを聴いて、彼らがカーティス・メイフィールドやR&Bを聴いていたことがわかるのと同じさ。何かを聴き、響くものがあれば、意識的にも無意識的にも、それは自分の中に入っていって、DNAの一部になるわけだから。

―新作の1曲目「Maktub」を共作したSamaan Ashrawi(サマーン・アシュラウィ:音楽ライター、プロデューサーなどマルチに活動)はパレスチナ人ですよね。彼ともよく話すと思うけれど、今ガザで起きていることについて、あなた自身はどう感じていますか。

ゲイリー:ガザで起きていることを僕はニュースを通して見たり、サマーンや彼の家族を通じて、その状況がいかに悲惨か、多くの命が奪われていることを知っている。ただ当事者ではないので、正直に言って完全には理解できない。家族がイスラエルにいたり、パレスチナに友人や家族がいる知人もいるから、なんの罪もない犠牲者たちを思うと、心が痛み、祈ることしかできないよ。何千年も続いている問題で、解決策なんて永遠にないように思えることもあるけれど、それでも人々が平和を見つけられることを願いたい。陳腐に聞こえるかもしれないけれど、本当に少しでも平和と理解と共感がもたらされ、何よりも”人”が大事にされる世界になってほしいと祈るだけだ。

スティーヴィーとの共演秘話、プリンスからの影響

―「Alone Together」に参加したキーヨン・ハロルドとは、気心が知れた仲だと思います。キーヨンも昨年『Foreverland』という素晴らしいアルバムを出しましたけど、彼からはどんな刺激をもらっていますか?

ゲイリー:キーヨンは今の時代を代表する偉大な才能の一人だと思う。昔、ギタリストのアルバート・コリンズがホーン奏者に影響を受けていたという話を聞いて、それ以来、僕もホーン奏者に注目するようになったんだ。キーヨンがすごいのは、グループの中で自分が何を果たすべきかをわかってる点さ。曲の中でどうプレイすべきかもわかってる。それでいて、目立ってスーパースターにもなれる。音楽の解釈ってことに関して、実にクール……いや、超クールだ。それに一緒にいるだけでも最高なやつだよ。キーヨンと初めて会ったのは映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』の撮影現場だったから、つくづくドン・チードル(※映画のプロデューサー/主演)に感謝してる。会った瞬間「こいつは仲間だ」とわかったし、彼の音楽はどれもパワフルで、自分にとって必要なソウル・ミュージックなんだ。正直、最近の音楽はあまり理解できないものが多いけど、僕が求めているのは彼のような音楽なのさ。

―スティーヴィー・ワンダーとは、あなたがジョージ・フロイド殺害事件についてInstagramで投稿したのを見たスティーヴィーから連絡をよこし、交流が始まったそうですね。彼と一緒に作った「What About The Children」は、どんな風に話しながら出来上がっていったんですか?

ゲイリー:警官が黒人を殺害するというジョージ・フロイドの事件にはどうしようもない憤りを感じ、心を打ちのめされる思いだった。世の中はめちゃくちゃで混乱してて……僕もイライラが募っていて、それをInstagramで言葉にしたんだよ。そしたらスティーヴィーが電話をくれて「ゲイリー、君の言いたいことはよくわかる」と言ってくれた。それで曲を作ろうという話になったんだ。「こんなクレイジーな世界で僕たちはどうしたらいい? 子供達はどうしたらいい? だったらタイトルは”What About the Children”だ。だって、彼らこそが世界の未来なのだから。世の中をこのままに放っておくのか? それとも少しでも正すのか?」とね。スティーヴィーが「いいアイディアがある」って言うんでボイスメモで送ってもらい、それを僕がバンドとスタジオでまとめて送り返すことになった。でもバンドには、すぐには話さなかったんだ。いつも通り、火曜と木曜の練習に集まってきた連中に「実は、スティーヴィー・ワンダーから電話があって曲をやることになった」と話したら、みんな大興奮だった。クールな瞬間だったよ。それで歌詞などあれこれやりとりしながら、何を語るか決めていった。家族の辿ってきた物語、厳しい時代の物話……そして子供たちの世代の物語は? 僕たちは手を差し伸べるのか? それともただ傍観者として見ているだけなのか? 次に進む一歩は何だ?……という風に。出来上がった曲を持って、スティーヴィーも一緒にスタジオに入り、録音した。歌だけでなく、ハーモニカもキーボードも。彼みたいな存在は他にいないよ。

―ジョージ・クリントンをゲストに迎えた「Funk Witch U」は、パーラメントやファンカデリックの雰囲気があると同時に、プリンスっぽいなとも思ったんです。あなたはプリンスの音楽からもかなり影響を受けてますよね?

ゲイリー:プリンスは僕が最も影響を受けたミュージシャンの一人だよ。あのサウンドを聴いて育ったんだ。ザ・レヴォリューションのあのリン・ドラム、あのギタートーン、あのキーボード、あのしなやかなベース……時にはベースレスだったり……そしてプリンスの声、表現力……。プリンスほど、ギタリストとしてもっと評価されるべき人は他にいないよ。ただ彼のやることすべてがあまりにも凄くてパワフルすぎて、ギタリストとしての天才ぶりが霞んでしまったんだと思う。でも僕にとっては最も影響を受けた一人だし、どうしたって僕のやることすべてに彼の影響が出てしまうんだ。

―前作にはシーラ・Eが参加してましたけど、彼女からプリンスについての話を聞いたりもしたの?

ゲイリー:うん、少しだけプリンスの話が出たよ。でもシーラ・E自体がものすごいオーラを持っている人なので、会った時、正直僕はガチガチに緊張してたんだ。なんてったって彼女はレジェンドだから。彼女は女神のように現れて、緊張しまくりで不安で変になってたスタジオの空気を一掃してくれた。あとは、ただ演奏をしただけさ。いろんなことを試しながら、ジャムし続けた。一緒にいるだけで本当にクールな人だった。

プリンスについてシーラ・Eと話したのは、仕事や仕事に対する姿勢についてだった。つまり、何度も何度も試すだけだ、ということ。シーラ・Eやスティーヴィー・ワンダーのやり方を見ていると、彼らが偉大なミュージシャンである理由はちゃんとあると思わせられた。常に最高を目指していて、手を抜いたり、適当にやったり、怠けたりしない。「私は最高を目指す!」さ。その様子を見ているだけでも本当に楽しかった。

揺れ動くアメリカと日本への想い

―ちょっとギターの話もしましょう。あなたはエピフォンやギブソンを愛用しているイメージがありますが、最初に手に入れたギターは12歳の時、1996年のクリスマスに買ってもらったIbanez RX20だったそうですね。ちょっと意外ですが、どうしてあのモデルを選んだのか、買った時のストーリーを教えてください。

ゲイリー:(笑)両親が買ってくれたのがあれだったからさ。僕の希望は「白のピックガードの黒いギター」。「フェンダー・ストラトキャスターがいい」とも言ったんだが、フェンダーは高価すぎた。それで仕方なくアイバニーズにしたんだよ。親からのプレゼントだったからね。でも結果的には大好きなギターになったし、今でも大事に持っている。それどころか、1996年に親が買ってくれた時のレシートを、今、まさに見ているところさ。それが最初のギターで、次に手に入れたのが Ibanez Blazer サンバースト・モデルだ。それを選んだのは、コイルタップ機能付きのピックアップを搭載してたからさ。2つのハムバッカー・ピックアップと1つのシングルコイル・ピックアップ、そしてもう1つハムバッカーを搭載していて、スイッチを切り替えると、ハムバッカーをスプリットして1つだけ使えるようになる。それで、3つのシングルコイルピックアップみたいになるんだ。つまりストラトキャスターみたいな音が出るわけ。「これはすげえ、ストラトとレスポールの音が同時に出せる!」と思ったんだよ。2台のギターが1台になったようなものさ。

僕がアイバニーズをしばらく使い続けたのは、ギブソンやフェンダーを持っていないせいで、ブルースクラブで散々言われたからさ。逆に反骨精神というか、アイバニーズを弾き続けることが自分のアイデンティティになった。「俺は他の連中とは違うんだぜ」と、貫き通したんだよ。そのせいで俺を悪く言うなら、言えばいい。当時、アンプはCrateの60ワットを使ってて……ソリッドステートか、ハーフソリッドステートか何かで……周囲からは「そいつも変えなきゃダメだ」と言われたが、僕は「変えるもんか!」と突っぱねた。ただの反抗心さ。でもその最初の2台は今も大事に持っているし、お気に入りだよ。

―あなたらしい、気骨が感じられるエピソードですね。さて、「This Land」などの曲を通してドナルド・トランプの政策に反対してきたあなたにとって、大統領選は残念な結果になったと思いますが。それでもこれからの4年間を、あなたは前向きに考えられそうですか?

ゲイリー:僕は「This Land」の歌詞でドナルド・トランプに反対したつもりはないんだ。あの時、曲の中で言ったのは「right in the middle of Trump country」(トランプ・カントリーの真ん中にいる)ということだけ。だってテキサスは赤一色(共和党支持)の真っ赤な州で、オースティンなんて小さな青の点(民主党支持)でしかない。まさに「自分はトランプ・カントリーの真ん中にいる」という状況だったんだ。その頃、世の中には人種差別やMAGA(Make America Great Again)といった空気が潜在的にも、実際、表面的にも漂ってて、聞こえてくるニュースもそんなことばかりだった。だからそのことを描きたかったんだよ。今いるのは”太陽が輝く北カリフォルニア”なんかじゃない。ど田舎のテキサスなんだ。それが黒人男性である僕の今いる場所であり、今の時代だということを伝えたかった。

”トランプ・カントリー”っていうのは一種のシャレさ。trumpには、人生の中で有利なカードを切って、他人を出し抜くという意味があるだろ? そんな皮肉も込めて面白く言おうとしたのに、誰もがドナルド・トランプばかりに注目して、「お前は反トランプ派なんだな」と言われてしまった。僕が言いたかったのは、自分がテキサスで置かれている状況と、有利なカードを切って成功しようとする奴らの裏で、奴らを押さえつけようとするゲートキーピングがあるってこと。弱肉強食の世界……有利なカードを切ってなんでも排除する連中がいるんだという状況をね。ところが、テレビやニュースで曲が取り上げられ、気がつくと僕は政治アナリストなんかと話す場に呼ばれ、まるで政治的アーティストみたいに、自分の政治的主張について尋ねられていた。僕はただ「トランプ・カントリーの真ん中にいる」と言っただけなのにね。僕は政治的アーティストというレッテルを貼られてしまったけれど、実際はただ「僕は人間だ。アメリカ国民だ。他の誰だってそうしているように、僕も僕の道を進むだけだ。だから構わないでくれ。僕もお前に干渉はしない」……と言いたかっただけ。なので「トランプに反対した」という言い方をされたのは意外だった。国の指導者として考えるなら、彼以上の適任者がいると思うよ。間違っても自分の娘を、あいつとデートさせたくないからね。

―同感です。久々の来日ですが、日本での楽しい思い出や、この国の印象を聞かせてもらえますか。

ゲイリー:食べ物はおいしいし、ショッピングも……背が高すぎて、日本ではサイズが何も合わなかったが、見る分には最高だったよ(笑)。結婚前の妻と一緒だったんで、二人で夕食をしたり、散歩したり……。他にも、フェスティバルに出演した時、山の中を歩いていたら猿の軍団と遭遇して、目があったこととか! ただただピースフルだったよ。都会を離れて、穏やかな一人だけの時間が欲しくなった時は、日本の山にこもって姿を消したいね。

―ところで、現在のバンドは、ブラック・クロウズのマーク・フォードの息子であるイライジャ・フォードや、元デレク・トラックス・バンドの敏腕ドラマー、J.J.ジョンソンがいますよね。きっとそのメンバーで来日してくれると思うんですが、日本ではどんなライブが見られそうですか?

ゲイリー:本当に楽しくて最高なラインナップのバンドなんだ。イライジャとJ.J.が一緒になった時のリズムセクションは本当に強力だし、キーボードのデイン・レリフォードはまだ若いよ。バックボーカルは僕の姉と妹だ。とにかく楽しくてダイナミックなショーになるよ。泥臭いブルースからファンク、ロックンロールまですべてをやる。それが楽しいんだ。時にはただクルーナー歌手のように歌に専念する場面もあるよ。昔からマーヴィン・ゲイとか、ソウルシンガーたちが大好きなんで、そういうのもちょっとやる。うんと楽しむつもりさ。

ゲイリー・クラーク・ジュニア ジャパン・ツアー

2025年4月10日(木)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)

2025年4月11日(金)大阪・なんばHatch

18:00開場/19:00開演

チケット

1Fスタンディング:10,000円 (税込/整理番号付)

2F指定席:13,000円(税込)

※ドリンク代別途必要

詳細:https://udo.jp/concert/GaryClarkJr25