昭和に生まれて昭和に育った「昭和人間」は、若者から見ると謎が多い存在です。その発言や考え方に疑問を抱く場面も少なくありません。

漠然と「よくわからない人たち」というイメージを抱いているだけだと、ますます苦手意識がふくらんでしまいます。

「昭和人間」への理解を深めるために、ひとまず「前期昭和人間」と「後期昭和人間」のふたつのグループに分けてみましょう。

グラデーションや個人差があるのは大前提として、前回の大阪万博が開催されるなど高度経済成長の絶頂期だった昭和45年を境に、それ以前に生まれた人(令和7年時点で55歳以上)を「前期昭和人間」、昭和46年以降に生まれた人(同54歳以下)を「後期昭和人間」に分類することにします。

生まれ育った時代は、人生観や仕事観、ジェンダー観などに大きな影響を与えずにはいられません。

「前期」と「後期」は、乱暴に言ってしまうと「別の種類の人たち」です。そこを踏まえた上で、適切な取り扱い方を考えてみましょう。

「前期昭和人間」も「後期昭和人間」もお互いに相手のことが嫌い!?

50代後半以上の「前期昭和人間」と40代~50代前半の「後期昭和人間」には、どんな違いがあるのか。具体的にいくつか挙げてみましょう。

●「後期」は中高生になっても漫画やアニメが好きだと公言できたが、「前期」が中高生の頃は漫画やアニメ(テレビ漫画or漫画映画)は「子どもが見るもの」とされていた
●「後期」は昭和62〜63年ごろにピークを迎えたバブル景気の実感や記憶はぼんやりとしかない、あるいはほとんどないが、「前期」はその渦中を経験していたり横目で眺めていたりする
●「後期」は「経済は横ばいに推移していくもの」と思っていて、「前期」は「経済は右肩上がりに成長していくもの」というイメージを捨て去ることができない

これらはほんの一例です。総合的に見てもっとも違いが如実なのは、人生を楽観的にとらえているか、悲観的にとらえているかということ。

「前期昭和人間」が物心ついた頃から社会人として働き始めた頃まで、日本経済は大筋では順調に発展を続け、生活も街の風景もどんどん変わっていきました。

その後、いわゆる「失われた30年」が訪れますが、多感なころの刷り込みは簡単には消えません。

いっぽうの「後期昭和人間」は、小中学生の頃から日本経済がピンチだという話ばかりを聞かされ、いざ社会に出ようとしたら「就職氷河期」という苦難に直面します。

その後も、上の世代が残した「バブルのツケ」の尻拭いをさせられた上に、すべてを「自己責任」と受け止める癖を付けられました。未来に希望を持てなくなっても仕方ありません。

そして大事なポイントは、前期も後期も、お互いに「自分たちはあいつらとは違う」「いっしょにしてほしくない」と思っているところ。

「あいつら(前期昭和人間)は能天気すぎるんだよ」「あいつら(後期昭和人間)は辛気臭いんだよ」と、根っこのところでは嫌い合っていると言っていいでしょう。それぞれ「今の日本がパッとしない状態になったのは、あいつらのせい」という気持ちもあります。

「違いのわかる若手」っぷりを見せれば、前期も後期もイチコロ

 そういった背景を知っておけば、若者のあなたが、たとえば前期世代のAさんと後期世代のBさんが同席しているシチュエーションで、不用意に「AさんやBさんが若手だった頃は~」「AさんやBさんの世代としては~」と両方をまとめて語ってしまうなど、危険な地雷を踏まずに済みます。

さすがに、そこで「いっしょにするな!」と怒り出すことはないでしょう。ただ、AさんとBさんが微妙にけん制し合う空気になりそうだし、両方からこちらに「お前、わかってないな」という視線を向けられても仕方ありません。

こうした場面では、それぞれに話を振って「やっぱり世代によって、見え方が違うんですね。興味深いなあ」といった調子で感心するのがオススメ。

「違いのわかる若手」(これも昭和な例えですね)っぷりを見せると、両方から「お前、わかってるじゃないか」と思ってもらえます。言うまでもありませんが、片方の意見に肩入れするのはタブー。同じようにうなずいたり驚いたりして、同じぐらいの量の質問をぶつけましょう。

前期と後期のどちらかと接するときも、そこにいない「ライバル」の存在を意識する必要があります。前期のAさんが「(後期の)Bの年代のヤツらはわかってないんだよ」などと、相手側の悪口を振ってくるケースは少なくありません。逆もしかりです。

そこで「たしかにそうですね」と目の前にいるAさんに全面的に同意したり、あるいは「いや、私はBさんの言うこともわかりますけどね」と異を唱えてライバルの味方をしたりするのは避けたいところ。

適当に同意しておくのは問題なさそうですが、何かの拍子にどっちにもいい顔をしていたことが両方に伝わると、一気に信用をなくします。

ただ、これらはあくまで原則論に過ぎません。多くの場合、AさんとBさんは立場も違うし、尊敬の度合いや頼り甲斐、人柄なども同じではありません。

踏まなくていい地雷を避けるためのコツを知った上で、自分の周りにいる実際のAさんやBさんと、どんな距離感でどう付き合うか、自分なりに模索しましょう。

昭和人間は昭和人間で、20代の若者も30代の若者も「最近の若いヤツら」とひとくくりにしがち。

当事者としては不本意だし、安易な見方だと感じます。それを考えると、前期と後期の昭和人間をひとくくりにして語る安易さに気づくことができるでしょう。

いっぽうで共通点もたくさんあります。スキあらば若かった頃の武勇伝を話したがるところや、自分の年齢のセルフイメージは実年齢より10歳ぐらい(ヘタすると20歳ぐらい)若いこと、若者から頼られると喜んでしまうところ……などなど。

そういう特徴もいちおう押さえておいて、必要に応じて上手に転がしましょう。

若者と同じように、昭和人間だって一生懸命に生きています。謎が多い存在に見えるかもしれませんが、じつはわかりやすい生き物であり、大まかな仕組みは若者と変わりません。

違和感を覚えることがあったとしても、多様性の実例ということで大らかな気持ちで観察しつつ、仲良く付き合っていきたいものです。

著者プロフィール:石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963(昭和38)年、三重県生まれ。コラムニスト。93(平成5)年に『大人養成講座』でデビュー。以来、大人をテーマにした著書を次々と刊行。「昭和」も長く大事にしているテーマの一つ。著書は『大人力検定』『昭和だョ! 全員集合』『失礼な一言』など100冊以上。