2022年に始まり、今年で4年目を迎えた電通デジタル寄附講座。現在4大学でDXをテーマとした講義が行われており、名だたる大企業の役員も講師として登壇しています。寄附講座が始まったきっかけとその狙いについて、同社の髙山隼佑氏に伺ってみました。

  • 電通デジタルが4大学で行っている寄附講座について伺いました

■電通デジタルが大学で行う寄附講座

ビジネス環境が激しく変化するなか、日本企業が持続的な成長を実現するためにはDX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせません。

しかし、DX推進に不可欠とも言えるDX人材は、今後不足が深刻化すると見込まれています。DXを正しく理解し、企業の変革に寄与する人材の重要性はこれからますます増していくでしょう。

一方で、学生はまだ大学の授業が将来の仕事にどう繋がるかイメージしきれていない現状があります。これは、長期的なキャリア選択のための情報が不足しており、断片的な情報に基づいて判断せざるを得ないケースが多いことも大きな要因と言えるでしょう。

電通デジタルはこのような現状を鑑み、2022年4月に複数の大学でDXをテーマにした寄附講座(以下、電通デジタル寄附講座)を開設。日本のデジタル人材育成に向けた取り組みを進めています。

  • 電通デジタル寄附講座の意義は、新しいDX人材育成のあり方をつくること

電通デジタルが大学生に伝えたいことは何か。電通デジタル トランスフォーメーションストラテジー部門 部門長を務める髙山隼佑氏に伺いました。

■大学生のDXに対する理解不足を痛感

2016年ごろよりDXに関わるコンサルタントとして活躍してきた髙山氏。クライアントの事業変革に関わることに加え、自社の新卒採用と新卒研修にも関わってきました。

「当時からクライアント企業に対して、効率化が目的ではない『新しい価値を創造するための変革』を目指した本来のDXの必要性を伝えていたのですが、簡単なことではありませんでした。ですので、当社の新卒に対しても、本来のDXのことを教えるのも大変でした」と髙山氏は振り返ります。

  • 電通デジタル トランスフォーメーションストラテジー部門 部門長 髙山隼佑氏

“電通デジタルが行っているビジネスの現場を大学生に伝えたい”、そんな思いは髙山氏だけでなく電通デジタルとしても抱えており、大学に働きかけ、その思いは大学側からも好意的に受け止められました。

こうして2022年、早稲田大学、大阪大学、神戸大学の3大学で「電通デジタル寄附講座 実践 顧客基点のデジタルトランスフォーメーション」が開設されます。

DXの本質理解から企業の意義までを全15回で学ぶ

「学生のみなさんはみんな就職するときにDXと語るのですが、ぼんやりとしかわかってない状態なんですよ。ハンコレスとかペーパーレスのように、IT化と同じ感覚で捉えているんです。でもDXというのは、本当は新しい価値を作るための変革です。これは学生だけではなく多くの社会人の方もですが、そこが理解されていませんでした」(髙山氏)

髙山氏はこのように語ります。電通デジタル寄附講座がまず教えることは、この感覚をひっくり返すこと。DXとは、製品やサービス、ビジネスモデルの変革を目的とするものであり、IT化はあくまでその一手段だからです。

そして、電通デジタルのDX支援の取り組みから始まり、DXの基礎、顧客基点の考え方、そしてクライアント企業との共同登壇、OB・OGによるキャリア講話など、実践的な授業が15回に渡って行われます。

これまでにも三井住友海上、ポーラ、サントリー、パナソニック、スターバックスなどの誰もが知る企業が登壇しており、DXの“いま”について講義されました。

  • 神戸大学での講義の様子

「大学の先生と話すと、まだまだビジネスの現場と大学の現場は結構開きがあるようです。ビジネスの現場は論文や理論をある程度取り入れて研究しているのですが、それを大学にフィードバックする部分が弱いなと思います。一方で大学側はビジネス側との接点がまだまだ少ないようで、うまくビジネスとリンクできていなかったと感じます。日本の人材教育を進めるためにも、もっと連携を深めていければと思います」(髙山氏)

髙山氏の思いは「大学生がキャリア形成を考えるときに、大学の授業が有効な情報になってほしい」という点にあります。つまり、入社した後にDXという概念で齟齬が起きることを防ぎたいのです。

「大学生が企業に入社して、齟齬を感じて転職してしまうのは非常にもったいないと思うんですよ。そこはシームレスに繋がってほしいと思っています」(髙山氏)

だからこそ、大学時代に現場の生の声が聞けるよう、第一線に立つ企業の役員や管理職の講義をアテンドしています。実際にDXを推進している企業に興味を持ち、情報を集めて、学生のキャリアの選択肢に広がりを持たせることで日本のDX人材を育てていくことが、髙山氏の狙いです。

  • 髙山氏自身も招へい講師、招へい教員、非常勤講師として登壇します

■大学生の満足度も高い人気講座に

この講義は現在、慶應義塾大学を加えた計4大学で行われており、1年間でおよそ1500人ほどが受講しています。大学生の満足度は平均97%、NPSスコアは60以上と、多くの学生が推奨する授業として評価されています。

大学生からも「90分が毎回あっという間に感じる、たいへん興味深い講義」、「今後発展していくIT業界を支える人材を教育していくためにも、継続して行ってほしい」、「この講義が人生を決める第一歩となった」など、さまざまな声が寄せられています。

逆に大学で講義を行った企業の人たちからは、普段会社で使っている言葉は大学生に通じてないという気づきがあり、「若い人にも伝わるような話し方を心がけようと思う」といった声が挙がっているそうです。

すでにこの寄附講座を受講した新卒が電通デジタルにも入社してきていますが、ビジネス現場での印象を聞くと「想像通り」と答えたと言います。また、実際のビジネスの現場でも「顧客視点」という言葉に重きを置いており、講座で話していた考えとも大きな齟齬がないそうです。

  • その成果を受け、大学から電通デジタルへ感謝状も届いています

■他の大学にも取り組みを広げていきたい

2022年度に始まり、2025年度には4年目となる電通デジタル寄附講座。スタートした当時はコロナ禍明けでハイブリッド授業でしたが、現在は完全オフラインになりました。その評判は年々高まり、企業からの協力したいという声も増加。いまではクライアント枠がほぼ埋まっているといいます。

同講座は、今後どのような講義を行っていくのでしょうか。

「テーマとしては、まだDXを続けていきたいと思っており、3年間同じ大学で講義をしているので、他の大学にも広げていきたいですね。また、ここ一年は企業の人材育成において、伴走支援を行うことも増えています。若者だけでなく社会全体を教育・支援していく取り組みも増やしていきたいと思っています」(髙山氏)

最後に、髙山氏に学生のみなさんに向けたメッセージをお願いしてみました。

「たぶん楽しい講座だと思いますよ(笑)。社会人になったらなかなかお話を聞けない登壇者も多いので、贅沢な講義だなと手前味噌ながら思います。学生時代から役員の方の悩みが聞ける機会ってそうそうないですから。学生のうちからいろいろな業界・さまざまな視点から語られるDXを知ることは、就職活動にも役立ちますし20代のキャリアを考える上でも良いのではないでしょうか」(髙山氏)