ドジャース、新加入の大物・スネルに”不評”も!? マイナス評価が集まる…

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 ロサンゼルス・ドジャースは今オフ、ブレイク・スネルと契約を結んだ。しかし、様々な媒体上では、スネルは制球力が低いなどのマイナス論評を多く受けている。これまでのキャリアでサイ・ヤング賞を2回受賞と実績充分の先発左腕だが、何故そのような評価が集まっているのか。今回は、スネルの投手能力について分析した。(文:Eli)

 

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 2025シーズンからドジャースでプレーするブレイク・スネルだが、様々な媒体で「耐久性が低く」、「制球力がない」という評価を受けている。特に「制球力がない」と言う点は興味深い。

 

 なぜスネルは制球力に良い評判がないにもかかわらず、予算にシビアなタンパベイ・レイズが大型契約をキャリア初期に結び、今オフにドジャースから1億ドル超の契約をもらえるほどの投手になったのだろうか。

 

 

 先ずスネルは本当に「耐久性が低い」のだろうか。2020~2024年スパンにおける合計イニング数を並べると、スネルは590.2回で球界全体16位に位置する。

 

 また、スネルがデビューした2016年まで範囲を広げると1096.2回で全体14位に浮上する。スネルより多いイニングを投げている投手はほとんどがワークホース(ケガが少なく頑丈で、長いイニングを投げてくれる投手)として有名な投手が多く、このメンバーの近くにいるならスネルは年間を通し計算できる投手と呼んでも良いだろう。

 

 確かにスネルは毎年180イニングを投げるような投手ではない。しかしこれだけ長期離脱が続出している現代MLBにおいて、毎年少なくとも100イニング以上を投げている点は頭に入れておくべきだろう。

 

ブレイク・スネルの真の制球力

 先ずはシンプルなところから見ていこう。2022~2024年スパンにおいて、ブレイク・スネルのBB%(四球率)は11.4で球界ワースト2位だ。

 

 BB%が高い順に投手を並べると防御率3点台後半以上の投手が多いわけだが、スネルだけが防御率2点台である。3点台後半といえば平均程度となるが、2点台ではエリート級だ。年によってはサイ・ヤング賞争いに入ることもあるだろう。この違いとは何だろうか。

 

 

 米トレーニング施設『Driveline Baseball』が作った機械学習モデルである『Command+』は投手が意図した場所に投げられているかを示した指標だが、そのランキングにおいてスネルはジョージ・カービー、アーロン・ノラなどの制球力に定評のある投手たちと並んで上位に位置している。

 

 つまりスネルは”意図した場所に投げる能力”においてはエリートレベルであるということだ。では、なぜスネルは四球を積み上げてしまうのだろうか。

 

 それは、ど真ん中を徹底的に避けているからだ。2024年シーズンに1000球以上投げている投手271人の中でのHeart%(ゾーン真ん中に投げている割合)は21.7%で、メジャー全体において7位となっている。

 

 このランキングで270位のジャスティン・スティールとのフォーシームヒットマップを比べると違いがはっきり分かる。スネルはゾーンのエッジ付近~ゾーン外に球威のある球を放ることで打者の空振りを誘っている。

 

 さらに最速98マイル(約157キロ)+平均以上の縦変化量を持つフォーシームと大きく曲がり落ちるカーブを軸に、90マイル(約144キロ)を超えるスライダーと右打者対策のチェンジアップを操る。球威を示すStuff+は、2024年は124で、100イニング以上投げた投手の中では全体3位だった。

 

 また、スネルのフォーシームとスライダーのコンボはリリース角度がほぼ同じで、ボールが手から離れる瞬間には同じ球種に見える。2024年は近年流行りのピッチトンネルを駆使し多くの空振りを奪い、同年のスライダー空振り率は45.9%をマークした。

 

 圧倒的な球威に支えられた「真ん中を避けゾーンエッジ/外で空振りを奪う投球スタイル」によりスネルは2021-2024年で500イニング以上を投げた投手の中で唯一のK%32.0以上を実現している。

 

 スネルの投球スタイルならば1イニングで数個の四球なら許容できる。なぜなら、後続の打者は三振になるのでランナーが帰る可能性は限りなくゼロに近いからだ。事実、スネルの残塁率は過去5年全てにおいて70%以上である。

 

“制球力”を測るのは難しい…?

 投手の軸となるのはStuff(球威)とCommand(制球)である。Stuffの分析は大きく進んでいる一方で、Commandの分析は発展が遅い。

 

 数字上ではBB%やゾーン%などで間接的に測ることはできる。しかしCommandを「意図した場所に投げる能力」と定義するなら、毎回投手が投げる際に意図した場所をいちいち尋ねることができない以上、真のCommandを測ることはできない。

 

 

 前述した『Driveline Baseball』による『Command+』のデータ収集は専門の人員による手動計測で行われている。計測員が投手の意図した場所を予想し、そこに投げられたかを集計している。しかし人の主観が入っている以上、Command指標の完成形とは言い難い。

 

 野球を経験していた人なら捕手が構えた場所を計測すれば良いと思うかもしれない。これは既に計測が行われており、Drivelineでは捕手が構えた場所と実際にボールが投げられた場所を手動やAIによる映像学習を用いて記録し、投手の平均誤差を計測する取り組みを行っている。

 

 しかしこれにも問題がある。捕手が構える場所は投げてほしい場所と完璧に一致しているとは限らないからだ。

 

 正しい場所に投げるための作戦として、投手が投げミスをする距離・方向を集計し、それを含んだ捕手の構え方をする球団がある。

 

 例えば、投手が4インチ上に投げミスする傾向があるなら捕手は4インチ下に構えるといった具合だ。またタンパベイ・レイズは捕手をど真ん中に構えさえた上でボールの変化に位置を任せるという戦略を取っている。

 

 このように、Commandの評価は非常に複雑で現時点では完全な分析手法は存在しない。意図した場所に投げる能力を測ることはできず、現行の手法ではその一部をとらえることしかできない。

 

 

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【了】