ドジャース・山本由伸が誇るMLB屈指の能力とは!? 大型契約で求められる…

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 ロサンゼルス・ドジャースと大型契約を結び、メジャーリーグへの扉を開いた山本由伸。MLBでのルーキーイヤーとなった今季は、レギュラーシーズンでは故障離脱がありながらも及第点の成績を残し、ポストシーズンでも先発陣の一角として躍動、チームの世界一に貢献した。今回は、そんな山本の適応力、進化について分析した。(文:Eli)

 

今シーズンのメジャーリーグは

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今シーズン山本由伸の全体的な振り返り

 今季がメジャー1年目であった山本由伸。12年$325Mという投手史上最高額の契約を結び、球界全体から注目されるというとてつもないプレッシャーの中だったが、まずまずの活躍をしたと言えるだろう。

 

 筆者は、山本がメジャー適応期ということで、①フル稼働、②防御率3点台中盤、③ポストシーズンでの稼働/活躍の3つを期待していたが、①以外は期待以上の達成を見せてくれた。90回以上投げた先発投手125人の中で山本の立ち位置は以下の通りだ。

 

防御率 3.00 15位

FIP 2.61 5位

xERA 3.44 19位

K% 28.5 11位

BB% 6.0 30位

K-BB% 22.6 11位

 

 

 山本にとって今季は適応と進化の年だった。韓国シリーズでの大炎上に始まり、投手として球種や投球箇所の改良を重ね、6月にはニューヨーク・ヤンキースの超強力打線相手に好投を見せた。

 

 また、プレーオフ初戦のサンティエゴ・パドレス戦では3回を投げ5失点と躓いたが、その後修正し、残り3試合合計で15.2回、3失点とエースとしての働きを見せた。山本がシーズンを通して何を改良したのかを見ていこう。

3球種での行き詰まりからの球種追加

 開幕当初の山本はフォーシーム、カーブ、スプリットの3球種のみ使用していた。この3球種はそれぞれユニークな特徴を持っている。

 

 フォーシームは低いリリースから生み出されるフラットな軌道、スプリットはメジャートップクラスの球速と縦変化の両立、カーブはその形から打者のタイミングと目線を外す効果を持っている。

 

 しかし、この3球種だけでは足りなかった。スプリットとカーブはその威力をいかんなく発揮していたが、これらの球種をセットアップする役割を果たすフォーシームが低め~真ん中に集まってしまい、長打の原因となってしまっていた。

 

 NPBでは低めの制球が重視されるが、山本のような低リリースである程度の縦変化があるフラットなフォーシームはメジャーでは高めに投げ空振りを奪う球種として扱われる。そこのギャップに苦労したのかもしれない。

 

 また、3つしか引き出しがない+スプリット/カーブは繰り返しストライクが取れる球種ではないことから、どれか1つが崩れるとすべてが崩れてしまっていた。

 

 

 しかし、ドジャースと山本も手をこまねいていたわけではない。5月に入るとカッター、シンカー、スライダーを本格的に使い始めた。全体の割合としてはそれぞれ1桁%に収まっているが、それぞれの球種がそれぞれの役割を果たした。

 

 

 カッターは主に左打者の内角に食い込む役割を果たした。左打者への投球箇所を見ると、フォーシームを外角へ、カッターを内角へ、スプリットを真ん中~外角へ落とすというアプローチが見えてくる。

 

 

 シンカー、スライダーはほぼ同じ時期に導入され、右打者に対するゾーンの横を活かすことに利用された。フォーシームと組み合わされたシンカー/スライダーはシンカーを内角、スライダー/フォーシームを外角へ投げることで空振りを奪うアプローチを確立した。

 

 

 特にスライダーは平均以上の球速と横変化により、48球とサンプルは小さいが被打率.158, 被長打率.211, SwgStr% 20.8とスプリットと同等かそれ以上に効果的な球となっていた。

今後はサイ・ヤング賞受賞が至上命題…?

 2024年は山本にとってMLB適応の年となった。故障によりイニング数は少ないながらも良い成績、良いポストシーズンでの活躍を見せることができた。

 

 一方、12年$325Mという契約を結んだ投手ならより高みを目指せるはずだ。

 

 山本の前に投手史上最高契約額記録を保持していたヤンキースのゲリット・コールは、現在9年契約の5年目が終了した段階だが、オールスター選出3回、サイ・ヤング賞1回、サイ・ヤング賞5位以内3回、MVP得票2回の実績を残している。

 

 山本の契約が成功となるには、山本の全盛期となる今後7年が勝負だ。その中で、サイ・ヤング賞の受賞は最低でも1度は求められてくるところだ。

 

フォーシームの使い方

 山本のフォーシームはフラットな軌道で打者に到達する。縦変化量は少ないが、山本の比較的小さな体から生まれる低いリリース高により、平均的なMLB投手より投げあがる形になり、アッパースイングの打者が空振りをしやすい球となっている。

 

 事実、山本のフォーシームによる空振りは、ゾーン真ん中から上が多かった。この性質を活かすために無理のない範囲でフォーシームを高めに投げ、空振りを誘発するべきだ。

 

 

 

スライダーの活用

 前述の通り、山本のスライダーはMLBでも優秀な部類に入る。レギュラーシーズンでは48球しか投げなかったが、ポストシーズンではアーロン・ジャッジ、JD・マルティネス、フェルナンド・タティスJr、ピート・アロンゾなど名立たる打者から三振を奪う球となっていた。

 

 フォーシーム/カーブ/スプリットを投球の基幹としているところに、突然スライダーが放られる意外性の面もあるが、効果的な球であることは確かだ。

 

 MLBにおいて投手の成績を向上させる際に最も用いられる方法が、その投手のベストピッチを頻繁に投げさせることだ。

 

 ドジャースのリリーバーであるエヴァン・フィリップスなどは移籍後にスイーパーの投球割合を約2倍にすることでリリーフエースとして覚醒した。

 

 山本はキャリアを通してスライダーは腕に馴染まないとして敬遠していたことを考慮する必要があるが、スライダー全盛のMLBにおいてスライダーをある程度活用するのは、もう一段上を目指すには必須となりそうだ。

 

プレーオフでの柔軟な起用

 ドジャースは2025年シーズンから6人ローテを採用するとしており、山本がMLB主流派の中4,5日ローテに適応するのは遠い将来となりそうだ。

 

 一方で、MLBのプレーオフでは先発投手が中3、中4と柔軟に起用されることがある。

 

 山本のような若いエース級ピッチャーはチームの運命を決める試合(シリーズGame7や後がない試合)で起用できるとチームとしてはありがたい。

 

 さらには今季のワールドシリーズのウォーカー・ビューラーのようなリリーフ起用も想定される。そのような山本も見てみたいところだ。

 

 

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【了】