『Octane』UKスタッフによる愛車レポート。マークは縁あって映画撮影に愛車のモデルTを持ち込むことに。初めての経験に興奮気味だ。
【画像】滅多にな貴重な体験!愛車と映画スターが夢の共演!?(写真3点) ある日、撮影現場にいた私は、なんと目の前にジョージ・クルーニーがいるという不思議な光景に出くわした。もちろん、あくまで私は謙虚な「エキストラ」であるため、彼に話しかけることは控えたが、それでもイギリスのサイレンセスターにある廃採石場に再現された1930年代のワシントン州の街並みにいるという現実に、かなりの非日常感を味わった。
私が演じたのは古いセダンの運転手役で、映画の主役と彼の恋人が歩くシーンの背景として、のんびりとブロック周りを運転しては歩行者の「エキストラ」たちを轢かないように気をつけるというものだった。映画は「The Boys in the Boat」というタイトルで、1936年ベルリンオリンピックのアメリカ代表ボートチームの実話を描く作品だ。主役のジョー・ランツ役を演じるのは英国人俳優カラム・ターナーで、監督はジョージ・クルーニー。撮影の多くは英国で行われ、友人のリチャード・リマーが所有するフォード・モデルTが初期シーンに登場する関係で、私にも出演の話が舞い込んだ。
制作側では1920年代のアメリカ車をさらに必要としており、リチャードがアクションビークルの責任者マレク・オイジンスキーに私を紹介してくれたおかげで、サイレンセスターにモデルTをトレーラーで運び、ランツが暮らす貧民街を再現したセットで静態展示として使用されることになった。右ハンドル仕様の私のモデルTは、シートを隠すためにタープで覆われ、傷みが進んだ見た目がセットと抜群の相性を見せた。
大作映画の細部へのこだわりには驚かされるばかりで、映らないかもしれない部分までが完璧に仕上げられている。特に印象に残ったのは、ボートチームの練習場として設けられた巨大な木製のボートハウスで、見事な造りに関心していると、撮影後には解体される運命と聞かされ少し寂しくなった。また、数百人に及ぶスタッフの仕事ぶりは、まさにプロフェッショナリズムそのもので、皆がその道を熟知していると感じられる動きだった。
その後、モデルTを引き取ってから数週間後、マレクから運転シーンにも出てみないかと声がかかり、二つ返事で了承。私のモデルTの他に数台の同年代の車も参加し、またしてもジョージ・クルーニーのすぐ近くで撮影に挑むことになった。彼は紳士的な人物で、主演のカラム・ターナーとも撮影の合間に少し話をすることができた。
これらの撮影は2022年夏に行われ、映画は2023年にイギリスで公開された。この雑誌(2024年4月号)が発売される頃、まだ一部の劇場で上映中かもしれないが、残念ながら車が登場するシーンのほとんどはカットされ、私のモデルTも一瞬映る程度。とはいえ、これもショービズの醍醐味だ。
文:Mark Dixon