予測不可能だった社会の変化と先端技術の定着
食料・農業・農村基本法の改正法案が国会に提出されたのと同時期の2024年2月、「農業DX構想の改訂に向けた有識者検討会」は8回にわたる会議を経て「農業DX構想2.0」を取りまとめた。
前身となる「農業DX構想」は、2020年3月の食料・農業・農村基本計画に基づき、農業及び食の関係者が農業DXを推進する際の指針とするために、農業DXの意義や目的、基本方針、取り組むべきプロジェクトなどをまとめたもの。この中では農業DXの意義について、「農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物や食品を提供していく農業への変革を実現すること」と説明された。
つまり、高齢化・人材不足といった深刻な課題に取り組みつつ消費者に届ける生産物の質を高めるには、データと先端技術を活用してビジネスモデルを根本から変革してしまうのが適している、と判断されたのだ。
それに基づき、生産現場・農村振興・流通などの現場に対する「現場系」プロジェクト、行政による業務の見直しや人材育成、働き方改革に資するための「行政実務系」プロジェクト、現場と農林水産省をつなぐ「基盤整備」プロジェクトに着手するとともに、データの標準化・オープン化など、データマネジメントのための取り組みも行われてきた。
データを活用した農業を行っている農業経営体の割合は、2020年から2022年の間だけでも17%から23%に上昇し、特に北海道は約6割に増加している(下図)。
しかし、その後の情勢変化を見ると、国内では農業従事者の高齢化や減少は止まらず深刻化しているだけでなく、世界的にはコロナ禍の対応に追われる中で、ロシアによるウクライナ侵攻など地政学リスクが増加し、食料供給の不安定化は加速した。一方、IT技術開発の進歩は目覚ましく、生成AIやWeb3などの新たなデジタル技術が登場し、短期間のうちに定着してきている。
こうした変化を踏まえてアップデートされた「農業DX構想2.0」は、デジタル化に取り組む関係者を後押ししモチベーションを維持させるためのメッセージと位置づけられる。この序文には「デジタル・ネイティブの若者が、次世代の農業を担う主力として活躍できるようになる」「農業・食関連産業の未来や、個々の農業者・食関連事業者の営農・事業の持続性の観点から、デジタル化というバスに乗り遅れる手はない」などとあり、DXに向かう中で次世代人材を増やすとともに持続可能な産業構造を築くことを目標としている。
DX実現へのナビゲーター「農業DX構想2.0」
DXを実現するまでにはいくつかの段階による道筋を組み立てていく必要がある。農業DX構想2.0で提示された道筋では、DXの起点を現場の改革意欲、中でも人手不足対応に置き、デジタル技術導入前後の支援策を経てどのようにステップアップしていくか、段階ごとに実現される姿が次のように描かれている。
デジタイゼーションの段階:デジタル技術の活用が軌道に乗り、作業・業務の効率化・省力化のメリットが表れる。 デジタライゼーションの段階:作業負担の軽減にとどまらず、収量の拡大や品質の向上などデジタル化によるメリットが拡大。データの分析・活用は外部サービスの利用が一般的になる。 DXの段階:個々の経営体単位でのデータ活用にとどまらず、複数の農業者等の間でデータを相互に連携させ、データの質・量を高めることによって、営農・事業のあり方や消費者への商品・価値の提供方法が従来とは大きく変わり、競争力が飛躍的に向上する。 |
さらに、農業DXによる「未来予想図」として描かれているのは、「『儲かる産業』として多くの人が携わり、都会に住んでいても日常的に関わることができ、信頼関係に基づいて情報交換・意見交換を行える共同体的な関係が築かれ、新鮮な農産物や特色ある郷土料理を楽しめる世界」としての農業・食関連産業である。
このほか、生産、経営、流通・消費、農村、行政の分野ごとの未来予想図も詳細に提示している。例えば、数多くの未来予想図が描かれた「生産」の最後を飾るのは、「新規就農者が抱く技術面・経営面での様々な不安や疑問は、形式知化された知見のほか、生成AIを利用することにより迅速に解決されるようになっており、その結果、農業は、新規参入のハードルが大きく下がり、安定した収入が得られる産業として多くの若者が就業を希望する人気職種となっている」未来である。農業を「夢と希望のある職業」に生まれ変わらせるためには、DXの取り組みが必要不可欠だろう。
なお、この文書は、農業・食関連産業のデジタル化に取り組む関係者に対して、それらの取り組みの現段階での位置づけを確認し、さらにすべきことは何かを知るための中間目標の役割を担っている。それぞれが抱える課題に応じて、構想を深め実行に移すナビゲーターとしての利用が期待されている。
また、最後に検討会から、「目まぐるしい進化を遂げるデジタル技術と情勢の変化を踏まえて、1年後をめどに新たな検討を開始すること」「新たな検討を始めるまでの間もデジタル化に取り組む関係者による議論や情報共有の場を設けること」が提案されている。
スマート農業技術を導入するための生産方式転換を支援
さらに、農業DXによる「未来予想図」として描かれているのは、「『儲かる産業』として多くの人が携わり、都会に住んでいても日常的に関わることができ、信頼関係に基づいて情報交換・意見交換を行える共同体的な関係が築かれ、新鮮な農産物や特色ある郷土料理を楽しめる世界」としての農業・食関連産業である。
このほか、生産、経営、流通・消費、農村、行政の分野ごとの未来予想図も詳細に提示している。例えば、数多くの未来予想図が描かれた「生産」の最後を飾るのは、「新規就農者が抱く技術面・経営面での様々な不安や疑問は、形式知化された知見のほか、生成AIを利用することにより迅速に解決されるようになっており、その結果、農業は、新規参入のハードルが大きく下がり、安定した収入が得られる産業として多くの若者が就業を希望する人気職種となっている」未来である。農業を「夢と希望のある職業」に生まれ変わらせるためには、DXの取り組みが必要不可欠だろう。
なお、この文書は、農業・食関連産業のデジタル化に取り組む関係者に対して、それらの取り組みの現段階での位置づけを確認し、さらにすべきことは何かを知るための中間目標の役割を担っている。それぞれが抱える課題に応じて、構想を深め実行に移すナビゲーターとしての利用が期待されている。
また、最後に検討会から、「目まぐるしい進化を遂げるデジタル技術と情勢の変化を踏まえて、1年後をめどに新たな検討を開始すること」「新たな検討を始めるまでの間もデジタル化に取り組む関係者による議論や情報共有の場を設けること」が提案されている。
①スマート農業技術の活用及びこれと併せて行う農産物の新たな生産の方式の導入に関する計画(生産方式革新実施計画) ②スマート農業技術の開発及びその成果の普及に関する計画(開発供給実施計画) |
①②ともに、農水省に申請して認定を受ければ税制特例や長期低利融資などを受けられる(下図)。
また、導入コストや専門的知識といったハードルを下げるために、農業者などを支援するサービスを「スマート農業技術活用サービス」として定義づけ、これを行う事業者には税制・融資などの支援措置を講ずることとした。
サービスの例としては、専門作業受注型(ドローンによる農薬散布などの作業受託サービス)、機械設備供給型(収穫ロボットなどのレンタル・シェアリングサービス)、人材供給型(専門的知識・技術を有する人材を現場へ派遣するサービス)、データ分析型(データ分析による最適化提案サービス)が挙がっている。
そのほか、スマート農業技術の活用促進のための国の措置として法に規定したのは次の通り。
スマート農業技術を活用するための農業生産基盤の整備 スマート農業技術を活用するための高度情報通信ネットワークの整備 スマート農業技術の活用に係る人材の育成及び確保 スマート農業技術を活用した農作業の安全性の確保 スマート農業技術等に関する知的財産の保護及び活用 など |
先端技術を活用して農業のあり方を変えていくためには、農業者などがスムーズに技術を導入できるよう支援する事業者の輪を広げていくことが大事だ。そして、そのように農業に関わる人のつながりが増え、関係が深まることは、農業の現状と未来への理解者を増やすことにもなるだろう。
今回の法改正議論は、変わらなければ日本の農業に未来はなく、国民の食料安全保障も確立できない、という危機感の共有から始まった。今後、あらゆる施策が具体化されていくが、課題を乗り越えるためのハードルは決して低くはない。だからこそ、農業に関わる人だけの問題にせず今後の動きに関心を持ってもらえることを願って、この連載を終わりたい。
出典
農林水産省: