日本人女性が罹患するがんの第1位は、「乳がん」です。しかし、乳がんとはどのような病気なのか、詳しく知る機会がない人も多いでしょう。そこで今回は、乳がんの概要やなりやすい人の特徴、自分でできるセルフチェックをご紹介。乳がんの早期発見に効果的な乳がん検診についても解説します。

■「乳がん」はどんな病気?

乳がんとは、乳腺の組織にできるがんのことで、その約90%は乳管から発生するため、「乳管がん」と呼ばれています。ただし、約5〜10%は小葉という部分から発生し、「小葉がん」と呼ばれます。また、乳腺以外の乳房の組織から発生することもあります。

乳がんは、小さいうちに見つけると治る可能性の高い病気で、早期発見ができると90%以上は治ると言われています。しかし、進行してしまうと乳房近くのリンパ節や骨、肝臓、肺などの臓器にがん細胞が転移し、さまざまな症状を引き起こしたり、命を脅かしたりします。

なお、乳がんは男性にも発生することがあり、女性と同じように、多くの場合は乳管から発生します。女性の乳がんと比べて、予後(病気や治療などの医学的な経過についての見通し)に大きな差はありません。ただし、男性の乳がんは、女性の乳がん患者100人に対して1人程度のまれながんです。

乳がんの主な症状は、「乳房のしこり」で、自分で乳房を触った時に気付く場合もあります。また、乳房にくぼみができる、乳輪や乳頭がただれる、左右の乳房の形が非対称になる、乳頭から分泌物が出るなどの症状が起こることもあります。

ただ、乳房のしこりは、乳腺症など乳がん以外の原因で発生することも。気になる症状がある場合は、乳腺科や乳腺外科などで早めに診察を受けましょう。

■乳がんになりやすい人の特徴とは

乳がんは、日本人女性が最もかかりやすいがんで、9人に1人の女性が生涯の間に乳がんにかかると言われています(2019年データに基づく累積罹患リスク:参照元)。また、乳がんで年間1万5,912人が亡くなっています。(女性、2022年:参照元)。

なお、乳がんになりやすい年齢を見ると、30歳代後半から増え、40歳代後半と60歳代前半がピークとなっています。

では、乳がんになりやすい人に特徴はあるのでしょうか。乳がんのリスク要因についてはまだはっきりとしたことはわかっていませんが、その中でも以下のような要因が考えられています(日本医師会:参照元)。

・初経年齢が早い
・閉経年齢が遅い
・出産歴がない
・初産年齢が遅い
・授乳歴がない
・閉経後の肥満
・飲酒習慣
・第3度近親者内に乳がんの家族歴がある
・良性乳腺疾患の既往歴

出産・授乳歴のほか、生活習慣、乳がん経験のある家族からの遺伝などさまざまな要因が挙げられています。乳がんの発生や増殖には、性ホルモンである「エストロゲン」が重要な働きをしていますが、上記のリスク要因は、体内のエストロゲンレベルに影響を与えるものがほとんどです。

(※)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計、全国がん登録)

■自分でできるセルフチェック

乳がんの早期発見には定期的な検診が重要ですが、乳がんは身体の表面に近いところに発生するため、自分で触れたり観察したりすることで発見できる可能性もあります。セルフチェックする場合は、以下の点について確認してみましょう。

・乳房に変形や左右差はないか
・しこりがないか
・ただれていないか
・引きつれがないか
・へこみがないか
・出血・異常な分泌物が出ていないか

セルフチェックは、入浴前の鏡の前や入浴中、就寝前のベッドの上などで行うのがおすすめです。入浴中なら、手に石けんをつけて滑りを良くしておくと、皮膚の凹凸がわかりやすくなります。腕を上げ、乳房の表面に渦を描くように触れ、しこり・こぶなどがないか調べます。その後、指先をそろえてわきの下に入れ、リンパ節に腫れがないか確認しましょう。

特に、乳がんは左右の乳房ともに「外側の上部」に発生しやすいことで知られていますので、重点的にチェックしてください。

また、こうしたセルフチェックは、「毎月1回」を習慣にしましょう。乳房の状態を短いスパンで確認しておけば、小さな変化が現れた時に気づきやすくなります。閉経前の方は月経終了後1週間〜10日の間に、閉経後の方は一定の日にちを決めて行いましょう。

■乳がん検診は何歳くらいから受けるべき? 検診の頻度は

乳がんに罹患する人は30歳代後半から増加することもあり、乳がん検診は「40歳から、2年に1度のペース」で受診することが推奨されています。検査方法としては、マンモグラフィや超音波検査などがあります。

日本では、マンモグラフィによる乳がん検診が行われていますが、乳腺の密度が濃い「高濃度乳房」ではしこりを見つけにくいとされています。そのため、特に40歳未満の若い女性など乳腺の発達した人の場合は、マンモグラフィより超音波検査のほうが診断に役立つことがあります。

超音波検査は任意の受診であるため、費用は自己負担となりますが、余裕があればマンモグラフィと両方受診すると良いでしょう。

最後に乳がんの予防法(早期発見に仕方)に関して、乳腺外科の専門医に聞いてみました。

乳がんは、女性のがんでは最も多く、若い世代でも罹患しうる疾患です。早期に治療すれば治る可能性が高く、手術や薬物治療など、様々な治療が確立しています。「ブレストアウェアネス」という乳房を意識した生活習慣と、適切な乳がん検診の受診が、早期発見に繋がります。

規則正しい生活とともに、定期的な自己触診で自分の乳房の状態をよく把握しておくことが大切です。少しでも不安なことがあれば、迷わず乳腺外科のある医療機関を受診しましょう。

鈴木 瞳(すずき ひとみ)先生

一宮西病院 乳腺外科/部長
資格:日本外科学会 外科専門医、日本乳癌学会 乳腺専門医