佐川グローバルロジスティクスのECプラットフォームセンター「EC Logi Tokyo」は、多品種小ロットのECに向けた従量課金制の物流センターだ。その背景にはAIを搭載した機種含む4つの最新ロボットがあった。同社の大室和也氏に導入の経緯と変化の過程を聞いた。

  • 「EC Logi Tokyo」について解説する、佐川グローバルロジスティクス 大室和也氏

SGホールディングスグループのDX戦略

総合物流企業グループとして、日本の物流を支えているSGホールディングス(以下、SGH)グループ。佐川急便を中核とするSGHグループは、中期経営計画の柱としてDX戦略推進を掲げ、3つの柱のもと施策を進めている。ひとつ目はサービス強化。ふたつ目は業務の効率化。そして三つ目がデジタル基盤の進化だ。

同グループは1980年代から積極的にITの導入に取り組んでおり、2024年には3度目となるDX銘柄に選定された。SGHのDX戦略に合わせ、各事業会社が各領域において企画を立案、そしてグループ会社のSGシステムが構築を行うという形で、同社のシステムは作られている。

だが、SGHグループにとってDXは手段であって目的ではない。なぜなら、同グループの使命とは“物流を絶対に止めない”だからだ。それゆえにあえてオートメーション化を行っていないラインもあり、人とDXを融合させることを第一としている。この方針は、物流の2024年問題と言われる人手不足の対策や、大規模災害時の対策としても有効に働いているという。

そんなSGHグループの総合力を集結したのが、東京都江東区の次世代型大規模物流センター「Xフロンティア」だ。

  • 大規模物流センター「Xフロンティア」

従量課金制を採用したEC向け物流センター

2020年1月、SGHグループは7階建ての次世代型大規模物流センター「Xフロンティア」を竣工した。敷地面積は約7万3,261平方メートル。通過型物流センターと在庫型物流センター、さらにグループ各社の多様な物流機能が交わるフラッグシップセンターという位置付けだ。

1~4階に佐川急便の大規模中継センター、5階の半分にSGHグローバル・ジャパンの国際物流拠点、残り半分に佐川グローバルロジスティクスのロジスティクスセンター、6階にオフィス移転サポートなどを行うSGムービングなどが入居しており、物流機能を集中させるとともに、フロア間が連携することでシームレスな物流サポートを実現。同グループの一大拠点となっている。

佐川グローバルロジスティクス(以下、SGL)は、このロジスティクスセンター約6,400坪のうち、約3,600坪をECの物流に特化した「EC Logi Tokyo」として運用している。その大きな特徴は「従量課金制」にある。

4つのロボットが多品種小ロット時代を支える

ECでは商品の少量管理・少量発送が多く、コンテナ単位で管理する従来型の物流センターでは空間や業務スペースに無駄が多い。また通販業者には中・小規模事業者が多く、その多くは物流センターとの契約における初期費用や固定費が大きな負担となる。

こういったEC業者の負担を軽減するとともに、エンドユーザーから注文があった商品を効率よく保管・梱包・出荷できるのが「シームレスECプラットフォーム」だ。ゆえに、最小限の負担で物流センターとの契約が行えるよう、「従量課金制」を採用している。

SGL 経営企画部 広報課 係長の大室和也氏は、「シームレスECプラットフォームで我々が目指したのは、ECへの参入障壁を下げることです。ECの特徴は荷物の種類・多品種小ロット。これをどうしたら効率よく保管・梱包できるかを考え、梱包から逆算して全体の設計を行いました」と述べる。

「従来の物流センターでは坪単位や棚単位で契約をしていただいていましたが、「EC Logi Tokyo」では商品一点から保管料、入出荷料、梱包資材費を計算するという『従量課金制』取っているんです。例えば“棚一本がA社、棚一列がB社”という形ではなく、商品の保管スペースを他社と共有していただくことで、保管効率を向上させました」(SGL 大室氏)

シームレスECプラットフォームで活躍するロボットは、自動梱包機「Carton Wrap」、ロボットストレージシステム「AutoStore」、無人搬送機「OTTO」、自動棚搬送ロボット「EVE」の4種類だ。

  • シームレスECプラットフォームの庫内レイアウト

自動梱包機「Carton Wrap」

多品種小ロットのEC物流において、一番のネックは梱包だ。ゆえに最初に導入が決まったのが自動梱包機「Carton Wrap」だったという。商品の縦・横・高さのサイズを計測し、自動でダンボールを梱包に最適な大きさに裁断するという優れものだ。さらに納品伝票と商品を入れて封をし、出荷伝票も貼付され、すぐに出荷できる状態まで自動で行ってくれる。その処理能力は1時間当たり800ケースに及ぶという。

  • ロボットが自動でダンボールを裁断し、折りたたみ、封をして、伝票も貼り付ける自動梱包機「Carton Wrap」

「複数の商品が注文された場合は人の手で梱包しますが、通販で一人のお客さまが注文する数は1点が多いんですね。その場合は自動梱包機の方が適しています。最適なサイズで梱包するので、運賃が安くなるというお客さまや取引先さまにとってのメリットもあります。またそのぶん多くの荷物を1台のトラックに積むことができ、車両数を減らせるので、CO2の排出も削減できます。必要に応じてダンボールが歪んだりしないよう加工も施しますので、緩衝材の使用が最小限で済むのも強みです」(SGL 大室氏)

  • 「Carton Wrap」が作ったダンボールのサンプル。衝撃で商品が破損しないよう、特殊な形に折りたたんでいることが分かる

「Carton Wrap」の製造元はイタリア。海外製ゆえに当初は日本の環境と合わない面もあり、例えば湿気で出荷伝票がうまく出力されないというトラブルもあったというが、試行錯誤を繰り返し、現在では緻密なダンボール加工にしっかりと対応している。

ロボットストレージシステム「Auto Store」

多品種少量・ロングテール商品を主に取り扱う自動倉庫小型ピッキングシステム「Auto Store」は2021年1月に稼働を開始した。

  • 高い収納効率を誇るロボットストレージシステム「Auto Store」

高い収納効率を誇り、3,800立方メートルの容量のなかに約50万点の商品を保管可能。ポートと呼ばれる出庫口が4台あり、1台/1時間当たりおよそ150個を処理できるという。上部から見るとグレーのケースがキッチリと積まれており、そのうえをロボットが24時間/365日ひっきりなしに移動していることが分かる。

  • 「Auto Store」内をつねに移動して回っているロボット

ポートから人が出庫を指示すると、ロボットが該当するケースをポートに運ぶ仕組みだ。AIが出荷頻度などを学習し、夜間等の時間に自動で商品を最適な位置に入れ替える機能も備えている。

  • 入出庫用のポート。人の手でロボットに指示を出し、ピッキングしたものを出荷用のロボットに載せる

  • ピッキングを指示した商品は、作業員の手元に自動で届けられる

「Auto Storeは電灯を消して暗い状態になっていますが、ロボットが作業を行うので明るくする必要が無いんですよね。結果として節電になっています。夜間は本当に真っ暗ななかでロボットだけが動き続けている状態になりますよ」(SGL 大室氏)

無人搬送機「OTTO」&自動棚搬送ロボット「EVE」

そして無人搬送機「OTTO」、自動棚搬送ロボット「EVE」は、「Autostore」と同様に保管やピッキングを担う。こちらは自動梱包機「Carton Wrap」と同じ2020年4月に稼働を開始している。

「OTTO」は、最大積載量100Kgまで対応する搬送機。商品入荷時の棚までの搬送や、人がピッキングした商品を出荷用のベルトコンベアに乗せるまでの搬送を担当している。ロボット同士や人との衝突といった万が一のトラブルを防ぐため、センサーが使用されているそうだ。

  • 倉庫内で商品の搬送をサポートする無人搬送機「OTTO」

  • 小型ながら、最大積載量100Kgまで搬送できるというパワーを秘めている

自動棚搬送ロボット「EVE」は、商品の入った棚をそのまま搬送してくれるAI搭載ロボットで、46台が導入されている。床に貼付されたQRコードを読み取って移動を行い、従来の“人が棚まで歩いて行き、商品をピッキングする”物流センターとは逆のアプローチによって、作業の効率化とスタッフの身体的負担軽減の両方を実現しているという。

「物流センターで1日働くと、2~3万歩は歩くことになります。これは体力的なしんどさはもちろん、無駄な時間にもなるんですね。倉庫の床はコンクリート打ちっぱなしなので、高齢の方や女性の方には負担も大きいようで、スタッフのみなさんからも歓迎され、多様な働き方の推進にも役立っています」(SGL 大室氏)

  • 棚をそのまま人の近くまで運んできてくれる自動棚搬送ロボット「EVE」

  • 自動棚搬送ロボット「EVE」は、床のQRコードを読み込んで移動する

SGHグループにとってDXはあくまでツール

一般的に、約3,600坪の物流センターで荷物を処理するためにはおよそ200人ほどの稼働が必要となる。それに対し「EC Logi Tokyo」は約半分、100人弱の人員で作業ができるよう設計されているという。残りの半分をロボットが補っている形だ。

大室氏は「実はやろうと思えばほぼフルオートメーション化も可能」と言うが、「EC Logi Tokyo」では職場を“人とロボットの共創の場”としているという。これは、繁忙期と閑散期の波が非常に大きいという物流業界特有の理由がある。

「例えば年末年始やブラックフライデーは、平常時と比べて荷物の量が跳ね上がります。物流は労働集約型産業なので、波を吸収するために繁忙期は人を大量に雇って処理するパターンが多いのです。これをフルオートメーションでやってしまうと、ロボットは100%以上のスペックを出せませんから、限界を超えたところで処理できなくなってしまうんですね」(SGL 大室氏)

もちろん、災害時等のリスク軽減という理由もある。ロボットは電力が無ければ稼働できない。万が一、停電が発生した際には増員した人の手だけで対応できるように、ロボットの稼働は約半分。これが物流における倉庫業を専門としてきたSGLが導き出した、物流を止めないための最適解となる。

「とはいえ、人手不足で人を集めるのもどんどん難しくなっています。今後、よりロボットに担ってもらわなければならない部分は増えていくでしょう。他の物流センター含め、適宜ロボットで代替できる箇所は代替していく形で導入していきたいと思います」(SGL 大室氏)

だが、DXは切り口のひとつに過ぎないという。課題解決に必要なものがDXならDX、乗り物なら乗り物と、その目的に必要なものを使う。それがSGHグループ全体の方針だ。

  • 「DXはあくまで手段のひとつ」と語る大室氏

最後に、SGH コーポレートコミュニケーション部 係長として広報を担当している山﨑智子氏は、SGHグループが掲げる理念と目標を次のように述べた。

「私たちは絶対に物流を止めない。物流インフラが止まると、経済もストップしてしまうからです。そのためには持続可能な施策でないといけません。いま日本では労働力不足が進行していますが、これになんの対策も講じなければ、2030年には輸送力が現在より30%低下すると言われています。そこをターゲットとして、課題ごとに最適なツールを使い、持続可能な物流を実現していきます。DXはあくまでそのためのツールのひとつなのです」(SGH 山﨑氏)