ヨーロッパ遺産の日に、軍事博物館とブシュロンを訪れる|文化や歴史に触れられる特別な日

ヨーロッパ遺産の日とは、各地で普段は訪れることができない場所が公開されたり、美術館などが無料で開放される特別な日だ。前回お伝えしたケリングに続いて、次に訪れたのはナポレオンの墓があるアンヴァリッドに併設されている軍事博物館。

【画像】軍事博物館の中庭に展示されたクラシックカーと、ヴァンドーム広場のブシュロン内部見学(写真25点)

アンヴァリッド併設の軍事博物館、中庭での展示

ここではFFVE(Fédération Française des Véhicules dÉpoque: フランス旧車連盟)が1914年から1945年までの車を展示していた。FFVEはフランス国内の旧車クラブの総本山で、1000を超える車のクラブや45の博物館を統括する連盟だ。FFVEでは旧車を修復するための内装、塗装、板金、さらには機械工学などの技術を継承しており、これらの旧車修復技術はフランスの無形文化遺産にも登録されている。この技術の保護と継承が評価され、ヨーロッパ遺産の日に展示が行われた。

アンヴァリッドはルイ14世が建設した軍人の病院であり、退役軍人の療養所跡である。栄誉の中庭と呼ばれる広場に6台の車が展示された。

第一次世界大戦時、パリから兵士を急いで西部戦線に派遣するために使われた「マルヌのタクシー」として走ったルノーAG1が、およそ600台活躍し、ルノーの性能を証明するきっかけとなった。今回展示されたのは、その少し後、1921年3月9日にルノーの工場から出荷されたルノーGSだ。20世紀初頭まで右ハンドルだったが、このモデルから左ハンドルに変更され、ルノーで初めてベルトコンベアで製造されたモデルでもある。

次に、1923年のモール。このブランドは1895年から1925年までパリに存在していた。展示されたモデルは「3S(Sans Soupape Silencieux)」で、「バルブのない静かなエンジン」を意味する。

また、マルヌのタクシーと同時代に、フランスのアミルカーはレーシングカーを作り続けた。1912年にジャン・アンリ=ラブルデットが考案したスキッフタイプのボディスタイルで、船の船尾にインスパイアされた尖った形状を持ち、光沢のあるマホガニーを使用している。今回展示されたのは、1926年のCGS/CGSS(シャーシ・グラン・スポーツ)だ。

次に展示されたのは、1926年のロレーヌ・ディートリッヒ A4。元々フランスで鉄道向けの客車を製造していたブランドで、20世紀に入ると自動車製造に参入。1903年と1925年のパリ-マドリッドレースや、1926年のル・マン24時間レースで1位から3位を独占するなど、歴史的なレースで活躍したブランドだ。

1935年のロールス・ロイス20/25HPは、フランスのコーチビルダー、ケルナーによって製造された。この年の7月に納車されたモデルで、同じ仕様の車両は2台のみ製造された。ベースはロールス・ロイスと、もう1台はイスパノ・スイザK6だ。このロールス・ロイスは1953年にコレクターのポール・バドレが購入し、現在は彼の孫が所有している。2019年から2022年にかけて、イギリスのアルパインイーグル社によってレストアされた。

1940年のモデルはシトロエン・トラクシオン11B。トラクシオンは今年で90周年を迎え、生産台数の少ない1940年の車両番号118が展示された。この車両には、フランスのレジスタンスの英雄ジャン・ムーランの名前を冠した中学校からのボランティアが参加している。

こうして6台の貴重な車が、軍事博物館でのヨーロッパ遺産の日のイベントに展示された。

ヴァンドーム広場のブシュロンへ

その後、次に訪れたのはケリンググループの一員である高級宝飾ブランドブシュロン(Boucheron)。場所は高級ブランドが並ぶヴァンドーム広場だ。ブシュロンは1858年にフレデリック・ブシュロンによって創業された。当時、流行に敏感でありながら革新的なデザインが評価され、パレ・ロワイヤルにブティックを構えていた。しかし、パリにオペラ座ができると、オペラ座界隈が高級ブランドの集まる場所に変わり、1893年にヴァンドーム広場に移転した。ブシュロンはアトリエとブティックを備え、最上階にはフレデリック・ブシュロン自身が住んでいた。

ヨーロッパ遺産の日には特別なガイドがブティックの内部を案内し、今も残るベッドルームなどを見学することができた。また、ブローチがブレスレットやネックレスに変わる仕組みのあるモデルなど、ブシュロンのコンセプトを感じられる歴代のブシュロン宝飾品の展示も見ることができた。残念ながら撮影できる場所は限られていたが、この特別な日に、こういったブランドの歴史的な品々が公開されたのは感慨深い。ブシュロンの宝飾品のいくつかは文化遺産としても指定されている。

フランス旅行を計画するなら、ヨーロッパ遺産の日を目指して訪れるのも、一生の思い出になるかもしれない。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI