女性の社会進出に伴い、近年注目を集めるようになった卵子凍結。東京都は9月30日、卵子凍結の理解促進のためのセミナーを渋谷区にある東京ウィメンズプラザ ホールにて開催した。
卵子凍結って何? どうやるの?
卵子凍結とは、卵巣から採取した卵子を将来の妊娠に備えて凍結保存することである。子どもを産み育てたいと望んでいるものの、さまざま事情によりすぐには難しい人にとって、将来の妊娠に備える選択肢の一つとして、近年注目されている。
都では2023年度より「卵子凍結に係る費用」への助成を開始。都内在住の18歳~39歳の女性を対象に卵子凍結にかかる費用のうち、1人あたり最大20万円+保管更新時の調査に回答した際、1年ごとに一律2万円を助成している。
今回開催されたセミナーは性別・年齢問わず誰でも参加可能となっており、幅広い人に卵子凍結を理解してもらうことを目的に開催された。セミナー当日は平日の夜にも関わらず、リアルとオンラインをあわせて300名を超える人が参加した。
冒頭、上映された主催者挨拶動画で、小池百合子都知事は「東京都は、望む人が安心して子どもを産み育てられる社会の実現を都政の最優先課題の一つに位置付けています。卵子凍結への支援は、妊娠、出産を望む女性の選択肢を広げ、多くの反響を頂戴しています。希望する女性が安心して卵子凍結を選択するには、家庭や職場など周囲の理解が欠かせません。東京都は正しい知識の普及を図っていきます」とメッセージを残した。
セミナーには東邦大学医学部産科婦人科講座教授 片桐由起子氏が登壇。はじめに卵子凍結について、「卵子凍結とは、卵子を体の外に取り出して凍結保存をしておくことです。すなわち、受精前の卵子を凍結することであり、不妊治療で行われている精子と卵子を受精させた受精卵で凍結保存しておく体外受精とは異なります」と説明。
続けて、卵子凍結の方法について「通常は排卵誘発剤を使用し、卵巣刺激をして複数の卵子を育て、効率よく卵子を回収することを目指します。卵巣刺激は複数の方法がありますが、多くの場合がペン型の注射薬をおなかに注射します。その一方で、排卵誘発の薬も併用し、人工的に排卵に向けた引き金を引き、卵子を回収していくのです」と解説した。
卵子凍結のメリット・デメリット
続いては、卵子凍結のメリット・デメリットについて解説が行われた。
メリットとして、片桐氏は「卵子の時間を止められること」を挙げた。同氏によれば、卵子は年齢とともに数が減少し、その質は低下していってしまうが、凍結保存によってこれを食い止めることができるという。そうすることで妊娠の可能性を将来に残し、スキルアップ・キャリアアップなどライフプランの選択肢が広がるというメリットを伝えた。
その中で同氏は、「ピルなどで排卵が抑制されていると卵子が温存できるという考え方がありますが、残念ながら時間経過とともに失われていくものの方が圧倒的に多いのです」との補足した。
卵子凍結のデメリットとして1つ目に挙げられたのは「身体的負担」である。同氏によれば、排卵誘発剤の投与によって、腹部の張りや吐き気、体重増加、尿量の減少といった卵巣過剰刺激症候群のリスクが上がるという。また、採卵時は長さ約35cmの針の先を卵巣に向けて刺すため、身体的な負担がかかってくるのは言うまでもない。
2つ目には、「経済的負担」が挙げられた。セミナーで紹介された参考費用(片桐氏調べ)では、採卵までの費用に約40万円、卵子の凍結保管料が約15万円(1個1万円×15個の場合)、合計約60万円が必要になってくる。また忘れてはいけないのが、卵子を使うまで保管しておくための保管更新料である。5年間で約25万円と仮定すると、採卵費用とあわせて合計80万円を超える費用がかかることも。
3つ目は「卵子凍結が将来の妊娠を保証するものではない」ということだ。1個の未受精凍結卵子あたりの出産率は約4.5%~12%と報告されており、1人の子ども出産するためには10~15個ぐらいの卵子が必要と言われている(※)。つまり"卵子凍結=出産"と簡単に考えることはできないのだ。
最後のデメリットは「高年齢妊娠・出産のリスク増加」である。片桐氏は、「出産は母子が元気で当たり前というのは大間違い」と言い、次のように説明した。
「例えば、血圧が高くなって早産の原因になったりすることも多い妊娠高血圧症候群になってしまう確率は、20歳代の妊婦さんでは9~10%ですが、30歳代後半では20%、40歳以上の妊婦さんでは45%を超えます。また、脳卒中や心筋梗塞など循環器に関わるリスクも、30歳代後半では2倍、40歳以上では3倍になります」
これらのメリット・デメリットを紹介した上で片桐氏は、「卵子凍結というテクノロジーが自分にとって本当に必要かどうか、"今の自分"に必要かどうかということを一人ひとりがよく考え、選択・決定することを支援したいと思います」と、参加者に伝えた。
卵子凍結のギモン
セミナーでは、参加者から事前に寄せられた質問に片桐氏が回答。その中でも興味深かったものを紹介していこう。
Q. 卵子凍結するかどうかを確認する指標や検査には、どんなものがありますか?
A. 卵巣予備能を知る指標として、AMH(抗ミューラー管ホルモン)の血液検査があります。また、低膣超音波で卵巣に見える胞状卵胞という黒い小さい丸の数を数える方法があります。しかし、これらの方法は低用量ピルを長期にわたって内服しているような場合には、実際の卵巣予備能よりも数値や超音波の所見というのが低く出る傾向があります。その点もきちんと説明してもらえる医療機関で話を聞いてみるのがよいでしょう。
Q. 凍結した卵子の保存可能期間はありますか?
A. 技術的に保存可能期間というのはありません。また、技術的に何年以内に使用しなければいけないという目安もありません。
ですが、利用に関しては、"女性の生殖年齢を超えない"ことが社会的ルールになっています。生殖年齢というのは具体的に何歳ということはなくて、多様な考え方があるため、凍結保管する医療機関の説明内容をよくご確認いただければと思います。
最後に片桐氏は、「今、SNSなどで卵子凍結の情報があふれていますが、公共性の高いところからニュートラルに発信されている情報を参考にしてみてください。例としては東京都の取り組みをはじめ、日本産科婦人科学会や日本生殖医学会などです」と、情報収集のポイントについても触れた。
※出典元:Liang. and MutanT. Advances in Experimental Medicine and Biology. 2016 および Practice Committees of ASRM. Mature oocyte cryopreservation: a guideline. Fertil Steril.2013より