ビジネスパーソンにとって避けられない業務のひとつに「出張」がある。コロナ禍で機会が激減していたが、ここにきてコロナ禍以前まで回復してきた。
この出張に関し、ビジネスパーソンがどんな意識を持ち、どのような効用が期待できるのかを調査したパーソル研究所のオンライン発表会を取材した。
出張は若い年代ほど否定的
さまざまな観点からビジネスパーソンに関する定量調査を実施しているパーソル総合研究所では、宿泊を伴う出張に関しても調査を実施している。ユニークなのは、年代ごとの意識や直接的な効果だけでなく、出張地域における副次的な効用についても考察していることだ。
発表会は同研究所の上席主任研究員である井上亮太郎氏の出張業務に関する分析から始まった。
「まずは出張前と後での意識を調査しました。肯定的にとらえているのは、出張する前では75.8%だったのに対し、した後では50.4%に減っていました。これは実際に出張してみて、オンラインでもよかったと思った結果です。また、年代別に出張への意識を問うと、『今回に限らず出張には行きたいとは思わない』人の割合は、20代や30代が多くなる傾向が見られました」(井上氏)
以前取材した『転勤』と同様、若い世代ほど否定的な意識を持つ人が多いようだ。同調査では、『行きたくない理由』についても深堀している。
「上位には『長距離の移動が面倒くさい』や『移動時間が無駄だと思う』といった理由が挙げられました。特徴的なのは、若い年代に『同行者がいると気疲れする』や『慣れない場所でのストレスは避けたい』といった理由が多くなっていることです」(井上氏)
ここでも若い世代における個人主義の高まりやストレス耐性の低さを裏付ける調査結果となったようだ。
出張時の業務時間外の過ごし方が効用に影響
出張に対する否定的なデータも出ているが、、ポジティブな面はないのだろうか。効用があったという部分について、井上氏が次のように解説した。
「回答では『その場の雰囲気を肌で感じられる』(77.0%)や『相手とのコミュニケーションがとりやすい』(76.2%)が上位にきました。それら以外では『新しいアイデアが生まれる』といった『新たな気づき』や『仕事に対する意欲が高まる』という『前向きな態度変容』、『出張業務以外の新しい仕事が得られる』等の『偶発的なビジネス拡大』につながる回答も多く見られました。当研究所では、これら3つを出張の機能に位置付けました」(井上氏)
調査では、さらに出張移動中の過ごし方と出張の機能との関係性も調べている。
「出張の移動中は、仕事や自己研鑽、娯楽、何もしていなかったなどさまざまですが、自己研鑽をしていた人ほど『新たな気づき』機能が高くなる傾向にあります」(井上氏)
出張に否定的な理由として、『移動時間が無駄だと思う』といった回答が多くなっていたが、無駄にするかどうかは自分しだい。自己研鑽に努めることで、新たな気づきが得られることを知るべきだろう。
有意義な出張には適度な余白時間も大切
出張を有意義なものにするためには、移動中だけでなく、業務時間外の過ごし方も重要なようだ。井上氏がこう指摘する。
「業務時間外の過ごし方を『巣ごもり』と『懇親のみ』、『娯楽』、『懇親&娯楽』の4タイプに分け、3つの出張の機能との関係性を調べたところ、いずれも『巣ごもり』が低く、『懇親&娯楽』が高くになる傾向がありました」(井上氏)
加えて、出張前後や出張中に休日を入れた場合の影響も明かされている。
「出張前後・出張中に休日を入れた人のほうが、出張先で娯楽を楽しんだ割合が高い傾向があります。出張を肯定的にとらえ、自身の学びや成長の機会にするためには、適度な余白時間を設けることが大切です」(井上氏)
筆者がメインの仕事にしている求人広告の原稿では、出張が多い企業の場合、地方のグルメを楽しめることをメリットとして自社のPRポイントとすることも少なくない。それが有用な出張の機能につながるとしたら、あながち見当違いではないということか。
出張は地域貢献意識や地域愛着も高める
宿泊を伴う出張は、視点を変えれば宿泊を伴う旅行でもある。同調査がユニークなのは、こうした視点から出張地域との関係性にも目を向けている点だ。
「出張先地域に対する貢献意識を聞いたところ、『地域の消費に貢献したい』と『ふるさと納税を利用したい』、『イベントやボランティア活動に参加したい』の3つの意識で2割以上の人が高まったと回答しました」(井上氏)
こうした出張先地域に対する貢献意識は当然、地域愛着にもつながるものだが、井上氏は出張先での地域住民との交流機会が地域愛着をさらに高めると説く。
「地域住民との交流を『簡単な挨拶の機会』、『軽い会話の機会』、『対話・議論の機会』、『連絡先の交換』の4つに分け地域愛着との関係性を調べたところ、いずれも交流機会が多いほど地域愛着が高まることがわかりました」(井上氏)
インターネット社会になった今日、出張はオンライン会議で事足りると考える人が多いかもしれない。
しかし、出張は自己成長を促したり、地域愛着を高めたりする効用があることがわかった。否定的に考えず、前向きに取り組む視点があってもよいだろう。