NTTカードソリューションは、テレホンカードの製造・販売を一手に引き受けていた会社だ。公衆電話が減少した現在は、金融事業を柱としてキャッシュレス社会と地域社会への貢献を進めている。同社の歴史と現在の活動を、代表取締役社長の赤星賢太氏に伺ってみよう。

  • NTTカードソリューション 代表取締役社長の赤星賢太氏に話を聞いた

テレホンカードの製造・販売を担ったNTTカードソリューション

公衆電話機用のプリペイドカードとして一世を風靡した、日本電信電話公社(通称:電電公社、現:NTTグループ)のテレホンカード。アラフィフ世代はポケットベルとともにお世話になった人も多いだろう。携帯電話の普及とともに公衆電話やテレホンカードの必要性も減少していき、現在はどちらもすっかり見かけなくなった。

NTTの再編後、そんなテレホンカードの製造・販売を一手に引き受けた会社が、1984年に法人化したテレカだ。2003年以降はNTTカードソリューションとして営業を続けている。

だが、同社は2019年9月13日にオリジナルデザインのカード印刷の注文受付を終了。いまはシンプルなデザインのテレホンカードを販売するのみとなっている。

世の中が移り変わっていく中で、現在の同社における事業の柱は金融だ。NTTカードソリューションが行っている業務とはどのようなものだろうか。同社 代表取締役社長の赤星賢太氏に、直接お話を伺ってみよう。

通信畑から金融事業の社長となった赤星氏

1992年にNTTに入社し、NTT東日本で「フレッツ光」の主幹を務めていたという赤星氏。その後の「コラボ光」では、7年間にわたりプロジェクトマネージャーという重役を担ってきた。そんな同氏が、NTTカードソリューションの代表取締役に就任したのは、2022年7月のことだ。

赤星氏は、「最初は『なんの会社だっけ?』という感じでした。通信事業しかやってこなかったものですから、金融事業などのグループ会社となかなか触れあう機会が無くて。ただ、コラボ光は通信業者さんだけでなくあらゆる業界が通信事業に参入できるサービスでしたので、リレーションも多かったんです。そういう観点ではあまり違和感なく飛び込めました」と当時を振り返った。

だが、NTTカードソリューションの事業は通信事業とは顧客が大きく異なる。関わる省庁も総務省から金融庁になり、赤星氏は関連する法律を一から勉強し直しながら、現在も代表取締役社長として腕を振るい続けている。

NTTカードソリューションの取扱商品を振り返る

NTTカードソリューションの代表的な取扱商品、テレホンカードの登場は、1982年のカード式公衆電話とともに始まった。ピークはPHSがサービスを開始する1995年で、製造・販売数は年間4億枚にものぼっていたという。それ以降は公衆電話、テレホンカードともに年々数を減らしていき、2022年度には公衆電話12.2万台、テレホンカード103万枚に留まっている。

  • テレホンカードの種類は、アートやアニメ、地域ごとのデザインなど多岐にわたる。ピーク時の1995年には、製造・販売数が年間4億枚にものぼっていた

だがテレホンカード以外にも、同社はQUOカード、ハイウェイカード、図書カード、ガソリン系カードなど、多くのプリペイドカードを取り扱ってきた。テレホンカードの需要減少に伴い、同社はプリペイドカード取り扱いの流れから、次の事業として電子マネーに関わる決済事業に本腰を入れる。

「当時、ゲームやECサイトなどでプリペイド型の電子決済が増加していました。当社も2002年の7月に、プリペイド式電子マネー『カレット』販売開始を提供しています。ちなみにカレットは『テレカ』を逆から読んだものなんですよ。カレットはその後2004年12⽉に『NET CASH』へ名称を変更しました。NET CASHはまだまだ一定のニーズがあり、現在も継続させていただいております」と赤星氏。

余談だが、携帯電話が十分に普及し、公衆電話は減少を続けている一方で、大規模災害のたびに緊急時の有効な通信手段として公衆電話の重要性は話題に上る。しかし公衆電話を見かける機会が減り、使い方がわからない子どもも増えている。そういった子どもたちのために、NTT東日本は「公衆電話の使い方教室」なども開催している。

現在の柱は「電子マネーギフト」と「地域通貨」

2000年代に入ると、「Edy」や「Suica」などさまざまな電子マネーがサービスを開始する。さらに2007年には「nanaco」や「WAON」といった小売業主導の電子マネーがスタート。キャッシュレス決済のニーズは目に見えて高まっていった。ここで打った一手が、現在に繋がっていくことになる。

「nanacoさんと連携をし、2008年に『nanacoギフト』というコードタイプの電子マネーを作りました。そして、こういったギフトカードを徐々に増やし、2011年に“選べる電子マネーギフト”として『EJOICAセレクトギフト』を世に送り出しました。もらう人が好きな電子マネーなどを選べるサービスの走りだったと思います」(赤星氏)

その後、スマートフォンが一気に普及を始め、2018年にはQRコード決済が始まる。政府もこれを後押しし、キャッシュレス・ポイント還元事業が行われた。またマイナンバーカード普及を進めるためにマイナポイント事業もスタート。ポイントをどんどんスマホに貯めていくという、いわゆる“ポイ活”が始まっていく。

「EJOICAセレクトギフト」もこういった動きに合わせ、取り扱い商品を増やしていった。現在では厳選された23種類の電子マネーやポイントサービス、ギフトカードに対応しており、より使い勝手が向上している。この電子マネーギフトが1本目の柱だ。

「電子マネーギフトの市場は非常に伸びていて、まだまだ成長市場です。我々はいま使えるラインアップを増やすこと、使っていただける企業を増やすことに尽力しています。競合他社さんもいらっしゃるんですけども、競合でありつつも協業先だったりして、みんなで盛り上げていければと思っています。世の中に電子マネーギフトをもっと広げていきたいと思います」(赤星氏)

では2本目の柱はなにかというと、デジタル地域通貨だ。従来、全国の自治体は地域活性のために「プレミアム商品券」という形で紙の地域通貨を発行していた。スマホの利用が広がりキャッシュレス決済が浸透する中で、このプレミアム商品券をデジタル化しようと考え、2020年にスタートしたのが電子地域商品券プラットフォーム「おまかせeマネー」となる。

赤星氏は、「2020年はコロナ禍という社会背景もあって、さまざまな給付がありました。配るためにオリジナルの旅行券とか商品券などが多数発行されており、それがキャッシュレス決済の普及と交わって、デジタル化の流れができていたわけです」と振り返る。

とはいえ、デジタル地域通貨は現状、期間を限定している事例が多い。たとえばあきる野商工会が行っていた事例も、有効期間を定めたものだ。これを恒常的に使われてるものにすることが、赤星氏が見据える今後の姿だという。

「この先、おそらく本当の意味での地域通貨になって行くと思っています。ただし、それには必要な機能やセキュリティ対策などが必要で、一社では難しいでしょう。いまは足元でプレミアム商品券のようなショットの事業をやりながら、自治体さんと関係持って地域の方と繋がりながら、恒常的に使っていただく方法を模索していく。それに合わせてサービスをどんどんブラッシュアップしている段階です」(赤星氏)

おまかせeマネーはもともとWebブラウザ型だったが、自治体アプリの中に決済機能を搭載したいといった要望を実現するため、7月に「おまかせeマネー・アプリ版」の提供を開始した。NTTカードソリューションはいま、本当の意味での地域通貨実現に向けて邁進している。

キャッシュレス社会と地域社会に貢献したい

NTTカードソリューションがいま企業として社会に貢献したいことは、「キャッシュレス社会の推進」「地域経済の活性化」のふたつだという。

「我々はこの二つを大きな社会課題だと認識しています。テレホンカードというキャッシュレスの走りとなったサービスをずっと続けています。DNAレベルでノウハウがあり、推進するマインドもあります。現金管理コストを削減できれば年間数兆円の効果がある、というデータもありますので、キャッシュレス決済の普及は力を入れてやっていきます」(赤星氏)

NTT東日本グループは、情報通信事業者という従来の姿から、地域の課題解決と価値創造を目指す会社へと変貌を遂げており、現在のパーパスは「地域循環型社会の共創」だ。赤星氏はデジタル地域通貨の役割を「地域循環型社会における血液」と表現する。

「多くの地域課題の根本にあるのは地域経済の活性化です。外部の電子マネーだと、お金が外に出てしまいます。デジタル地域通貨によって、地域社会の中でお金を血液のように循環させたいんです。EJOICAセレクトギフトとおまかせeマネーを一体化させ、地域通貨や地域独自のポイントを選べるようにして、旅行のパッケージに組み込んだりすることで、そのお金は必ずその地域で使われるようになります。こういった取り組みは地域循環型社会に必要なピースのひとつだと思うんですね。ここはしっかりやり遂げていく必要あると思っています」(赤星氏)

デジタル地域通貨には他の利点もある。それはデジタル化によって顧客の導線が見えたり、購買データが取れるという点だ。地域の商工会やアプリベンダーと手を取り合い、データドリブンな地域社会を作るというのは、情報通信事業者という従来のNTT東日本グループの強みを活かすことにもつながるだろう。

「現在、山形県長井市では地域通貨を使った地域循環型社会の取り組みを進めています。ここでは、地域通貨でスマートストアを利用したり、バスなどの公共交通機関を利用できます。人の消費行動、地域経済の循環が見える化されることって、とても大事だと思うんですね。ただ自治体だけではなかなかできないでしょうから、NTT東日本グループや商工会さん、地域の企業さん、他の大企業さんと連携体制を組むことで実現していく。それが、これから我々が目指していく世界観なのかなと思います」(赤星氏)

(撮影/曳野若菜)