藤井聡太王位に渡辺明九段が挑戦する伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は、藤井王位の3勝1敗で迎えた第5局が8月27日(火)・28日(水)に兵庫県神戸市の「中の坊瑞苑」で行われました。対局の結果、研究と読みのマッチした充実の雁木破りを見せた藤井王位が97手で勝利。4勝目を挙げて防衛に成功するとともに、永世王位の資格を獲得しました。

渡辺九段の後手番策は雁木

対局場の「中の坊瑞苑」は40年以上にわたって王位戦を中心としたタイトル戦が行われてきた名舞台。昨年の王位戦第2局で藤井王位は挑戦者の佐々木大地七段をこの地で破っています。さて本局、カド番に立たされた渡辺九段の用意した作戦は雁木。角換わりを避けつつ守勢の後手番を乗り切りたい意図がうかがえます。

先にまとまった時間を使ったのは渡辺九段でした。藤井王位が21手目にじっと飛車をひとつ寄ったのは本戦型における最先端の攻め方で、これに対し91分を投じたのはその後の攻め合いの方針を固めたもの。銀交換が行われた直後、渡辺九段は8筋の歩頭に銀をねじ込む強手を繰り出しました。

藤井王位の力強さ

渡辺九段の意表の一手は千日手歓迎の態度を示すもの。しかし先手の藤井王位はこれを否定するように積極的な指し回しを披露します。玉が自陣三段目におびき出される愚形も気にせず中央での勢力争いに出たのが自身の読みを信じた好着想でした。手順に角金交換の駒得を果たした藤井王位が先手番の良さを具現化した格好です。

波に乗った藤井王位の攻めは止まりません。狙われた飛車を切り飛ばして手番をキープしたのが勝因ともいえるギアチェンジ。飛車を打ち込まれて自玉の囲いが薄いようでも、直後に受けの好手の自陣角があって攻め合い一手勝ちになることはもちろん読み切りでした。ここから藤井王位の最後の寄せが始まります。

快勝で永世資格獲得

終局時刻は18時21分、最後は自玉の詰めろを認めた渡辺九段が投了。終局図で後手は詰めろを受けても一手一手の寄り形で、先手玉には詰みがない形でした。敗れた渡辺九段は感想戦で、中盤の早い段階から積極的に指す方針だったことを明かしましたが「すこし投げやりだったか」と振り返りました。

快勝でスコアを4勝1敗とした藤井王位は防衛に成功、あわせて5連覇で永世王位の資格を獲得しました(襲名は引退後)。シリーズ序盤には不安を残す内容だったものの後半にかけて復調した藤井王位は局後、「全体として内容的に押されていた将棋が多かったが結果には幸運があった」と喜びを語りました。

水留啓(将棋情報局)

  • これで通算タイトル獲得数は24期(歴代6位)、永世称号は永世棋聖に続いて2つ目となった(提供:日本将棋連盟)

    これで通算タイトル獲得数は24期(歴代6位)、永世称号は永世棋聖に続いて2つ目となった(提供:日本将棋連盟)