ドジャースの”悲劇”はいつまで続く…MLBで投手の故障者が続出、その理由と…

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 近年のMLBは”エピデミック”と呼ばれるほど投手の怪我が多い。ロサンゼルス・ドジャースにとっても例外ではなく、タイラー・グラスノー、山本由伸など故障者が相次いで続出してしまっている。これにはピッチクロック、身体の限界など様々な要因が指摘されている。今回はそんな投手の怪我の現況、投手の未来について見ていく。(文:Eli)
 

今シーズンのメジャーリーグは
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 今季のロサンゼルス・ドジャースは2023年シーズンの反省から、オフにタイラー・グラスノー、山本由伸、ジェームズ・パクストンを獲得し、エメット・シーハン、ボビー・ミラー、ギャビン・ストーンの2年目選手たちのブレーク期待、さらにはウォーカー・ビューラー、クレイトン・カーショー、ダスティン・メイの故障復帰組と先発投手デプスに球界屈指の余裕を持たせたはずであった。
 
 加えて傘下のマイナーシステムにはカイル・ハート、ニック・フラッソー、リバー・ライアン、ジャスティン・ロブレスキーなど魅力的なプロスペクトたちが待機していた。
 

 
 ところが、シーズンに入ると故障者が続出。スプリングトレーニング中に故障したシーアンを皮切りに、次々と故障、現時点では開幕ローテ投手の中で故障者リスト入りしていないのがストーンとパクストンだけになってしまった。
 
 パクストンをボストン・レッドソックスにトレードしてもなお頭数は足りているため、昨季のような悲惨な状況ではない。しかし、なぜこのような事態になってしまったのだろうか。
 

 
 実は投手の故障はドジャースだけの問題ではない。MLBでは”エピデミック”と呼ばれるほど投手の故障/長期離脱が蔓延している。近年でも多くのエース級や一線級リリーバーが長期離脱に追い込まれている。

 
 故障者は戦力的にマイナスとなるだけでなく、選手の責任ではないとはいえサラリーは無駄な支出となり、故障者リストが停止するオフにはロースター枠を故障者+代替選手2人分用意する必要がありと、チームにとって大きな負担となっている。





“剛速球“の有効性とリスクとは
 故障の拡散を語る際に、最も問題にされるのが球速である。2023年シーズンに平均96.0マイル(約154キロ)以上のファストボールを投げた選手の中、23-24シーズンスパンで故障歴がないのはコール・レーガンズ、ルイス・カスティーヨ、ルイス・オルティス、ジョージ・カービィの4人だけだ。他の投手は何かしらの故障離脱をしており、その半分程度が手術による長期離脱を強いられている。
 

 
 近年のメジャーリーグではピッチャーを評価する際に球速が重要な要素となる。これは球速を上げれば打者を抑えられる確率が加速度的に上昇するからだ。結果的にメジャー全体の球速は年々上昇しており、2007年に91.1マイル(約146キロ)だったフォーシーム平均球速は2017年に93.2マイル(約150キロ)を超え、今年は94.2マイル(約151キロ)となっている。
 
 投手にとっての最優先事項は打者を抑えることであり、投手は少しでも球速を出すために自分の身体の限界を超えてボールを投げようとしている。これが肘・肩に大きな負担となり故障につながると考えられている。
 

 
 ちなみに初回から全力で投げることは先発投手が4,5回あたりで降板することにもつながり、これが野球というエンターテイメント産業の価値を低下させているとする主張もある。
 
 特殊な変化球が肘・肩の負担につながっているとする説もある。米メディア『The Athletic』の取材において、テキサス・レンジャースのチームドクターを務めるキース・マイスター氏はスイーパーと高速チェンジアップが肘に大きな負担を与えると指摘している。これらの球種の変化量を大きくするにはボールをしっかりと握る必要があり、この際に負担がかかるという。
 
 問題は投手に球速や変化球を捨てさせるのは現行ルール上不可能であるという点だ。剛速球や大きく曲がる変化球は打者を打ち取るには非常に効果的だ。
 
 界隈では先発投手に長いイニングを投げさせるためにDHと先発投手のリンクや6回以上投げさせなかったチームへのペナルティ、さらには投手枠の削減まで提案されている。『The Athletic』のジェイソン・スターク氏とケン・ローゼンタール氏は、一定球速以上や特定球種の禁止まで踏み込んで提案している。





ピッチクロックとボールの問題

 
 選手側が怪我の原因であると盛んに主張しているのがピッチクロック導入と滑りやすいボールである。ピッチクロックは2023年シーズンに導入され、それまで無制限だった投球間の時間に制限時間が入った。これが投手の休憩時間を減らし体への負担が増えたと選手は主張する。
 
 加えて2024年シーズン終了後にはランナーありの状態で20秒→18秒へ時間がさらに減らされた。ポッドキャスト番組『ファウル・テリトリー』において、レンジャースの投手マックス・シャーザーはピッチクロック導入以降、怪我の重症度が上がったと主張している。
 
 また、先日トミー・ジョン手術を受けることになってしまったドジャースのリバー・ライアンは、ピッチクロックが体に継続的な負担を与えてしまっているとのコメントを残している。
 
 メジャー特有の滑りやすいボールも問題となっている。2021年シーズン中にMLB機構は投手が粘着物質をボールにつけて回転数を上げることを取り締まり始めた。
 
 しかし、そもそも投手が粘着物質を使用していたのはボールが大きく握りづらいものであり、コントロールミスによる死球を防ぐためであった。このことからMLB機構も粘着物質使用を黙認していた。回転数上昇による打撃力低下も問題だが、適応期間を経ずに突如として何も使用してはいけない、となったことで投手も困惑したようである。
 
 粘着物質だけでなくロジンの過使用や日焼け止や汗とのミックスまでも禁止され、ルールを理解していないうえでの退場処分も多かった。ドジャースのグラスノーはルール施行後、グリップの仕方・強さを変える必要があったことを度々発言している。
 
 関係者の間では滑りにくいとされているNPBボールの研究や禁止された粘着物質に代わる公式粘着物質の開発がささやかれているが、公式な動きは未だない。
 

 
チームに求められること
 今季のドジャースでは新たに3人がトミー・ジョン手術を受けることになってしまったが、オフに積極的な先発補強を行ったり、頭一つ抜けた育成能力で厚いデプスを持っていたりすることで何とかしのぐことができた。
 
 しかし、来季も同じ状況に陥った場合は上手くいかないだろう。決定的な解決策は依然出てきていないが、球速に頼らないピッチングスタイルの確立や耐久力のある選手の育成などへの研究が求められるだろう。

 
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【了】