8月も下旬に差し掛かり、長かった夏休みもあとわずか。子育てと仕事を両立する者にとって夏休みはひとつのハードルです。学校がない期間、我が子が日中どう過ごすか、昼食をどうするか等、普段以上に頭を悩ませる人は多いと思います(かく言う筆者もその一人……)。

家族構成や家庭環境、業種や職種など各々の状況により、理想の両立の仕方は異なるかもしれませんが、その選択肢が多ければ両立のしやすさにつながるのではないでしょうか。今回はその選択肢のひとつとなる"子連れ出社"を実践する企業を紹介します。

子連れ出社導入に至った経緯、どのような形で子連れ出社を実施しているのか、実際の雰囲気やお子さんの様子、さらに子を持たない人の意見を聞いたのでレポートします。

■開放的な空間でのびのび快適に過ごす子どもたち

今回、子連れ出社を実践する企業として取材させてもらったのは、クラウド会計ソフトを提供するfreee。広報ブランド部長の土島あずささんにお話をうかがいながら、実際の様子を見せてもらいました。

  • 今夏子連れ出社施策を開始したfreee

子連れ出社としてスペースを開放するのは朝9時から夜7時までの間、小学1年生~中学3年生までの利用を可としています。利用人数を把握する目的も含め、前日までに申請フォームへ入力をする運用にしていますが、当日の急な利用も受け入れているそう。

  • 子連れ出社向け、通称「つばめっ子スペース」

取材時は3名のお子さんがいましたが、多い時で10名ほどが利用し、初対面の子ども同士で遊んだり、中学生の子が年下の小学生の面倒を見るようなシーンも見られるなど、子ども同士の交流も活発なんだとか。

広々としたテーブルやコンセントのある席もあるので、宿題やドリルで勉強をしたり、デバイスで好きな映画やYouTubeを見るといった過ごし方も快適にかないます。

  • 窓側のカウンター席は集中したいときにぴったり。コンセントも設置されている

むきだしの天井や大きな窓から差し込む光で空間には開放感があり、お子さんたちものびのびと過ごしている印象でした。用意されたおもちゃやゲームで遊んだり本を読んだり、中には奥の大きなソファでお昼寝をする子もいるといいます。

子連れ出社を利用する親は同じ空間で仕事をしますが、「見守り隊」と呼ばれる有志のスタッフも常時在席しており、親が会議や打ち合わせなどで少し席を外すというシーンもあるそうです。

  • 保護者のほか、「見守り隊」と呼ばれる有志スタッフも常時在席している

子連れ出社と聞くと「ほかの従業員が仕事に集中できなくなるのでは?」 というイメージも浮かびますが、執務エリアではない場所を活用しているのでそのような心配はなく、親も子も、それ以外の従業員も快適に過ごせそうな印象を持ちました。

■子連れ出社立案からの準備期間はわずか5営業日?!

freeeでは以前から個別で子連れ出社を行う従業員がいたり、土日に家族を招いたファミリーイベントを開催するなど、オフィスに子どもを招くことにオープンな雰囲気があったそうですが、施策として取り組むのは今年の夏が初。社内のコミュニケーションツール内の子育て社員の情報交換チャンネル内で交わされた「夏休み中、子どもどうする?」という相談がきっかけだったといいます。

  • オフィスツアーで紹介していたスペースの一角「フリダシ」。freee公式SHOPとして、社名やシンボルのツバメがデザインされたオリジナルアイテムなどを販売している

子どもを自宅に残し出社することへの不安や、お盆休みで学童が利用できず困るといったリアルな声を、社内のDEI(Diversity, Equity & Inclusion)推進チームが拾い上げ、有志の運営委員会メンバーと共に本格的に子連れ出社を迎える体制を作り上げました。

ここで驚くのは、決断から実践までのスピード感で、準備期間に要した時間はなんと5営業日程度なのだとか。以前から従業員向けに開放していたフリースペースの一角を子連れ出社用のスペースに充てることで、費用もほぼかけることなくスタートしました。フットワークの軽さやスピード感は「日々の業務で心がける"アウトプット思考"による影響も大きい」と、土島さんは話します。

  • つばめっ子スペースを開設するにあたってルールを設定、スクリーンに投影して見られるようにしている

初の試み、しかも職場に子どもを迎えるとなれば、事前リサーチやリスク回避に向けた話し合い、そこから各所の合意をもらって……というステップで時間もかかりそうですが、「まずはやってみよう。やってみて課題が出たらまた考える」(これをfreee社内では"アウトプット思考"と呼んでいる)という企業風土が後押しし、この速さで実現につながりました。だからといって必要タスクを省いているということではなく、実現する上で懸念されるセキュリティや法律周りの課題に対し、社内の専門家チームと相談し、3つのルールを定めることで対策しています。

●管理監督責任は親が持つ
●執務スペースには基本的に立ち入らせない
●スペースには大人が必ず常駐する

土島さんの「子育てと仕事を両立する当人だけが辛い思いをしていても、良いことはないと思うんです。会社として"お子さんがいる方も働きやすい環境"を作ることで、従業員それぞれがより自分らしく働けるようにしていきたいと考えています」という言葉から、個人プレーではなくチームプレーで最大限のアウトプットを目指すからこその取組みであることも感じられました。

■子連れ出社は子を持たない従業員にもメリットが

子連れ出社を受け入れる取組みは、子育てしながら働く従業員のみならず、子を持たない従業員からも好評の声が届いているといいます。たとえば、子育てしながら働くメンバーの姿を目の当たりにした新卒社員の一人は、それまでリアルではなかった「結婚」や「子育て」が自分の将来像のひとつとしてイメージできるようになり、「子育てしながら働けるんだ」という安心感にもつながったと話したそうです。

  • つばめっ子スペースと従業員スペースはひとつながりで、子どもたちの様子を感じられる

また、土島さんも「今回の取組みを通して子育ての大変さや子育てと仕事を両立することの難しさなど、より解像度が上がりました。私自身も運営委員会のメンバーとしてお子さんとコミュニケーションをとりますが、それがとても楽しくて。『また来てほしいな』って思うんです」と笑顔を見せます。

  • 自身も運営委員会のメンバーだという、広報ブランド部長の土島あずささん。

さらに「お父さん・お母さんの会社や働く姿が見たい」といって訪れる子も多いそうで、子連れ出社が大人だけではなく子どもたちにとっても貴重な機会となっている様子がわかりました。

  • 「オフィスツアーするけど一緒に行く?」と土島さんが声をかけると二つ返事で「行きたい!」と喜んで参加する子どもたち

■今後はさらにブラッシュアップして実施も

今回は夏休み限定で導入した子連れ出社施策ですが、すでに「冬休みもやろう」「長期休みに限らず通年でやろう」といった声も上がっているそう。訪れる子どもたちが退屈せず楽しく過ごせるようなプログラムの実施も検討しているといい、今後の展開もさらに注目です。

  • 今後はさらにブラッシュアップして実施することを検討している

子育てと仕事の両立は一筋縄ではいかず、周囲に迷惑をかけながら働いている感覚も多かれ少なかれ持つ人が多い中、企業側がこうした選択肢を作ってくれることは心強く感じました。仕事と子育てを両立する従業員がより働きやすくなる選択肢のひとつとして、freeeの取組みは参考になるのではないでしょうか。