農家には小屋が必要だ
農家の家を訪れると、たいてい母屋とは別に2~3棟か、それ以上の小屋が建っている。トラクターなどの農業機械を保管したり、収穫物の出荷作業をしたり、作物を貯蔵したりと、そういう場所がいろいろ必要なのだ。
小屋の大きさや構造もさまざまで、腕のいい大工が建てた立派な木造建築の納屋もあれば、単管パイプの骨組みにトタン屋根を張った安っぽいガレージや、地面に埋めた丸太を柱にした掘っ立て小屋、庭先の簡素な無人販売所など、明らかに農家自身がDIYで建てたと思われる小屋も少なくない。
DIYに興味とやる気と道具があれば、自分で小屋を建てるのはそれほど難しくはない。ただその際、おろそかにできないのは法律だ。小屋の大きさや用途にかかわらず、建築物であれば「建築基準法」という法律を順守しなくてはいけないのである。
土地に定着し、屋根と柱もしくは壁があれば「建築物」
建築基準法では、建築物について次のように定義している。
「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの……」(この先にややこしい文言が長々と続く)
つまり、ニワトリ小屋であれ、無人販売所であれ、単管パイプのガレージであれ、この定義に当てはまらないものはないのであって、建築基準法に準拠していなければならないということになる。
建築基準法については、「e-Gov法令検索」のウェブサイトで全文を閲覧できるが、法令の文言というのはとにかくわかりにくい。私は法律の専門家ではないし、建築士でもない。この極めて難解な条文を正確に読み取るのは困難だ。そういうわけなので私がお伝えできるのは限られたポイントだけである。
いずれにしても建築物を建てるときは役所の関係部署に相談するのがいいと思う。何がよくて、何がよくないかは、解釈や条件によっても異なるし、建築基準法以外に自治体の条例が関わってくる場合もある。
ちなみに、「建築士法」では建築士しか設計や工事監理をしてはいけない建物が定められており、DIYで建てることができるのは「木造で、延べ面積が100平方メートル以下、2階建てまで(高さ13メートル、軒下9メートル以下)」の建物となる。本記事ではこの範囲で小屋を建てることを前提にしていることをあらかじめ断っておく。
「建築確認」を受けなくてもよい条件は?
建築基準法では、原則として建物を建てる場合には「建築確認」が必要とされている。これは簡単に言えば、これから建てる建築物が違法建築ではないことを証明するための手続きである。自治体などに申請をして、建築基準に適合しているか確認してもらう。ただ、簡単な造りの小屋を個人がDIYで建てようと思った場合、いちいち建築確認をするのは現実的ではない。そこで、一定の条件を満たせば、建築確認を原則受けなくてもよいとされている。その条件は、都市計画法で区分されたエリアによって異なる。
各エリアをおおまかに説明すると以下のとおり。
・都市計画区域:市街地を中心として計画的に街づくりを進めるエリア
・準都市計画区域:将来的に街づくりが行われる可能性を残すエリア
・都市計画区域外:それ以外のエリア
小屋を建てたい土地がどの区域なのかは、各自治体の窓口やホームページなどで「都市計画図」を見れば確認できる。
では、比較的広い農地が多いと思われる都市計画区域外のケースから説明していこう。
なお、以下で示す条件以外にも細かい制限があるが、ここではポイントとなるところだけを述べるにとどめている。
➀都市計画区域外の場合
都市計画区域外にDIYで建築物を建てる場合、以下の条件で建築確認が原則不要になる。
延べ床面積:100平方メートル以下
階数:2階建てまで
高さ:13メートル以下(軒下9メートル以下)
都市計画区域外というのは、いわゆる田舎である。水道や電気などのインフラが整っていない山林や原野はたいてい都市計画区域外だ。自治体の条例などにもよるが、そういう場所は、上記の条件であれば建築確認を受けなくてもDIYで建築物を建てられることが多い。ただし、延べ床面積が10平方メートルを超える建築物の場合は、建築工事届(※1)の提出が必要。
※1 建築主や設計者、工事監理者、床面積、構造、用途など、工事のあらましを記した書類。図面は必要ない。
②都市計画区域や準都市計画区域の場合
都市計画区域や準都市計画区域では、下記の場合に原則、建築確認が不要となる。
前提:既存の建築物がある敷地に建築物を建てる場合
延べ床面積:10平方メートル以下
防火地域や準防火地域(※2)に指定されている場合は10平方メートルを超えない建築物でも建築確認が必要になるが、そういうところは通常、住宅が密集する都市部に限られ、農業ができるような場所ではないことが多い。また、既存の建築物がない敷地に新たに小屋を建てる場合は、10平方メートルを超えない場合でも建築確認を受けなくてはいけない。
※2 市街地での火災の拡大を防ぐため、建築などに厳しい規制が設けられるエリア。防火地域と準防火地域では規制の範囲が異なる。
10平方メートルは、6畳の和室ぐらいの広さをイメージすればよい。趣味の小屋や在宅ワークの仕事場、キッズルームなどには適当な広さかもしれないが、農家としての用途を考えた場合、物置や収穫物の貯蔵庫、庭先で飼育できる程度のニワトリ小屋くらいにしかならない。トラクターを置くには狭いし、出荷作業をするにも収穫物の入ったコンテナや資材を置いたらいっぱいだ。
ちなみに都市計画区域は、都市部や住宅地のようなところばかりではない。田畑が広がる農村でも、都市計画区域に含まれているところは多い。
また、都市計画区域は、市街化区域(※3)、市街化調整区域(※4)、区域区分が定められていない都市計画区域(非線引き区域)(※5)に分けられており、市街化調整区域では、原則的にどんな建築物でも新たに建てることはできない。
※3 すでに街の整備が進められている区域と、おおむね10年以内に市街化を図るべき区域。
※4 開発から農地や緑地を守るために市街化を抑制するべき区域。
※5 市街化区域にも市街化調整区域にも定められていない都市計画区域で、将来的な街づくりの方向性が明確に定まっていないエリア。一般的に非線引き区域と言われる。
一定規模の小屋を建てる場合は建築確認についてしっかり確認を
小屋という言葉に定義はないが、農家の用途を考えると10平方メートルでは狭すぎるだろう。とすれば、DIYで建てようと思ったら、都市計画区域外でないと難しい。もちろん建築確認を受ければ都市計画区域内でも建てられるが、膨大な書類が求められ、それを全部自分で用意するのは、小屋の建築より手間がかかる。かといって、建築士に依頼するとなると安くは済まない。
農家が農作業をするために自分で建てる小屋などは、使う人の用が足りればよいわけで、建築物としてひとまとめにした法律でしばられると、ニワトリ小屋さえDIYで建てられなくなってしまう。昔の農家は、ちょっとした小屋くらい当たり前のように自分たちで建てていたのだが……。
法律の条文が現実にそぐわないことはしばしばあるとはいえ、DIYで小屋を建てる場合、建築確認は受けずに済むのが理想だろう。
そのためには、
➀都市計画区域外で、延べ床面積100平方メートル以下、2階建てまでの木造建築物を建てる。
②既存の建築物がある敷地に、延べ床面積10平方メートルを超えない建築物を増築する。
という条件を満たせばOKである。
読者の皆さんにはこれらを順守してDIYでの小屋づくりを楽しんでいただくよう、くれぐれもよろしくお願いします!