挑戦するなら今だと思った
株式会社たけふぁむは、山口県岩国市で竹を伐採し、それを材料としてカキいかだ用の竹材や特殊肥料「竹パウダー」を生産・販売している企業です。代表取締役の東谷(ひがしだに)まどかさんは2023年の10月、25歳で同社を設立。「たけふぁむ」という社名は、竹とファミリーから名付けたそうで、父親と母親と3人で出資し、協力して事業に取り組んでいます。
起業という形で竹に関わり始めた東谷さんですが、それまで竹に関する仕事はしたことがなかったといいます。そんな中、なぜ未経験から竹業界に携わることに決めたのかを聞くと「起業する前は民間企業に勤めていましたが、やりたいようにできない仕事を数十年続けることへの恐怖心から心を病んでしまったんです」と東谷さん。
休職中に「自分自身は何がしたいのか」を考えていると、母親から「社会問題の解決をビジネスにするといいんじゃない?」と提案されたそう。その言葉をきっかけに、幼少期から家の裏山でタケノコ掘りをするなど竹になじみがあったこともあり、放置竹林の問題に興味を持ち始めました。改めて身近な隣の山を見てみると、竹が成長しすぎて、年々鬱蒼(うっそう)とした場所になっているのに気づいた東谷さん。「竹林を整備してその状況を改善すれば、山に光が入る。そのことになんだか魅力を感じた」といいます。また、母親と一緒に竹について調べてみると、竹から洗剤が作られていたり、子どものおもちゃに竹が使われていたりとさまざまな用途があり、思いのほか竹の汎用性が高いことがわかりました。
「竹は繁殖力が高く、伐採しても次の年には生えてくるため、原材料としても魅力的だと思いました」(東谷さん)
こうして東谷さんは、竹林の伐採・整備を通して竹林の社会問題解決に取り組もうと、たけふぁむ設立を決意しました。
とはいえ、竹事業に対してほぼ未経験で、いきなり起業することへの不安はなかったのでしょうか。そう尋ねると、「民間企業に勤めていた時は、失敗が怖くて決められたことを決められたようにしかできなかったんです。恥をかかないように、挑戦することからできるだけ逃げていました。でもそれでは成長できないということにも気づいていたんです。だから、失敗するなら若い今しかない!と思って挑戦してみました。不安よりもワクワクした気持ちの方が強かったですね」と東谷さんは笑顔を見せました。
地道な努力で見つけた販路
実際に竹を伐採し始め、販路を考えているときに出会ったのが広島のカキ養殖に使われるカキいかだ。このいかだに使われる11.5メートルの長さの竹が、現在のたけふぁむの主力商品です。
インターネットで竹の利用方法を探していたときに、カキいかだを発見した東谷さん。実際に広島の海に行ってみると、竹で作られたカキいかだがずらりと並んでいる様子が見え「自分のところの竹を買い取ってもらおう」と思ったといいます。
すぐにGoogleマップでカキの養殖業者を探し、リストアップして電話をかけました。すると、カキいかだを作っているのは養殖業者ではなく、専門業者だということがわかりました。そこで顔の広い母親のツテをたどり、カキいかだの業者となんとかつながることができました。
カキいかだ用の竹を現在は中型トラックで運搬していますが、高い運転技術が必要になるそう。車の運転自体にもコツがいるうえ、竹は表面がツルツルしているため、縛ってトラックに固定するにも一苦労。運搬にも専門的な技術が必要なため、たけふぁむが管理をしている山のある山口県からカキいかだの業者のある広島県まで運搬してくれる業者を見つけるのに苦労したといいます。
母親の知り合いの土木関係者から数珠つなぎでいろいろな人とつながり続けた結果、ようやく竹を運搬する技術を持った運搬業者を発見。しかも話をしてみると、その運搬業者はカキいかだ業者もやっているということがわかり、思わぬ形で販路の確保まで実現しました。
竹の販路が見つかったものの、カキいかだ用の竹材はかなりの長さがあるため、保管用の広い場所が必要です。山の中にそのような平らで広い場所があることは珍しく、カキいかだ用の竹材を作れる山は限られています。
そこで、現在東谷さんがたけふぁむの主力製品としたいと考えているのが「竹パウダー」です。
竹パウダーとは、伐採した竹を細かく粉砕し、空気に触れない状態で発酵させたもの。乳酸菌を含むため土壌改良剤として利用されており、化学肥料を使用したくない人に重宝されています。インターネットで竹の利用方法について情報収集しているときに竹パウダーの存在を知り、「うちでも作れそう!」と考えた東谷さん。粉砕機を購入し、竹パウダーの生産を開始しました。
竹パウダーの初の販売場所となってくれたのは、地元の園芸店。
「私がテレビに出演した時の動画を見ていただいて、頑張っているんだね、応援してあげるよと言ってすぐに厚意で置かせてくれました」(東谷さん)
さらに、竹パウダーのプレスリリース(報道機関向けの発表資料)を見た通信販売の仲介業者から連絡があり、「ネット通販で竹パウダーを販売してみないか」と依頼が。サンプルを試しに預けてみると、順調に売れたため、継続して出品しています。
プレスリリースがきっかけでどんどん事業が拡大
たけふぁむでは、プレスリリースを市役所に持ち込むなどしてメディアへの露出にも力を入れています。プレスリリースで「25歳の若い女子が竹業を始めたよ!」と打ち出した効果は絶大で、ネット通販での販路が見つかった以外にも、テレビ局から連絡が来るなど、メディアからの取材の問い合わせが来るようになったといいます。
そして、テレビに出た時の動画がYouTubeに上がると百万回以上再生され、それを見た全国の人たちからメッセージが届くようになりました。そこには「頑張ってね」「どのように竹林を整備したらよいのか教えてください」「竹の伐採を手伝ってみたい」などさまざまな声が。そんな声に後押しされ、竹の伐採や運搬を実際に体験する「竹活体験イベント」も開催するようになりました。
実際に竹の伐採を体験した人からは「ハードだったけど嫌な疲れではなかった、楽しかった」というような感想が多いとのこと。「以前の私と同じように心の病を抱えた方も来てくれます。竹林の中でノコギリを持って単純作業をしていると、自然と頭がスッキリして心が軽くなるんです」と、竹林で働くことの癒やし効果の高さを東谷さんは誇らしそうに語ります。
このような頑張りを見て、東谷さんの周りには東谷さんを応援したい人が次々と集まってくるようになりました。そして、竹事業や里山再生についての講演会を頼まれるように。
「人前で話すことが苦手だったので、最初は嫌でした(笑)。ただ、そんなことを社長が言っている場合ではないと思ったんです。地元の方達が必要としてくれるなら、できるだけ応えたいですね」(東谷さん)
たけふぁむではさらに地域の人に竹について知ってもらおうと、竹を使って竹馬や水鉄砲を作る親子体験ワークショップも企画・開催を予定しており、地元の子どもたちの情操教育にも取り組もうとしています。
露出を増やし、自分の存在を世の中に示す
「もちろん、大変なことはたくさんあります。でも、楽しいと言っていると本当に楽しくなってくるんです。若くて勢いがあるから応援してあげると言われることも多いです。思い切って始めてよかったと思います」と振り返る東谷さん。
自身の取り組みを多くの人に知ってもらうためのコツを聞くと、地域の人たちと積極的に関わり、協力して一緒にいつもと違うことをしてみるのがおすすめだといいます。
「自分にしかできないことの良さや付加価値に気づいて、小さくてもいいから強みを作り、特化すれば差別化できます。その差別化ポイントを積極的に人に伝え、知ってもらう努力をすれば道は開けてくると思います。SNSでもなんでもよいので、露出を増やして自分の存在を世の中に示すことが大切です」(東谷さん)
最後に、たけふぁむでの活動についてのやりがいを聞くと「足場の悪い鬱蒼とした竹林を徐々に整備していくと、光が差し込んでくるタイミングがあって、その瞬間が奇麗でたまらないんです」と東谷さんは語ってくれました。美しい景色を自分自身が作り出していると思うと、うれしくなるのだといいます。
楽しそうに前向きに取り組むことで、次々に事業を拡大している東谷さん。今後もますます注目したいと思います。
【取材協力・画像提供】株式会社たけふぁむ