
チームは完全に上げ潮
ファイターズはお盆のロッテ戦を勝ち越し、8/15現在、2位を確保している。話題沸騰中なのは5戦4発とホームラン量産のレイエスであったり、8月好調をキープしている清宮幸太郎だろう。水野達稀も戦列復帰してホームランをかっ飛ばしたから、チームの推力になっているのは間違いなく打線の活性化だ。チームは完全に上げ潮に乗っている。空中戦もいいが、8/14のロッテ20回戦の連続スクイズのように、来たるべきCSの伏線になるような「プレッシャーの種まき」(うちは何をするかわかりませんよ的な戦術的牽制)も面白い。
一方、ロッテは佐々木朗希、高部瑛斗の負傷交代というアンラッキーがあった。逆に言えば前哨戦で主戦投手、3割打者と2枚のカードを伏せた状態だ。これも伏線になるだろう。物語はどのように伏線を回収するだろう。
というわけで活発なファイターズ打線から一人取り上げて、コラムに仕立てようと思っていたのだ。今なら間違いなくレイエスのビュー数が伸びそうだ。レイエスの配球の読み、逆方向にもホームランが打てる柔軟さ、全力疾走する可愛さなど、書きたいことはいくらでもある。でも、何か知らないが生田目翼のことを考えてしまうのだ。読者よ、筆者のわがままを許してほしい。好調打撃陣ではなく、生田目翼。代役クローザーを見事務める柳川大晟でもなく、生田目翼。今、ある意味、ファイターズで最も輝いてる男は生田目かもしれない。
成績だけをいうなら31試合登板、1勝1敗1セーブ3ホールド、防御率3.51(今シーズン、8/15時点)なのだ。プロ6年の通算成績でも2勝5敗1セーブ3ホールド、防御率4点台(同)のパッとしない数字だ。プロ初セーブを挙げ、ヒーローインタビューのお立ち台に立った西武17回戦(8/12)で「あとがないので何とか爪痕を残そうと必死に頑張ってる現状です」とコメントしていたが、それが本人の実感だろう。2018年ドラフト3位の力投派は鳴かず飛ばずと表現した方がいい、くすぶりっぷりだった。
生田目の役どころがどんどんハマっていく
それが今シーズン、「爪痕」どころか存在感を際立たせている。今、ファイターズ最強の火消し役といったら生田目だろう。いわゆる勝ちパターン継投のピッチャーと違って7回なら7回、8回なら8回と出番が決まってるわけじゃない。あえて出番を言うなら「ピンチの場面」だ。前のピッチャーが走者をためてしまい、1本打たれたら試合がひっくり返るぞという場面で生田目が呼ばれる。もう、火の手が上がっているのだ。そこを消し止めるか、もしくはボヤ程度でおさめる働きが期待される。走者をためたのが前のピッチャーであり、打たれたとしても自責点にはならないのだが、チームの勝敗には直結する。心臓に悪い稼業だ。だけど、やり甲斐はある。
以前なら玉井大翔が担ってた役割だろう。玉井はツーシーム(昔の言い方でいうシュート)を駆使して、ゲッツーを取るのが上手かった。もちろん玉井にも火消しでバリバリ働いてもらいたいが、生田目はまったくタイプが違うのだ。一球入魂。ハートの強さで火事場に立ち向かう。
僕は生田目がいかに有望なピッチャーか、日本通運時代の武田久さんに聴いている。当然、即戦力を期待した。だけど、なかなか働きどころを得なかった。
思い出深いのは2021年のシーズン最終戦だ。10/19、メットライフドーム、予告先発は松坂大輔と生田目翼。そうなのだ、生田目は松坂大輔ラスト登板とマッチアップしてるのだ。松坂は最速118キロの全5球で退いたが、生田目は好投した。昨シーズンまでの記録「1勝」はそのプロ野球ファン注目の一戦で挙げたものだ。僕は翌2022年の生田目に注目した。こう、何というのか「千代の富士が貴花田に負けて引退した」みたいなドラマ起きないかなぁと思ったのだ。あの「1勝」をきっかけに生田目が先発投手としてモノになったら、出来過ぎのストーリーじゃないか。
だけど、そううまくはいかなかった。また生田目は埋もれてしまう。今シーズン、新庄監督に火消し役にキャスティングされて、やっとハマったのだ。生田目は急場に強い。彼の活かし方はこういうことだったかとヒザを打つ。たぶん兄貴分・武田久コーチの助言も関与してるだろう。
その真骨頂ともいうべきシーンは8/7、楽天戦15回戦(楽天モバイルパーク)の7回、山崎福也の危険球退場からの火消しだ。危険球退場なんて誰も予期しない。準備のしようがない。文字通りのスクランブル登板で、生田目は落ち着いていた。伏見寅威とのバッデリーは、NHK朝ドラをもじって「寅に翼!」コンビとファンの間で呼ばれたりしている。「鬼に金棒」に似た言葉で、元々威勢のいいものが更に威勢よくなる、という意味だそうだ。この急場を見事にしのぎ、生田目は3年ぶりの勝ち星を手に入れた。
生田目のすごいのは、火消しという役どころがどんどんハマっていくところだ。投げるたびに、前回より火消しっぽくなっている。まさにハマり役。ついに生田目翼がプロで輝きを手にしたのだ。