第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は2回戦が進行中。8月8日(木)には中村太地八段―増田康宏八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、得意の角換わり腰掛け銀で早繰り銀を迎え撃った増田八段が118手で勝利。開幕2連勝として挑戦権争いに名乗りを上げました。
伏線となった早指し
ともに開幕局勝利で迎えた本局は中村八段が角換わり早繰り銀を採用。先手番の利を生かした速攻で主導権を握りますが、ここから増田八段の深い事前研究が物を言いました。長考続きの中村八段と対照的に増田八段はテンポよく指し進め、戦いが一段落した局面では3時間ほどの持ち時間のリードを握っています。
持ち時間の差に比例するように戦いのペースは徐々に後手が掴んでいきます。「こちらが作戦的にリードする将棋ではないが、こちらは研究範囲ということで(対抗できる)」という増田八段の感想が作戦成功を裏付けます。中村八段に疑問手が出たのは対局開始から約10時間後、20時過ぎのことでした。
見損じに乗じて増田八段快勝
攻め続けたい中村八段は1筋に端角を打って後手の馬を消しにかかりますが、これが痛恨の落手。すぐさま銀打ちで応じられると1手でこの角が捕まってしまった形です。失敗の表情を一切顔に出さず指し進める中村八段ですが、代償のほとんどない駒損を取り返すのはさすがに至難の業でした。
一方で大きな駒得を得た増田八段は冷静な指し手でリードを拡大します。先手に持ち駒をすべて使わせておいてから一転、じっと自陣に歩を受けたのが「慎重さを心がけた」という激辛の指し回し。終局時刻は23時47分、最後は自玉の詰みを認めた中村八段の投了で増田八段の開幕2連勝が決まりました。
増田八段は局後「ここまで内容よく指せているのでしっかり指せば星を伸ばせると思う」と今後の戦いに自信をのぞかせました。
水留啓(将棋情報局)