YouTuberである@Supercar Blondieがつい最近立ち上げた、オンライン自動車オークションサイト「SBXカーズ」に興味深い一台が出品されている。ランボルギーニLM002というだけでも珍しいのに、わざわざステーションワゴンに仕立てられている「LM002カロッツェリア・ディオマンテ」が出品されているのだ。これは文字通り、1989年にカロッツェリア・ディオマンテが手掛けたものでランボルギーニ社が唯一、公認している車両である。
【画像】ランボルギーニLM002のステーションワゴン!気になる外観とインテリア(写真30点)
初代オーナーはブルネイのハサナル・ボルキア国王だ。ボルキア国王といえば、大富豪エピソードに尽きない人物。キプロスのホテル滞在で従業員のサービスに感動した国王は、「ちょっとしたお礼」というメモが入ったボストンバッグ(17万ドル入り)を渡したことでニュースになったことがある。散髪のために美容師をロンドンからブルネイに呼び寄せ、1カットに2万ドルを支払うことでも有名。もちろん、航空券はファーストクラスを国王が用意。しかも3週間に1度のペースだ。
ボルキア国王の車コレクションは7,000台以上と噂されている。しかもワンオフ、もしくはフュー・オフが多い。思い浮かぶものを挙げるとベントレー・ターボRのシューティングブレイク、ベントレーに依頼して作ったランドローバー・レンジローバーがベースのSUV、フェラーリ456シューティングブレイク、テスタロッサのコンバーチブル、F40の右ハンドル仕様車などだろう。
ランボルギーニLM002は1986年から1993年まで生産されたが、その起源は1970年代後半に遡る。ランボルギーニはMobility Technology International (MTI)と協力し、米軍向け車両「ランボルギーニ・チーター」を開発。1977年のジュネーブモーターショーで発表されたチーターは、FRP製ボディと5.9リッターV8エンジンを特徴としていた。しかし、リアエンジンレイアウトによる様々な操縦性の問題や法的問題により、最終的に軍用車両契約はAMジェネラル・ハンヴィーに与えられた。
ランボルギーニはチーターのデザインに可能性を見出し、LM001ピックアップの開発を始めた。しかし、リアマウントV8エンジンは加速時の操縦性に問題がありプロジェクトは棚上げされた。次に開発されたのがLMA002だった。過去2回の失敗を教訓に、ランボルギーニはより強力なカウンタックV12エンジンをフロントに搭載できるようにシャシーを改良。テストが成功し、LMA002の名称はLM002に変更された。
購入者は450馬力の5.2リッターのカウンタック用エンジンか、オフショアパワーボート用7.2リッターV12エンジンを選択できた。カウンタックほどの性能はなかったが、車両重量2,700kgのLM002は450馬力仕様でさえ0-97km/h加速を7.8秒でこなし、最高速度は210km/hに達したそうだ。LM002カロッツェリア・ディオマンテが搭載しているのは前者。
ボルキア国王が所有していた期間、約1,100マイルを走破。その後、BMWやフォルクスワーゲン、その後スカニエでCEOを務めた、ベルント・ピシェッツリーダー氏が購入した。ピシェッツリーダー氏といえば、BMW社が所有していたマクラーレンF1で事故を起こして話題になったことがあった。ちなみにオリジナルのミニを設計したアレック・イシゴニス卿とは、はとこの間柄。
そして、ピシェッツリーダー氏が手放してから次のオーナーは、名前こそ明らかにされていないがスウェーデン人女性で子供の送り迎えをはじめ”日常の足”として乗り回していた、と言われている。なぜ、このようなエピソードを知っているかといえば当該車両、今年3月にスウェーデンの中古車販売店「Motikon」に入庫した、という動画をYouTuberである@Shmee150が投稿し、自動車メディアを賑わせたからだ。
@Shmee150が取り上げ、@Supercar Blondieが販売(オークション)する、YouTuber大活躍の時代である。
Shmee150の動画ではMotikonの社長が「内外装は古いままにするか、リフレッシュするか悩む」「タイヤが特殊サイズゆえに見つかったワンセット5万ドルしそう」「とりあえずじっくり向き合う」という内容の話をしていたが、思いのほか早くオークションに出品されることになった。結局、Motikonではオイルとオイルフィルター交換、そしてキャブレター調整しかしなかったようだ。
1986年式、走行距離は10,383kmのLM002カロッツェリア・ディオマンテのオークションは8月8日から入札を受け付ける。なお、SBXカーズでは”予想落札価格”の類は表記しない方針のようだ。相場が存在しないゆえに、どの程度の金額で落札されるのか皆目見当もつかないが、世にも珍しい歴史が詰まった車であることには違いない。
文:古賀貴司(自動車王国)
Words: Takashi KOGA (carkingdom) Photography: @sbxcars