海の月間行事として毎年開催され、恒例行事となっている「第59回海事産業発展並びに海上安全祈願祭」が7月12日に香川県・琴平町の金刀比羅宮の本殿で開催。全国の海自産業事業者や海事団体、地元各団体・個人など約100名が参加した。

本稿では斎主の金刀比羅宮の神前で行われた祭事や、祭事後に行われた直会の様子などを紹介しよう。また、本祈願祭の主催者である公益財団法人・琴平海洋会館が運営する「琴平海洋会館(海の科学館)」を訪ねた様子もレポートする。

海事産業の発展と海上の安全祈願をする夏の恒例神事

“こんぴらさん”の名で親しまれてきた金刀比羅宮は、海の守神を祀る庶民信仰の神社として、とくに船乗りや漁業に携わる人々が全国津々浦々から参詣に訪れ、古くから敬愛されてきた。

  • 金刀比羅宮で行われた「海事産業発展並びに海上安全祈願祭」

そんな金刀比羅宮の神前で海の月間行事の一環として毎年実施される「海事産業発展並びに海上安全祈願祭」には、全国から海運産業事業者などが集まり、祝詞奏上や巫女舞の奉納、玉串奉奠などが執り行われた。

祭事終了後、会場を琴平グランドホテルに移して行われた祈願祭の直会式で、来賓の四国運輸局局長・河野順氏は祝辞の挨拶の中で次のように述べた。

「我が国は海に囲まれた海洋国家であり、古来より人の往来、物資の輸送、漁業や外国との文化の交流を通じ、海と深い関わりを持ち、その恩恵を享受しながら発展してきました。その貿易の大部分を船舶が担っており、国内においても内航海運が輸送の担い手として経済を支えるとともに、旅客船やフェリーが生活に欠かせない公共交通機関としての役割を果たしています。また、造船業や舶用工業は我が国の経済安全保障の観点からもなくてはならない産業です。本年6月に閣議決定された骨太の方針2024でも、その国際競争力強化のため、海事産業の維持・発展に取り組む姿勢が示されました」

  • 四国運輸局局長・河野順氏

海事産業が今後も発展し続けていくためには、海洋の積極的な利用を推進し、国民の海への関心が高まることが不可欠とコメント。次世代を担う人材の確保・育成に向けて、海洋教育や各種体験活動などに、官民を上げて取り組む重要性を語った。

「加えて、海上における安全の確保は国土交通省において最優先に取り組んでいる課題です。2年前の知床遊覧船沈没事故のような痛ましい事故が二度と起きることがないように。ハード・ソフトの両面から安全対策の強化に取り組んでおります。ご列席の皆様におかれましては、いま一度、海上における安全確保にいっそうのご尽力をいただきますようお願いいたします」

続いて琴平町長・片岡英樹氏は、「本日は全国各地より海事産業関係の皆様方、一堂にお集まりいただきまして、海にゆかりある琴平の大神様に、海事産業の発展と海上安全をともに祈願できましたこと、私も嬉しく思います」と、来賓を代表して祝辞を寄せた。

  • 琴平町長・片岡英樹氏

金刀比羅宮が鎮座し、県内で二番目に小さな人口1万人弱の町ながら海事産業にとって大切な土地となっている琴平町。今春には天保6年(1835年)に建てられた現存する日本最古の芝居小屋「旧金比羅大芝居(金丸座)」で5年ぶりに歌舞伎を再開するなど、コロナ禍を経て多くの観光客が再び訪れるようになり、賑わいが復活しているという。

「インバウンドの方にもお越しいただき、県外・県内から訪れた昨年の観光客は197万人とコロナ前の8〜9割ほどまで回復しました。門前町をさらに発展・維持させていくためにもご協力のほどお願い申し上げます」

体験コンテンツも充実する「琴平海洋博物館」を見学

祈願祭の主催者である「琴平海洋会館」は、次世代を担う海洋人材の育成に向けて、青少年に海の魅力やおもしろさ、海と人の関わり方とその歴史など、情報発信することを目的とする公益財団法人。

昭和41年、海の守護神として全国的に崇敬されている金刀比羅宮の山麓に「琴平海洋博物館(海の科学館)」を開設し、人と海との歴史などに関する貴重な所蔵資料を展示している。

年間来場者数は約1万5000人。立地的にも表参道の脇道に入ってすぐのところにあるので、とくに夏場は立ち寄って涼みに来るにもちょうど良さそうな施設だ。現在の建物は昭和49年に建てられたもので、平成7年には内部リニューアルが施されたという。

入館料金は大人450円で、未就学児などは無料。一部展示は英語対応もしており、最近では中華圏などからのインバウンド客も多いそうだ。

様々なかたちで海や船と触れ合う展示を行っており、ミュージアムショップやフォトスポットを併設する1階のエントランスでは、金比羅船の同型船が来場者を迎える。金比羅船は庶民の間で金毘羅参りが大流行した江戸時代、大阪と丸亀・多度津の港の間を結び、お参りの人々を運んでいた船だ。

2階は企画展示室として1〜2ヶ月サイクルで特別展を実施するスペースで、取材時は日本港湾協会主催の「『港の風景』写真コンテスト2023 受賞作品展」が行われていた。

「琴平海洋会館」では毎年、香川県内の小学生に募集をかけて夏休みの期間に制作された船の模型を展示する「小学生船舶模型工作展」を開催。昨年は250点以上の応募があり、今年も10月5日から約2ヶ月間にわたって2階スペースで特別展が開催される予定だという。

近隣の地域からも子どもたちが校外学習などで多く訪れる施設のようで、3階には海に関する図書を集めた「こども文庫」も設けられている。同フロアには「しんかい6000」の紹介映像を見られるエリアや港について学べるコーナーなどもあり、昔のエンジン類や羅針盤などの実物の古い船舶用機器なども展示されていた。

4階は飛龍丸や咸臨丸、日本丸といった大型の船模型を展示するエリア。飛龍丸は高松藩の初代藩主が参勤交代などのために寛文9年(1669年)に建造した御座船で、図面が現存しないため文献から再現されている。

同フロアには操作感や音響にこだわった操船シミュレーターもあり、船長気分を味わえるようだ(別料金200円)。

さらに5階は映像&サウンドシアターとなっており、屋上には船の操舵室を模した展望ブリッジがある。天気のいい日には正面に瀬戸内海を望むことができ、右手には琴平の街並みが広がる讃岐平野と、讃岐富士と言われる飯野山の景色が楽しめる。左手側は金刀比羅宮が鎮座する「象頭山」(琴平山)で、その中腹に社務所や大門が確認できた。

展望ブリッジの手前にある屋上のプールでは重量3、4キロほどあるという大きなラジコン船をリアルな舵輪やエンジン・テレグラフなどを使って操作できる(別料金200円)。

琴平海洋博物館では近隣の博物館や国立博物館等から所蔵資料の借用願いの申し出を受けており、昨年は高知の桂浜にある坂本龍馬記念館の特別展で坂本龍馬にゆかりのある資料の貸し出しなども行ってきたそうだ。

常設展示されていない所蔵資料に関する情報もホームページで公開しており、一般の人も許可申請を出せば閲覧・撮影などが可能。令和4年に船遺産の認定された海上保安庁の巡視船「あらかぜ」などの屋外展示もあり、桜の季節は多くの人が訪れるスポットだという。機会があれば、ぜひ一度訪ねてみてはいかがだろうか。