「額にタトゥー」の母親兼インフルエンサーが語る、我が子を学校に通わせない「アンスクーリング」の是非 米

算数なし、社会学習なし、カリキュラムを決めるのは子ども自身。アメリカで炎上騒ぎを起こしている話題の子育て法「アンスクーリング」は子どもにとって得か、それとも害なのか?

【動画を見る】炎上中のスピリチュアル系インフルエンサー

「大人が子どもに何かを教えているのではありません」と、スピリチュアル系インフルエンサーのマミ・オナミさんはTikTok動画で言い放った。「子どもは自分の興味のあることや、疑問に思ったことに反応して学ぶんです」。オナミさんの瞳は限りなく透明に近いブルーで、彫りの深い顔立ちだ。首から腕、引き締まった腹部にかけてタトゥーがうねり、額には流麗な筆記体で「温和」と彫られている。彼女は6歳の息子レイナー君のノートをパラパラめくり、「egg(卵)」「lamp(ランプ)」「jar(ビン)」「lion(ライオン)」と走り書きされたページを開いた。「これは息子が自分で書きました」と言い、オナミさんはさらに続けた。「子どもを週40時間学校に送り出して、言いなりになるような子にさせたくないなら、ぜひ子どもの興味の赴くままにさせてください。子どもは周りが学んでほしいと望むことではなく、自分が学ぶべきことを全部自分で学びます」。

動画には4075件のコメントが寄せられているが、どれも辛辣なものばかりだ。最初の方のコメントは、「子どもをダメしてますよ」と嘲笑気味だ。「我が子を永久に世間知らずにしておきたいなら構わないけど……私なら、我が子にはもっとちゃんとするけどな」。オナミさんが「ズボラ」で、子どもの教育に対する親の責任を放棄していると非難するコメントも多い。とくに意地の悪いコメントの一部はオナミさんではなく息子を槍玉にあげ、発育が「遅れている」とバカにしている。

オナミさんにとって炎上は初めてではない。TikTokで25万人以上のフォロワーをかかえるスピリチュアル系インフルエンサーで教師でもあるオナミさんは、これまで妊娠から分娩まで医療の力を借りない「フリースタイル出産」や、自分の月経の血を飲むといった慣習を提唱してきた。だが悪意に満ちたリアクションにショックを受けたという。「あの動画が炎上するとは夢にも思わなかった」と本人はローリングストーン誌に語った。「知ってたら、あんな髪で映ったりしなかったのに」息子を心から誇らしく思ったからこそ、動画を投稿したのだそうだ。それまで息子がまったく読み書きを覚えようとしないことに悩んでいたオナミさんは、息子が自分の意思で言葉に関心を示し始めるのを見て大喜びした。

「うちの息子がバカだとか、私が育児放棄してるとか、児童保護サービスに通報するべきだとか、大勢の人々からインターネットで叩かれて最初はすごく傷つきました」とオナミさん。「(ですが)我が子の育て方について、コメント欄に耳を傾けるつもりはありません。それって、コメントを信用して投資先を決めるようなものでしょう。もしうまくいかなくても、自己責任です」。

3歳と6歳の二児の母親で、まもなく3人目が生まれるオナミさんは、「アンスクーリング」(本人の言葉を借りれば「フリースクーリング」)を実践する1人だ。子どもは自主的に学習に向かうとき――すなわち正規の授業に出席せず、教師もつけず、あらゆる類のカリキュラムに従わないときのほうが多くを学べるという考え方だ。

アンスクーリングの教育理念は多岐にわたる。時間割のようなものに沿って、国語や算数などの教科でざっくり指導を行う場合もあれば、形式をすべて取っ払い、子ども自身に時間割を立てさせる場合もある。また自律型教育を謳う「自由で民主的な」学校も多数存在する。ニューヨーク内陸部のFree School校やイギリスのSummerhill校がその例だ。そこでは正規のクラス割りや教師は存在せず、子どもたちは自分のペースで学ぶことができる。ボストン大学心理学部の研究教授で、自律型教育連合の設立メンバーでもあるピーター・グレイ研究教授いわく、要するに「子どもたちにカリキュラムを押し付けない」教育法というのがアンスクーリングのざっくりした定義だ。「子どもが自分の教育を管理するとも言えるでしょう。その根底には、子どもは自然と興味を抱いたことについて勝手に学ぶ、という考え方があります」。

近年アンスクーリングはソーシャルメディアで徐々に話題を集めているが、眉をひそめる人も多い。オナミさんの動画に対する激しい批判がいい証拠だ。我が子を学校に通わせない親は、良く言えば惑わされている、悪く言えば虐待と紙一重だと言う人は多い。子どもが立派な大人になるためには、学校生活で周囲と交流することが社交性を育てる上で重要な要素だと懸念する声もある。だがオナミさんにとっては、現代社会の一員になるように育てないことがメインで、決して害ではない。「いろいろな意味で、社会制度は崩壊していると言われています。物事の仕組みが壊れ、上下関係の在り方がおかしくなっています」とオナミさんは言う。「学校とは、そういう世界で暮らしていく人間を養成する養成所です」。

教育手法としてのアンスクーリングは数十年前から知られていた(ちなみに実践している人々はアンスクーリングという名称を好まず、代わりに「自律型学習」と呼んでいる)。最初に命名したのは1970年代の教育者ジョン・ホルト氏で、「Growing Without Schooling(不登校でも育つ)」というニュースレターを共同で立ち上げた人物だ。これをきっかけに、「直接教えるだけでなく、背中を押すことで」子どもは学べるようになるという考えが広まった。ニューヨーク市立大学ハンター校で青少年特別教育プログラムの編成部長を務めるジーナ・ライリー氏も、我が子にアンスクーリングを実践した経験の持ち主だ。

現在アメリカでアンスクーリング中の子どもの数は、データによってまちまちだ。ライリー氏はおそらく自宅学習する子どもの20%がアンスクーリングに該当すると考えているが、国際自宅学習研究所を統括するインディアナ大学教育学部のロバート・カンズマン教授の見立てでは10%前後だ(多くのデータから、全米で自宅学習を行っている子どもは300万人をやや上回るとみられる)。カンズマン教授も指摘しているが、全米の1/4近い州では自宅学習世帯が学校に何らかの届けを出すことが義務付けられていないため、アンスクーリングについて「適切かつ包括的なデータ」を入手することは難しいという。「憶測や概算、噂や小規模の研究にたよるケースがほとんどです」。

だが自宅学習と同様、アンスクーリングもソーシャルメディアで爆発的人気を博しているのは確かなようだ。Facebookにはアンスクーリング専用の子育てグループが多数存在し、中にはメンバーが数万人規模におよぶものもある。インフルエンサーがアンスクーリングを実践するようすを投稿し、数十万人のフォロワー数を稼いでいるケースもある。TikTokやRedditでアンスクーリングの話題が急増したため、Googleでの検索件数はこの1カ月だけで22%増え、2年前と比較すると倍近く増加した。

コロナの後、自宅学習者が急増した。保護者は授業のようすを垣間見て、『これなら自分でもできる』という風に感じた

アンスクーリングの動向に着目し、数々の研究を行ってきたライリー教授は、こうした人気急増の要因がパンデミックにあると考えている。パンデミック中、保護者は子どものリモート学習に積極的に関与せざるを得なくなった。「コロナの後に自宅学習者は急増しました」とライリー教授。「保護者は学校生活や授業のようすを垣間見て、『これなら自分でもできる』という風に感じたんでしょう」(自宅学習の規制は州によってまちまちだ。多くの州ではテストを受け、何らかのカリキュラムに従うことが義務付けられているが、そこまで厳しくない州もある)。

だが自宅で子どもたちとリモート学習を始めるや、一部の保護者は「家で学校と同じことをするのは無理だ」と気づいた。そして教師としての役割から、「学習を促す」立場へとシフトチェンジし、結果的に自律的な学習モデルに流れていくようになったとライリー教授は説明する。また当然と言えば当然だが、アンスクーリングを支持する背景には自分を正当化する意味合いもあったとグレイ氏は言う。自宅学習は困難で骨が折れるため、おそらく保護者もうんざりし、やる気をそがれ、あるいは従来の教師の役割を果たすことができないと感じ、積極的に関与できない「罪悪感」を軽減するためにアンスクーリングのコミュニティに傾倒していったのではないかとグレイ氏は言う。

「『自宅学習をやってはいるけれど、学校で教えているようなことはできない』と感じていらっしゃるのでしょうね」とグレイ氏。「そんな時にアンスクーリングという言葉に出くわし、実際に実践している人たちと共感して、肩の荷が下りる。ある種の免罪符のような感じですね」。

これまで自宅学習というと、宗教上の理由からあえて我が子を学校以外の場所で教育させている保守的なキリスト教徒が大多数を占めている、というのが通説だった。だが自宅学習の普及にともない、そうした図式はもはや当てはまらなくなったとライリー氏は言う。「以前は自宅学習といえば、中上流階級の白人のふたり親世帯がやることだと言われていました」とライリー氏。「今は80~90年代の時とはまったく様相が違っています」。

同じことはアンスクーリングにも言える。アンスクーリングの盛り上がりとともに多様化が進み、とくに黒人世帯の場合、「広い意味での黒人解放運動」の一環としてアンスクーリングに共感を寄せているとグレイ氏は言う。子どもに自宅学習をさせる余裕があるのは中上流階級だけ、という通説とは裏腹に、アンスクーリングを実践する世帯はえてして社会経済階層が比較的低いという。「こうした手法を選ぶ人々人は物質的な価値にとらわれません」とグレイ氏は語る。「一般的な意味での成功――ステータスのある高収入の職業にはあまり関心を示しません。彼らが望むのは自立です。おうおうにして庭付きの家に住み、家庭菜園をして、比較的シンプルな暮らしをしています」(「ヒッピー」のような人かと尋ねると、全員が全員そうではないにしても、アンスクーリングを実践する保護者の多くが「そうだと考えてもあながち間違いではない」とグレイ氏も認めた)。

グレイ氏をはじめ取材した専門家の意見では、アンスクーリングの実践者は政治的思想の点でも幅広い傾向が見られる。とはいえグレイ氏の話では、大半はどちらかというとリベラル寄りで「個人の自由」を重視する人々だそうだ。たしかにアンスクーリング実践者と反体制的な思想の支持者はダブるところがある。アンスクーリングを実践する保護者の中には、反ワクチン、反政府的な思想をソーシャルメディアで拡散している者も多い。

一部の子どもには、こうした自律型学習が明らかにプラスの効果をもたらしている。アンスクーリングの研究者ジーナ・ライリー氏の息子、ベン・ライリー氏がまさに好例だ。彼は幼少期から中高生まで学校に通わず、「生活の中で学んだ」そうだ。正規に数学や読み書きを教わったことはなく、お手伝いで買い出しの予算を書き出して計算の仕組みを覚えたり、石のコレクションが嵩じて地理に興味を持ったりした。現在は編集者と音楽教師の二足のわらじを履くベン・ライリー氏は、「何かを学んで、あとから実生活での応用を身に着ける必要はありませんでした」とローリングストーン誌に語った。「成長する中で、ごく自然な流れで知識がついていった。今になって、とても感謝しています」。

近隣住民や親族から批判されつつも、ベン・ライリー氏は不登校生活を楽しんでいたそうだ。中高生のころ公立学校に通おうかと考えたことも一時あったが、結局アンスクーリングを続けた。「社会の風当たりは冷たいです」と同氏は言う。「人はみな未知のことを恐れますからね」。地元の学区で修了書を取得した後、ニューヨークのアライアンス大学で音楽学の学位を、ニューヨーク市立大学ハンター校で音楽教育学の修士号を取得し、本人がいうところの「ごく普通のまっとうな人間」になった。

「自宅学習やアンスクーリングは1日中家にこもり切りで、外の世界とのつながりがないと思われがちですが、自分の経験上、真実とはまるでかけ離れていると言えると思います」と本人は言う。「自分は論理的思考をものすごく大事にしていますし、個人的にはアンスクーリングや自宅学習がそれを強化してくれると思います。実社会に身を置き、多種多様な考えや意見、信念につねに触れていますからね」。

ぶっちゃけ、相当な経済的余裕が必要

だが誰もがベンのような経験をするわけではない。アンスクーリングに関するデータは限られているものの、教育やコミュニティのサポートがあまり受けられない子どもはアンスクーリングにあまり向いていないことも実証されている。オナミさんによれば、アンスクーリングを実践する親は怠惰で無関心だという世間の見方とは裏腹に、実際は膨大な時間とエネルギーがないとつねに子どもに付きっ切りではいられない。ぶっちゃけ、相当な経済的余裕が必要だとも語った。「時間が相当制約されます」とオナミさん。「かなり余裕がないとできません。自分が満足できる形で実行するには、経済面での負担も相当かかります」。

オナミさん自身、アンスクーリングの「押し売り」をしているつもりはない。「全員にアンスクーリングがおすすめだと考えているわけではありません」と本人も言う。「どの家族もそれぞれ独自の文化があると思いますからね」。だがオナミ家の場合、アンスクーリングは教育上の理由というよりも、現代社会で活躍する立派な大人という概念を改めるのが目的だそうだ。オナミさんに言わせれば、学校は「成功者の大半が送ることになるキャリアの道を、疑似体験させる場です。週40時間勤務、口答えできない上司、チームの仕事、職場での不満。こういうことのシミュレーション」だという。「成功者の人生の80%はこんな感じでしょう。でも残り20%の人たちには、こうした仕組みはそぐわない」。

スピリチュアル系コーチングを生業とするオナミさんは、「他人の下で働くのではなく、クリエイティブな才能を活かして新しいことを始める」ことを我が子に学ばせたいと考え、自分の仕事を息子の教育に盛り込んで、「起業家精神」を促すために野菜の直売所を運営させたり、自分で撮影した写真を親のwebサイトで販売させたりしている(当然といえば当然だが、オナミさんによれば不登校の子どもの多くが「起業家」コミュニティに属しているそうだ。「自分の趣味や得意分野に専念し、それ以外の無関係なことはすべて捨て去る。すごく理に適っているように思えます」と本人も言っている)。

学校に行かない子どもは学業、とくに読み書きの成績がよくないという研究結果もある。少数の研究では、従来の学校に通う子どもやルールにのっとって自宅学習する子どもと比較して、不登校の子どもは一貫してテストの成績が良くなかった。だがこうした子どもも歳を重ねるにつれて、とくに読み書きで後から追いつく傾向にあるとグレイ氏は指摘する。アンスクーリングを実践している保護者や研究者への取材でも、不登校の子どもが12歳まで読み書きできないのは珍しくないという話を再三耳にした。オナミさんの6歳の息子もいまだに文字が読めないものの、本人はそうしたデータを気に留めていない。「私にとって一番大事なことは、我が子が勉強を毛嫌いしないこと。自分が賢いと自信が持てるようにしてやること」だと本人は言う。「そのためにはどんなこともするのが私の目標です」。

多くの子どもたち、それも発達障害を抱える子どもたちにとっては、ルールのない学習環境がマイナスになる場合があることも実証されている。グレイ氏は一例として、発達障害のスペクトラムに該当する女の子を挙げた。その女の子は自由で民主主義的な学校に入学したものの、自律型学習に合わないことが分かり、退学するよう言われたそうだ。「その子は他人を気に留めず、周りに無頓着でした。少なくともはた目にはそう見えました」とグレイ氏。「子どもたちが自由に学び、かつ互いに学び合うという学習環境とは言えません」。

だがグレイ氏は、自律的な学習環境を提供する学校で上手くやっている発達障害の子どもも数多く目にしてきたそうだ。「やりたくないことを人から指図されない学校に通うことで、子どもたちは社交性を学び、自分が得意なことをやっていました」とグレイ氏。「結果として自分の殻を破り、興味のあることを他人に話す術を身に着けていました」。だが同氏も認めるように、社会環境からかけ離れた「自宅での」アンスクーリングでは、こうしたメリットが得られない場合もある。

カンズマン氏いわく、おそらくアンスクーリングの一番の欠点は、研究結果として数字に表れない部分だろう。二極化が進み、市民意識やコミュニティ意識が極端に薄れ、自己が強調されつつあるこの時代、限定された閉鎖的な環境でアンスクーリングを行えば、隔離された環境で育つ子どもが他人の考えや視点に触れずに育っていくのではないかとカンズマン氏は懸念している。

「従来の公立学校が果たす役割に、若い世代に民主主義社会の一員としての心構えをさせるというのがあります」とカンズマン氏は言う。「読み書きが重要な学習能力だという話はよく聞きますが、従来の学校であれ別の形態であれ、学校教育はある意味、若者が思慮深い立派な社会市民になるための養成機関でもあります。この点はもっと話題にしてもいいと思います。他の教育形態が出てきた場合、同じような役割を担えるのか? 具体的にどんな役割を担うのか? この問いの答えはまだ出ていないように思います」。

同じ問いをオナミさんに投げたところ、本人は意に介さなかった。「機能する民主主義で、子どもに市民意識を持たせること――それこそ、私が我が子に一番やりたくないことです。右に倣えで他の子と同じことをし、根本的に破綻した社会の中で上手く立ち回る術を身に着ける」と本人。「学校はそういう世界で暮らし、世界を動かしている体制に疑問を持たせなくさせるための仕組みです」。こうした懸念から、「自宅学習に深くのめり込んでいった」のだとオナミさんは言う。「自分の子どもには絶対そんなことさせたくないですから」。

@mami.onami The best part is that my son LOVES learning, LOVES beginning something new, and is experienced with practicing things until he improves. They do this school because they want to, and when you want to know something; your retention is. Learn more about what we teach our kids at the story highlight ”we teach them” #freeschool #unschool @Your Natural Learner ♬ original sound - Mami Onami