ポルシェ911初のハイブリッドモデルに試乗!「ポルシェらしさ」は健在か?

今年5月28日、ついにというべきか、ようやくポルシェ911初のハイブリッドモデルが世界初公開された。今回の新型モデルは2018年にデビューしたタイプ992の後期型で、通称992.2と呼ばれる。その国際試乗会が7月初頭スペイン・マラガで開催された。

【画像】ハイブリッド化の懸念は払拭されたか?新型ポルシェ911に試乗(写真31点)

ポルシェ911といえば、まずベースのカレラやカレラSが発表され、順を追ってGTSやターボ、GT3といった役物が追加されるのが通例だった。しかし、今回はベースのカレラとGTSを同時に投入するという異例の発表となった。

その心は、GTSこそがハイブリッドの第一弾であることを意味する。カレラは内燃エンジンモデルのままであり、新型ではタービンの変更により9PSアップを果たしている。ここではGTSをメインに解説していこうと思う。

開発チームによると、911にハイブリッドシステムを搭載するにあたり、最大の課題はやはり重量だったという。1600kgを切ることを開発目標とし、後述するさまざまな工夫がこらされている。その結果、従来モデルに対しての重量増は約50kg、新型カレラGTSクーペのカタログ値の空車重量(DIN)は1595kgとなっている。

なぜGTSからハイブリッドにしたのか。それは911のラインアップにおいてGTS は最も高性能で最もスポーティなモデルであり、地域によってはカレラSよりも人気のモデルになっているからだという。したがってもちろん大前提として環境性能を高めつつも、パワーアップ分をハイブリッドでまかなうという狙いがあるようだ。

ポルシェはこのハイブリッドシステムの名称を「t-hybrid」としており、「t」とはターボの意というから、エコであることよりパワーを付加するものという位置づけであることがわかる。試乗前のプレゼンテーションでも、ニュルブルクリンク北コースでのテストでは、先代モデルのタイムを8.7秒上回る7分16秒934をマークし、0−100km/h加速は3.4秒から3.0秒にまで短縮していると提示された。数字だけをみても相当に速そうだ。

ハイブリッドシステムは、電動走行はしない。いわゆるマイルドハイブリッドシステム。その中心となるのは、わざわざこのために新開発したという排気量先代比0.6L増しの3.6リッター水平対向エンジン。単体で最高出力485PS、最大トルク570Nmを発生する。これは高電圧システムの採用により、エアコンをベルト駆動ではなく電動駆動にすることでコンパクト化。エンジン搭載位置を110mm低めたことで、上部にパルスインバーターとDC-DCコンバーターなどのハイブリッド関連ユニットを収めている。

これに電動ターボチャージャーを組み合わせる。先代のツインターボからシングルターボ化することで軽量化を実現。さらにタービンの軸部分に電気モーターが組み込まれた電動ターボチャージャーを採用しており、瞬時にブースト圧を高めることが可能となっている。この電気モーターはジェネレーターとしても機能し最大11kW(15PS)のパワーを発生する。

ハイブリッド駆動のメインとなるのは、8速PDKのトランスミッションケースに組み込まれた永久磁石同期モーターで、アイドル回転数から最大40kW/150Nmを発揮し、エンジンをサポートする。400Vの電圧で作動し、最大1.9kWhの電力を蓄える駆動用のリチウムイオンバッテリーを、もともと12Vのバッテリーを搭載していたフロントトランク内に配置。12Vバッテリーは軽量化のため薄型タイプのリチウムイオンバッテリーに代替し、ボディ後部に搭載している。これらを組みあわせ、システムの合計出力は541PS、合計トルクは610Nmとなり、先代比で61PSアップしている。

試乗のスタート地点であるホテルに用意されたGTSのエクステリアをじっくりと眺めてみる。牙のようにも見えるフロントバンパーの左右に5本ずつ配された縦長のフラップが目をひく。これは内側にも横向きのフラップが備わっており、ブレーキまわりやアンダーフロアへの整流、またウェットモード時の雨水の流れなどを統合制御するという。高速巡航時など必要なパワーが最小限の場合は、フラップを閉めてエアロダイナミクスを最適化。サーキット走行など冷却効果を高める必要があるシーンではフラップを開きラジエーターに空気を送り込む。ドライバーが任意で操作するものでなく、あくまで自動で作動する。

また新しくなったマトリクスLED ヘッドライトが、LEDのドライビングライトなどすべてをビルトインするタイプとなったため顔つきがすっきりとした。リアまわりでは、リアグリルにあるフィンの数を左右に5枚、計10枚と従来モデルよりも大幅に減らし、よりリアウインドウと一連のものに見えるように、テールランプはポルシェのロゴを囲い込むようなデザインになった。これ以外にもエグゾーストパイプやナンバープレートの位置が変更されている。

インテリアは基本的には従来モデルを踏襲する。大きく変わったのは、ドライバーの眼前に最後まで残されていた中央のアナログメーターがなくなり、12.6インチの曲面ディスプレイになったこと。アナログ派には寂しいところだが、視認性は明らかに高まった。レブカウンターを中央に配した伝統的なポルシェの5連メーターにインスパイアされたディスプレイなど、最大7種類の表示が可能となっている。もう1つは、エンジンスタート/ストップボタンが備わったこと。先代では始動時には、キーのかわりにノブをひねる所作が受け継がれていたが、それがなくなった。時代である。

まずは公道で「タルガ4GTS」に試乗した。GTSだからと身構えていたが、意外と常識的なボリュームの排気音とともにエンジンが始動する。アクセルペダルをゆっくりと踏みこむと低速域から瞬時に加速する。中央のメーターをよくみると回生時にはグリーンの、アシスト時にはブルーのバーの表示が伸びる仕組みになっている。タービン内の電気モーターも使って回生しているようで、アクセルを踏んでいても回生するシーンがある。また日常走行では2000〜3000回転まではアシストするも、それ以上は内燃エンジンにまかせてアシストをやめるのでメーター表示が頻繁に動く。スポーツプラスモードで全開走行を続けるようなシーンでは可能な限り最大のアシストをするようだ。

新開発の3.6リッターエンジンは、4000回転を超えたあたりから力強い、いかにもポルシェの水平対向6気筒らしい音がする。右足に力を込めると7000回転あたりまで淀みなく吹け上がる。ハイブリッドとも、ターボとも言われなければわからないかもしれない。それくらいシームレスでスムーズだ。PDKも変速ショックを感じさせず、あっという間に速度が高まる。サスペンションも新しいタイヤ(銘柄はグッドイヤーイーグルF1スーパースポーツR)に合わせて最適化されており乗り心地もいい。公道を走っているぶんには、より快適なGTカーのようだと感じていた。

しかし、GTSの本領はサーキットでこそ発揮される。舞台は会員制サーキットとして名高いアスカリレースリゾート。全長約5.5kmの本格コースだ。サーキットでは、クーペボディの「カレラGTS」、「カレラ4GTS」、を比較する。GTSには、車高を10mm下げたスポーツサスペンションと可変ダンパーシステム(PASM)、そしてこの新型からリアアクスルステアが標準装備になっている。そしてオプションのアンチロールスタビリティシステムであるポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)は、ハイブリッドの高電圧システムに統合されており、システムの柔軟性と精度が高められている。

スポーツプラスモードでアクセルを全開にすると、一切のラグタイムがなく加速していく。電動化の恩恵はアクセルレスポンスにあらわれている。ペダル操作に瞬時に反応してくれる。そして回頭性は極めて高く、わずかにステアリングを切り込むだけで向きが変わるPDCCをオンにしておけばロールも少なく、何事もないようにコーナーを曲がっていく。2WDと4WDとの挙動の違いは少なく、4WDだからアンダーステアが強いといったこともない。ニュートラルに旋回し、立ち上がりの際にはフロントタイヤに力強い駆動力を感じる。ブレーキはオプションのポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)を装着していた。992.1ターボS用のブレーキでフロントは10ピストン!なのだから、その制動力は圧倒的だ。

ポルシェの本社広報によると、ハイブリッド化に関して顧客やファンから懸念する声が多くあがっていたという。しかし、500万kmにも及ぶテストをこなした自信作だという言葉のとおり、どうやら心配の必要はなさそうだ。言われなければすごくよく出来た自然吸気エンジンだと思う人もいるはず。それほどナチュラルだった。

文:藤野太一 写真:ポルシェAG

Words: Taichi FUJINO Photography: Porsche AG