7月3日、宮城県仙台市にて、海運事業者と船員を目指す方のマッチングを支援する「めざせ! 海技者セミナー in 仙台」が開催された。

国土交通省 東北運輸局が主催する同セミナーには、岩手県宮古市の国立宮古海上技術短期大学校をはじめ、東北エリアの水産高校から多くの学生が集まった。今回、東北エリアの海運事業者を中心に、セミナーの様子をレポートしていこう。

若手人材のニーズが高まる内航海運

今年で14回目となる「めざせ! 海技者セミナー in 仙台」には。合計37の海運業を営む企業や団体のブースが出展。国立宮古海上技術短期大学校から45名、東北エリアの水産高校(八戸、宮古、気仙沼、石巻、加茂)から75名の合計120名が参加した。

  • 開会のあいさつを行う、国土交通省海事局船員政策課 雇用対策室長 前田良平氏

「トラックをはじめとした陸上分野での労働時間規制の影響を受け、海上輸送の重要性はこれまで以上に増しています。求人倍率も非常に高い状況で、みなさんのような若年層の人材確保が重要だと考えています」と、国土交通省海事局船員政策課 雇用対策室長の前田良平氏はセミナーの開会に際して学生たちに呼びかけた。

日本国内貨物の海上運送を担う内航海運業界の船員は、30歳未満が2割、50歳以上の人員が多く高齢化が課題となっている。業界を持続可能なものにするためにも若い人材の確保は急務だという。

"船員として働く"選択肢を広げる

セミナーの午前中は、宮古海上技術短期大学校の1年生がブースをまわり面談を通して各事業者の説明を受けたり質疑応答を行った。学生たちは事業者と直接話すことで、どのような職場なのか、また働くにあたりどのような資格が必要なのかを知り、本格的な就活に向けて準備を行う。引率の教員からは「多くの事業者さんのブースを回って」というアドバイスも寄せられた。

ブースを出展する海運事業者は、東北を拠点とする企業だけでなく全国から集まる。また貨物船、タンカー、旅客船、作業船や練習船など扱う船舶も様々だ。「自分が望む仕事以外にもどんな仕事があるかを知り、早い段階から選択肢を広げてほしい」と、東北運輸局 海事振興部船員労政課 課長の栁松克政氏は語る。

学生が重視する「働きやすい環境」をつくる

内航船員の仕事は、一般的に3〜4ヶ月間乗船して1ヶ月休暇を取るというパターンが多い。寄港もするものの、基本は仕事も生活もずっと船内だ。そのため面談を受けた学生から、労働環境や生活環境に関する質問は多く聞かれるという。

セメントタンカーや一般貨物船を計4隻所有する宮城県塩竃市の興和海運は、平均年齢は約41歳と若い船員が多い企業だ。働くにあたり、船内での労働環境や通信環境や食事面などの生活環境はもちろんのこと、社員同士のコミュニケーションにも注力しているという。船の仕事は同じメンバーと一緒に長期間働くことが多く、同じ会社で働く船員同士でも、異なる船に乗ると顔を合わせる機会もあまりないという。

そのような環境のなか、船員の要望を汲み取ったり船員同士のコミュニケーションを生み出すきっかけとして、興和海運では意見を寄せられるしくみをつくっているそうだ。船内に設置したQRコードを読み取ることで、労働環境の改善アイデアを送ったり、同僚の良いところを伝えて社内報で共有したりと、気軽に投稿できる場を設けている。投稿のハードルを低くしておくことで、もしハラスメントが起きた場合の一次窓口になるような役割もあるという。

また興和海運では、YouTube・Instagram・TikTokとSNSでの情報発信にも力を入れている。同社の専務取締役 湯村健吾氏はSNSの運用について「一般の人に知ってもらうきっかけとしてだけでなく、弊社の船員に向けて上司の人柄を伝えたいという思いもあります」と話す。20代の船員も多い会社だからこその取り組みと言えるだろう。

  • 小学校高学年に向け、チョークアートを通して内航海運の魅力を伝える出前授業も行っている。写真は同社の「最上丸」を描いたアート

そして湯村専務は、東北内航船員対策連絡協議会として、宮城県内の小学生に向けて船や船員の仕事や魅力を知ってもらう出前授業も行っている。内航船員の職業紹介を交えながら、海・船・船員をテーマにチョークを使った絵を描き、自宅に飾ってもらうことで船や船員への憧れや親しみを育むことが狙いだという。

女性船員が働く環境の整備も

男性船員が中心の内航海運業界だが、船員不足が深刻な課題となっているなか、女性専用の設備を船内につくり、女性が働く運用ルールの整備を行うなど、女性船員を増やす取り組みも進められている。同セミナーでは、配乗予定の船舶に女性専用設備があったり、女性が乗船した際の運用を定めている企業が「女性歓迎」のマークを掲げている。

  • 「女性歓迎」のマークを掲げる事業者

北海道函館市に拠点を置く津軽海峡フェリーは、本州と北海道間をつなぐフェリーを運行する企業だ。女性船員の採用実績もあり、女性専用設備を備えた船を一隻保有している。少子化が進むなか女性船員の採用も進めていくことも重要だという同社、セミナーでは面談を受ける女子生徒も見られた。


国土交通省が行う「めざせ! 海技者セミナー」、令和6年度は小樽、今治、静岡、神戸で開催する予定だ。詳細は国土交通省のWebサイトを参照のこと。