NHKニュースによると、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは6月18日に北陸新幹線委員会を開き、敦賀~新大阪間は8年前に決定した「小浜・京都ルート」を前提として議論を進めることを確認したという。北陸の一部自治体等が再考を求めた「米原ルート」は課題が大きいことを確認し、引き続き「小浜・京都ルート」を前提とする方針に。「年内に詳細なルートを決定し、来年度中の着工を目指す方針で一致」したとのこと。

  • 「小浜・京都ルート」(赤枠)はアセスメントを拒否する田歌地区の西側の江和地区でアセスメントを実施。京都丹波高原国定公園で活動する「北村かやぶきの里保存会」は計画自体の白紙撤回を求めていたが、ルート変更と有識者会議の調査で回避できそうになった。「米原ルート」(青枠)は調査未着手(地理院地図を加工)

朝日新聞電子版の6月18日付「北陸新幹線の大阪延伸『米原ルートはなし』与党整備委が確認」では、「委員会では米原ルートを求める声はなかった」と報じられている。

翌19日、鉄道・運輸機構は「北陸新幹線事業推進調査に関する連絡会議資料」をサイト上に掲載した。鉄道・運輸機構の「令和5年度北陸新幹線事業推進調査について」と、国土交通省の「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)のルートに関する議論について」が1つのPDFファイルにまとめられている。

「令和5年度北陸新幹線事業推進調査」は6項目で実施した。

「用地関係調査」は、明かり区間となる福井県内の高架橋と橋りょうについて、登記簿や公図の情報をもとに現況との差異など確認した。工場等の大型施設・商業店舗・集合住宅や、長期にわたって相続されていない土地など、用地確保に時間がかかる物件を確認した。

「地質関係調査」は、敦賀~新大阪間の全線の想定地域で25本のボーリング調査を実施し、ボーリング調査を補完する物理探査を2件実施した。調査の結果、重金属を含む要対策土の含有率は約30%と推定された。「産業技術総合研究所 地質調査総合センター」の地質図をもとに、環境影響評価対象区域内の山岳トンネル区間について、約80kmの地質縦断図を作成した。

「受入地事前協議」は、トンネル工事等の発生土について、自治体と受入れ候補地について事前協議を実施した。陸上および海洋の受入れ候補地案を把握した。「地下水関係調査」は、京都市内の12カ所で地下水、8カ所で河川水を採取し、成分分析を実施した。その結果、深層の地下水は京都盆地に広く分布する難透水層の下を流れて、京都駅や伏見酒造エリアまで到達している可能性があることを確認した。この結果を踏まえ、駅とルートを選定していく。

「鉄道施設概略設計」は、難工事が予想される京都駅と新大阪駅について、地質調査のデータをもとに、駅本体の構造物の大きさ、工事に必要な土留めや地盤改良方法の検討、具体的な施工計画の検討など実施した。「道路・河川等管理者との事前協議」は、新幹線と交差する道路や河川の管理者と協議し、161件すべての交差物件について設計条件を確認した。2024年度はこれら6項目について調査を深め、関係者との協議を継続する。

「小浜・京都ルート」は京都市郊外の美観地区で、工事による景観破壊と水利の懸念から現地調査を拒否する動きが報じられている。しかし資料を見ると、具体的な調査が進んでおり、説得やルート変更次第で解決できそうな内容になっている。「年内に詳細なルートを決定」は可能な印象を受ける。

「京都府の受益に対して費用負担が大きすぎる」という報道もあったが、歴史的に京都と北陸の交流に実績がある。在来線特急時代より所要時間が短縮され、相互の観光客の需要を取り込めるため、費用対効果や経済波及効果は高い。

「米原ルート」は再度否定、課題は解決できなくもないが…

国土交通省の「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)のルートに関する議論について」は2枚のスライドで、1枚は「小浜・京都ルート」に決定した経緯、もう1枚は「米原ルート」を採用しなかった経緯を説明している。最近になって、石川県の沿線自治体から「米原ルート」を推す声が高まっていたが、これを明確に否定した。

「米原ルート」は「東海道新幹線に直通できない」。東海道新幹線と北陸新幹線は「運行管理システムが異なる」。脱線防止システムの考え方も違う。運賃は通算できるとしても、新幹線料金は米原駅で打切り合算になるため、割高になる。

ただし、これらは解決できない問題ではない。

東海道新幹線の運行本数が多く、北陸新幹線からの直通列車が受け入れられない。可能性があるとすれば、リニア中央新幹線が予定通り2037年に新大阪まで開業した場合に、「のぞみ」の本数を減らせるかもしれない。

運行管理システムが異なる問題に関して、東海道・山陽・九州新幹線が採用する「COMTRAC」は、分岐しない路線を想定して作られている。一方、北陸新幹線が採用する「COSMOS」は、東北・上越・北陸新幹線の分岐を想定して作られているという。しかし、直通車両に両方のシステムを搭載し、米原駅停車時に切り替えれば済む話といえる。北陸新幹線の全編成を対応させる必要はない。富山~新大阪間の「つるぎ」専用編成を設定すれば良い。ただし、北陸新幹線全車両の共通運用ができなくなるから、車両の運用効率は下がる。

脱線防止システムについて、東海道新幹線は線路側に脱線防止ガイドレールを設置し、車軸の中央に逸脱防止ストッパを取り付けている。北陸新幹線は車両側の車軸の外側に逸脱防止ガイドを設置し、線路側にレール転倒防止装置を設置している。しかし、これも直通車両側に逸脱防止ストッパを取り付け、逸脱防止ガイドが東海道新幹線規格の線路に支障しなければ解決できそうだ。

とはいえ、これらの問題を解決するためのコストは増える。それを嫌うならば、直通せずに米原駅乗換えという形になるだろうが、乗換え案はいままで敦賀駅で乗り換えた不便さが米原駅に移るだけではないか。将来の直通を見据え、暫定的な乗換えとする方法もあるものの、それがいつ実現するかはわからない。

所要時間は「小浜・京都ルート」より増える。運賃は通算できるとしても、新幹線料金は米原駅で打切り合算になるため、割高になる。東北新幹線と北海道新幹線、山陽新幹線と九州新幹線は合算しているため、このルールが適用される可能性は高い。もっとも、JR西日本とJR東海の話し合いで解決できる問題でもある。

「米原ルートのほうが早く開通できる」は間違った認識

整備新幹線について事実上の決定権を持つ与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームが「小浜・京都ルート」を堅持し、「米原ルート」を否定した。それでも「米原ルート推し」は止まらない。

産経新聞電子版の6月20日付「米原ルート検討求め決議 北陸新幹線延伸で石川県議会、馳知事は『小浜ルートで変わりない』」によると、石川県議会は6月20日、「米原ルート」を検討するよう求める決議を賛成多数で可決したという。石川県の能美市議会も、6月26日に「米原ルート」の再考を求める決議案を可決した。同じく石川県の加賀市議会も、6月27日に「米原ルート」への転換を求める決議案を全会一致で可決した。

なぜ執拗に「米原ルート」を推すのか。その理由は、「小浜・京都ルートの着工の見通しが立たない」から。「米原ルートのほうが早く開通できる」という。

これは間違った認識だ。

前出の通り、「小浜・京都ルート」はすでに6項目で調査と事前協議が進んでいる。環境問題は詳細ルートの選定で最小限にとどめる可能性が高い。リニア中央新幹線の静岡地区のように、国が有識者会議を招集して調査・確認する方法もある。リニア中央新幹線では、生態環境は地表近くの表層水が維持し、大深度地下トンネルの影響は小さいという見解が示された。

これに対し、「米原ルート」はまったくの手つかずである。「小浜・京都ルート」は2019年から2024年現在まで、5年にわたり環境影響評価手続きを実施してきた。「米原ルート」は未着手であり、距離が短ければ早く終わるというものではない。

そもそも「米原ルート」は新幹線の建設条件に合致していない。整備新幹線の着工条件として、「安定的な財源の確保」「収支採算性」「投資効果(B/C)」「営業主体のJRの同意」「並行在来線分離について自治体の同意」の5条件が挙げられる。このうち「営業主体のJRの同意」について、JR西日本は「米原ルート」に同意しないと明確に態度を示している。東海道新幹線直通はコストがかさむ上に、営業距離が短いため営業面で魅力が薄いからだろう。

「並行在来線分離について自治体の同意」は、福井県と滋賀県が「小浜・京都ルート」の早期整備を求めており、「米原ルート」を支持していない。とくに滋賀県にとっては、「米原ルート」になると北陸本線の米原~近江塩津間が並行在来線となる可能性が高い。米原駅から北陸方面に直通できる利点と、並行在来線の負担を検討する必要がある。

石川県の馳浩知事は、6月20日に行われた県議会の直後、「県議会の意思表示には敬意を表す一方、小浜ルートでの早期整備を求めることに変わりはない」と記者団に語った。

「米原ルート」にしたいなら「北陸・中京新幹線」の実現求めたほうがいい

筆者は、「米原ルート」支持の理由が「米原に行きたい」ではないという点で、動機が不純だと考える。「米原ルートにすれば中京方面に乗り継いで速達可能」という理由なら説得力も増すはずだが、「米原ルート推し」はそれを掲げない。なぜなら、「名古屋方面に行きたい」と言ってしまったら、それは北陸新幹線ではなく、基本計画路線である「北陸・中京新幹線」になってしまうからだ。

早期開通が目的なら、沿線自治体が「小浜・京都ルート」で一丸となって取り組み、京都府と協調したほうが最も早いだろう。そうでなければ、いままで「小浜・京都ルート」の実現に向けて尽力した鉄道・運輸機構や関係者の努力が報われない。

それでも「米原ルート」を作りたいなら、「北陸・中京新幹線」の早期実現を求めて、整備新幹線に格上げするために活動したほうがいい。

ただし、現在の新幹線の建設費は「属地負担」だから、「米原ルート」も「北陸・中京新幹線」も建設地域の大半を占める滋賀県が自治体負担分の全額を引き受ける必要がある。前出の通り、北陸本線の並行在来線化も避けられない。九州新幹線西九州ルートで佐賀県が納得しない理由も「属地負担」だからといえる。「小浜・京都ルート」で京都府が渋る理由として、府単位の費用対効果で「属地負担」が大きすぎるという意見も見受けられる。

整備新幹線建設費用の自治体負担は、建設地の自治体が「属地負担」する考え方から、実際に利益を得る自治体が「応益負担」する考え方に転換する必要があるだろう。今後の新幹線建設のためにも、この機会に枠組みを再検討してほうがいい。