リクルートの住まい領域の調査研究機関「SUUMOリサーチセンター」は、6月27日に「SUUMOトレンド発表会2024」をオンラインで開催、2024年のトレンド予測として「断熱新時代」というワードを発表しました。

  • リクルートの「SUUMOリサーチセンター」が「SUUMOトレンド発表会2024」を開催した

住宅の品質は年々向上していますが、中でも「断熱性能」に関心が集まっているといいます。発表会で『SUUMO』副編集長の笠松美香氏が解説した「いま断熱性能に注目する背景」や「断熱性能の高い住まいで暮らすメリット」についてレポートします。

■住まいの断熱性は、住む人の"健康"に大きく関わる

高い断熱性の家を選ぶメリット - たとえば、夏は涼しく冬は暖かく過ごせて電気代も抑えられる、結露やカビも防げるので掃除や手入れも楽になるといったことは、これまでも広く知られてきました。温暖化の影響で高温の日が年々増えていることもあり、断熱性を重視する人の割合は年々増加しているといいます。

  • 同社発表資料より引用(リクルート「2023年注文住宅動向・トレンド調査」より2023年の上位3位までと住宅性能に関する項目を抜粋)

しかしこれまで注目されていた「快適性」「メンテナンス性」「経済性」といったことに加え、「健康」の観点からみても高断熱な住まいを選ぶことのメリットは大きいと笠松氏は説明します。

  • 発表会に登壇した、『SUUMO』副編集長 笠松美香氏

WHOが2018年に発信した「住まいと健康に関するガイドライン」によると、高齢者だけでなく子どもにおいても冬季室温をさらに高めるべきとして、寒さによる健康被害から居住者を守るための室温として"18度以上"を強く勧告、寒い季節がある地域の住宅においては、新築時や改修時の断熱材設置を条件付きで勧告しています。

  • 同社発表資料より引用(WHOが2018年11月27日に公表)

しかし一方、日本の平均的な既存住宅はWHOの基準を満たせていないのが現状です。慶應義塾大学名誉教授 伊香賀俊治先生が実施した、冬季の在宅中平均居間室温(都道府県別)の調査によると、香川県13度、大分県14.9度、栃木県15.1度……など、全体の9割が18度を下回っていました。

  • 同社発表資料より引用(慶應義塾大学名誉教授 伊香賀 俊治氏作成資料)

冬は呼吸器系の疾患や心疾患の発症が増えることで死亡率が高くなる傾向がありますが、年間と冬場の死亡率を比較した"冬季死亡増加率"を都道府県別で見てみると、冬季室温が低いエリア(香川県や栃木県など)の増加率が高いことがわかります。

  • 【図表】冬季室温が低い地域は、冬季の死亡増加率も高いことがわかる

    同社発表資料より引用(慶應義塾大学名誉教授の伊香賀 俊治氏が、厚生労働省の2014年人口動態統計に基づいて月平均死亡者数を比較し、冬季(12月~3月)死亡増加率を算出したもの)

最も寒冷な北海道に着目すると外気温が低いにもかかわらず死亡増加率は全国平均を大きく下回る10%で、先の在宅中平均居間室温が18度を上回っているという結果からも、冬季室温と死亡率の因果関係がみてとれます。

家の断熱性と健康の関係性は死亡率以外にも、血圧上昇抑制、脂質異常発症の低下、夜間頻尿発症の低下などがみられるといいます。

  • 同社発表資料より引用

暖かい住まいでは風邪を引く子どもが4割少ないことや、女性の月経痛が4.5割少ない & PMS発症が3.4割少ないなどもわかっており、住まいの断熱性は私たちの健康に直結する必要不可欠な条件であるといえそうです。

■2030年までに"断熱等級5以上"が省エネ最低基準へ

では「断熱性が高い家」とはどのような家を指すのでしょうか。日本では住まいの断熱性を、等級1~7までの指標「断熱等級」で表しています。等級1を"無断熱"、等級数値が上がるほど高い断熱性とし、2025年4月以降の新築には等級4が義務化、2030年までには断熱等級5以上を義務化することが決まっています。

  • 2025年4月以降の新築には等級4以上、2030年までには断熱等級5以上が義務化

    同社発表資料より引用

今年の4月には「省エネ性能表示制度」がスタートし、住宅や建築物を販売・賃貸する際の広告に、先の断熱性能も含めた省エネ性能ラベルを表示することが努力義務となりました。共通フォーマットで可視化されることで、住まいを選ぶユーザーが省エネ性能の把握や比較がしやすくなることが期待されます。

■性能向上リノベで既存の戸建も高断熱住宅に生まれ変わる

発表会の中では、高断熱住宅の実際の暮らしについても紹介されました。断熱等級6の住まいで暮らすMさん邸では、60平米の1LDLと30平米のロフト部分をエアコン1台で管理しているといい、暑い時期も寒い時期も、外の温度にかかわらず快適な室温が保たれているそうです。

  • 同社発表資料より引用(Mさん邸を設計・施工した中田製作所が提供)

こうした高断熱住宅は新築のみならず、既存住宅もリノベーションでの改善が可能だといいます。これまで戸建住宅は個別性が高くリノベ方法も一律でないことから、マンションに比べ性能向上が難しいとされてきましたが、工法や建材の進化により高い性能向上ができるようになりました。

住まい全体の断熱性を高める改善以外にも、実際に使用するゾーン一部のみ断熱性を高める方法や、2階建てのうち1階だけを工事する方法など、居住者の"したい暮らし"に合わせて選択肢はさまざまだといいます。

笠松氏は、「これまで断熱が注目されていたのは、脱炭素社会の実現や光熱費の削減がポイントでした。しかし今後は、健康寿命の延伸やQOLの向上に加え今までの概念を大きく上回る省エネ効果など、より身近なポイントに変化しています。健康でエコな新しい須磨の水準がはじまる、2024年はその"元年"として、「断熱新時代」というワードを発信しました」と改めて強調し、締めくくりました。