玉山鉄二が語る、「本来の自分」を取り戻すためのオフの過ごし方

音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。俳優デビューして25年目を迎える玉山鉄二。今年1月期のTBS日曜劇場『さよならマエストロ』での、気弱で優しいファゴット奏者役の好演も記憶に新しい玉山が、今回金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』に出演。こだわりの「大人のドラマ」についての話とともに、オフの過ごし方についても語ってくれた。

Coffee & Cigarettes 52 | 玉山鉄二

若き人気政治家と有能な秘書の「奇妙な関係」。彼らを取り巻く黒い闇に、1人の新聞記者が迫る──人間の欲望と謎が絡み合うヒューマン政治サスペンス『笑うマトリョーシカ』が、TBS系金曜ドラマ枠で放送されることが決定した。原作は、日本推理作家協会賞や山本周五郎賞など数々の受賞歴を持つ早見和真が2021年に発表した同名小説である。主人公の新聞記者・道上香苗を水川あさみが演じ、「未来の総理候補」との呼び声も高い若き政治家・清家を櫻井翔が演じる。そして、清家を長年支えている謎多き秘書に扮するのは玉山鉄二だ。

 

「僕の演じる鈴木は、過去に起きた『ある事件』がきっかけで夢をあきらめ、代議士・清家の秘書というポストを見つけ、彼をいずれ総理の座に就かせるために持てる知識やイデオロギーを注ぎ込んでいく。表向きは『清家のブレーン』として手腕を発揮していますが、物語が進むにつれてそれがどうなっていくのかが見どころの一つです」

 『笑うマトリョーシカ』というユニークなタイトルが示す通り、清家の仮面のような笑顔の下にはマトリョーシカのように何層もの「顔」「姿」があり、開けても開けても彼の本性は姿を見せない。その空虚さは、清家だけでなく鈴木もまた内包しているものである。

「ドラマが進むにつれて、鈴木がどんな人間なのかが少しずつ明らかになっていきます。原作では現在と過去の中で彼が持つ二面性が見えてくるんです。いったい彼は何者なのか。そして、それをどのように映像に表現するか。俳優として演じながら、彼と自分を重ね合わせてしまいますね。いろんな作品に出演して役柄になりきっているうちに、気づいたら『自分って一体何なんだろう?』なんて思うこともあります」謎が謎を呼ぶ手に汗握る展開や、次々に現れる怪しい人物たち。そして、最後に待ち受ける衝撃の真実。

「原作では、清家が卒論で取り上げた人物が、彼の人格形成に大きな影を落としていることを描いています。このドラマの登場人物に限ったことではなく、人が誰の影響も受けずに生きていくことなんて絶対にできないと思うんですよ。その人にイデオロギーや思想、本音や本質の部分がどうやって形成されているのか。傍目には分からないじゃないですか」

自分の言動が、過去に出会った人物や経験した出来事、吸収してきたカルチャーから無意識に影響を受けていたことに気づき、ハッとする瞬間もあるという。そこから自分の子どもたちに、どんな影響を与えているかも深く考えるようになったそうだ。

 

「人が成長する過程で、どんな経験や出来事に触れるか、そしてそれがその人にどんな影響を与えるかはとても大事なことだと思うんです。特に、子どもたちに対して良い経験や出会いを提供することで、彼らの成長に良い影響を与えたいと思うようになりましたね」

玉山にとって、水川との共演は約20年ぶり。櫻井とは意外にもこれが初の顔合わせであるという。「水川さんは本当に昔から全く変わっていないと

いうか、一緒にいて安心感がありますね。現場を明るくしてくれるし、とても感謝しています。櫻井さんとじっくり話すのは今回が初めてだけど、清家役は本当に適任だと思いますね。撮影中も欠かさず新聞に目を通していますし、いつも控え室で動画を見て笑っている自分が情けないです(笑)」

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水川、櫻井、そして玉山といずれも40代の俳優を中心とした「大人のドラマ」。その見どころについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。「もちろん政治を扱ったドラマですが、ミステリーやサスペンスの要素もふんだんに盛り込まれたエンターテインメント作品です。フィクションとリアリティのバランスを考えながら、3人で力を合わせていいドラマにしていきますので楽しみにしていてください」

そんな玉山は、役柄から離れて「本来の自分」を取り戻すために、オフの時間をどう過ごしているのだろうか。

「家族と過ごすか、ジムに行くかですね。最近は外へ飲みに出かける機会も減り、できるだけ子どもと一緒にいる時間を作るようにしています。彼らが社会に出るまでのリミットが決まっているので、成長していく姿を見逃したくないんですよ。ちなみに家族とは近場のスパへ行ったり、そこで美味しいご飯を食べたりしています」

サウナ歴はもう20年という玉山。いわゆる「にわか」ではないと本人は笑いながら強調する。「いつも会う友達とサウナに行ってひと汗かいてから食事してました。行き始めた頃はサウナなんて全然お客さんいなかったですからね。あとは、普通に旅行も好きで国内外問わず出かけています。年を

取ってからは国内の知らない土地に出会うのが楽しいですね」

家族と過ごす時間の大切さは、特にコロナの期間を経てますます痛感するようになった。 「それこそ政務秘書官から次元大介まで(笑)、いろんな役柄になりきるという。変な仕事といえば変な仕事をしているので、家族と一緒にいると見失わないというか、フラットに保てるのが大事ですね」

以前のインタビューでは、大のテクノ好きであり俳優仲間の山田孝之とよくクラブへ行っていたことを明かしてくれた玉山。「ベルギーの『TomorrowLand』には死ぬ前に一度は行ってみたい」とも話していたが、最近はどんな音楽を聴いているのだろうか。

「クラブに行く時間はなかなか作れないですね。息子が音楽好きなので、一緒にライブを観に行ったり、家で演奏したりしています。バンドではエレキギターを担当しているようですが、アコギもベースも鍵盤も弾けるんですよ。家で練習しているとうるさくてたまらない時もあるけど(笑)、学園祭で演奏している姿を見た時は本当に感動しましたね」

そう言って、目を細めながらタバコに火をつける玉山。映画『次元大介』でもチェーンスモーカーの主人公を演じていたが、玉山本人も常にタバコは欠かせないという。

 

「何回か禁煙に挑戦したことがありますが、セリフが全然覚えられなくなってしまって。一本だけ吸ってみたら、台本がスラスラ頭に入ってくるから、もうやめられないなと(笑)」

集中している時やアイデアを待っている時など、無意識に吸っていることが多いそうだ。 「タバコを吸うことで、振り返れるんですよね。『さっきの飯、美味かったな』とか『今日の仕事は充実していたな』とか。仕事でもプライベートでも、普段はやることがたくさんあってバタバタしているこ

とが多いけど、タバコを吸う時間ってそこからちょっと離れて気分をリセットできる。それって大事な時間だと思うんですよね。……俺、結構今いいこと言ってません?」そう言ってまた、いたずらっぽい笑みを見せた。

1999年6月、テレビドラマ『ナオミ』で俳優デビューして今年で25年。「俳優」という仕事に対する向き合い方は、25年の間にどう変化したのだろうか。スーパー戦隊シリーズ『百獣戦隊ガオレンジャー』に関わったこと、『逆境ナイン』で映画初主演を果たしたこと、連続テレビ小説『マッサン』で連続テレビ小説初出演かつ初主演を果たしたこと。彼の役者人生にはいくつかのターニングポイントがあったように思う。

「ターニングポイントか……どうなんだろう(笑)。ちょっと恥ずかしいですが、役者を25年もやっているのに、やっぱり今でも怖さもあるし不安もあります。定期的にそういう時期が来るんです。そういう時に、自分のやった作品のトレーラーを見たりして元気づけたりしますね。『できてるじゃん』って自分に言い聞かせるんです」

最後に、俳優としての今後の目標や抱負についても語った。

「これからもいろいろな役に挑戦していきたいですし、俳優としての幅を広げていきたい。それに、若い世代との対話や情報リテラシーの教育にも関心があります。今はSNSを含めて情報が多すぎるので、子どもに対しては誰かが必要な情報かどうかをちゃんとフィルタリングする必要があると感じるんです。リテラシーについて学校で教えてくれないし、情報との向き合い方について話し合いたい。そして、自分が得た経験や知識を次の世代に伝えていけたらと思っていますね」

玉山鉄二

1980年4月7日、京都府生まれ。1999年にドラマ『ナオミ』で俳優デビュー。2009年、映画『ハゲタカ』で日本アカデミー賞優秀助

演男優賞を受賞。2014年、連続テレビ小説『マッサン』で連続テレビ小説初出演かつ初主演を果たす。2023年、映画『次元大介』

2024年、ドラマ『さよならマエストロ』など。

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金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』

2024年6月28日スタート 毎週金曜よる10:00~10:54(TBS系)