フォーシームは1球種ではない…?MLBで進化する”ピッチング革命”。スイーパ…

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 「なんでもデータで決める」というフレーズが冗談ではなくなったMLBでは投球分析が毎年進化を続けている。各チームはデータ解析ツール『スタットキャスト』などバイオメカニクスのデータを用いて自前の投手モデルを構築し投手育成につなげていると考えられる。このような投球分析において重視されるのはどのような点か、紹介していきたい。
 

 

 


“多種多様“なフォーシームの形

 昨今は誰でもダウンロードができる『スタットキャスト』のスプレッドシートには球種、球速、投球箇所などの基本的なデータの他に変化量、スピン量、スピン軸の角度、ある点での球の成分別加速度など、非常に細かいデータが揃っている。まずはメジャーで主流とされるフォーシームについて分析してみた。
 
 速球、特にフォーシームを扱う際にキーとなるのが「縦変化量(ホップ)」と「リリース高」だ。現在のメジャーにおけるフォーシーム戦略の主流は「打者が向かってくるフォーシームをどれだけフラットと見てくれるか」にある。
 
 フライボール革命によってアッパースイング打者が大多数を占めるメジャーにおいて、縦変化量で浮き上がるボールを投げる、あるいはリリース高を下げ、ボールが浮き上がるように見せることはボールのフラット具合に大きく影響を及ぼす。
 

 
 ここではフォーシームを大きくホップ大/ホップ小に分けて見ていく。ホップ量が大きいフォーシームを持つ投手は比較的容易にフォーシームで空振りを奪うことができる。
 
 高いホップ量によって打者にはフォーシームが浮き上がるように見えるためだ。ニック・ピヴェッタ、タイラー・アンダーソン、松井裕樹などが当てはまるカテゴリーで、一般的にオーバースローの投手が多い。
 
 変わってホップ量が少ない投手はボールの変化だけではフォーシームを活かすことができない。そこでリリース高を下げることによってボールを「投げ上げ」、ボールが浮き上がるように「見せる」ことができる。アームアングルを水平気味にする必要があるため、スリークォーター~サイドスローの投手が多い。
 
 一般的に「投げ上げ」を採用するとアームアングルが水平になるためボールがサイドスピンになるためホップが小さくなる。
 
 つまり「投げ上げ」と「ホップ大」は相反する関係となるのだが、一部にはユニークな投げ方により両立している投手が存在する。アレックス・ベシアや今永昇太はこれに該当し、彼らのフォーシームは非常に優秀な成績を残している。





変化球は「強み」を活かす

 メジャーリーグの投手改造において頻繁に叫ばれるのが「強み」を活かすことだ。複雑な変化を伴うことなくシンプルに自分のベストピッチをゾーンに投げ込むことを基本とする。
 

 
 ジェイソン・アダム、エヴァン・フィリップス、ラファエル・モンテロ、タイラー・グラスノーなどは成績悪化のために移籍となったが、移籍後に自分が得意とする、あるいは新たに発見した得意球を多投することによって球界トップの成績を残すことに成功している。
 

 
 現在はロサンゼルス・ドジャースのエースであるタイラー・グラスノーはピッツバーグ・パイレーツ時代にシンカーを重用しコーナーを突く投球を目指していたが、元々コントロールが悪かったため苦しんでいた。
 
 クリス・アーチャーとのトレードでタンパベイ・レイズに移籍したグラスノーはピッチングコーチから「アバウトでもいいからフォーシームを高めに投げ込め」と伝えられ、フォーシーム/カーブで縦変化を活かすピッチャーへ変化し、球界でベストな投手の一人としての進化を遂げた。
 
 この「強み」を活かす投手育成は全体の球種割合に影響を及ぼしている。変化球を多投する傾向はリーグ全体でも顕著になっており、今季のフォーシーム使用割合31.4%は史上最低水準になっており、速球を主体にピッチングを組み立てる従来の概念が崩壊しつつある。
 
 今季、投手の補強をほとんど行わず目玉のルーカス・ジオリトを肘のインターナルブレース手術に失ったボストン・レッドソックスの先発陣だが、先発防御率3.48はリーグ5位だ。その要因は速球の割合を減らしていることにある。
 
 タナ―・ハウクは10%投げていたフォーシームを完全に捨て、スライダー/スプリット/シンカーを主体とした投球にシフト、カッター・クロフォードはフォーシームの割合を減らし、スイーパーを増やした。
 
 この2人以外にもギャレット・ウィットロックやブライアン・ベヨ、クーパー・クリスウェルなどが速球割合を減らして成績を向上させている。





時代はスイーパーからスプリットへ
 2021年から現在にかけては、スイーパーの流行に見られるようなスライダー全盛期だった。しかし打者側もスライダーに目が慣れてきたようで、スライダーの効果が薄れてきている。
 
 米トレーニング施設『Driveline Baseball』 の研究では球質を測る「Stuff+」において3年前のモデルと比較した際に最も効用が低くなったのがスイーパーだという。
 

 
 現在流行の兆しが表れているのがスプリットだ。千賀晃大のお化けフォークや山本由伸、ケビン・ゴーズマンなどのスプリット使いが活躍し、リーグ全体でスプリットが再評価され始めている。
 
 かつてスプリットはロジャー・クレメンスやジョン・スモルツなどのレジェンド投手が重用したが、グリップによる故障リスクが指摘され一時衰退した。
 
 しかし近年では、スライダーのグリップの方が危険などの仮説も登場し、投手がスプリットを敬遠する傾向は薄れた。またスプリットチェンジなどのバリエーションが登場したことで敷居が低くなったのもあるだろう。
 
 将来メジャーリーグに挑戦する日本人投手が、スプリットだけでは通用するのが困難となる時代は近いのかもしれない。


 
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【了】