日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)は、アニメ業界の働き方に関するアンケートの結果を3月27日に発表した。同調査は、2023年12月4日〜2024年1月31日の期間、NAFCA会員のうちアニメ業界従事者323人を対象に、インターネットを用いて行われた。
まず労働時間の項目を確認すると、業界全体の71.4%が1日8時間以上、30.4%が10時間以上働いていると回答していると共に、平均的な1ヶ月における休日は58.8%が6日未満であると回答した。これらを元にアニメ業界従事者の月間平均労働時間を計算したところ、平均が219時間、中央値では225時間、さらに最大値は月間で336時間働いているとの結果がでた。日本全体の平均月間労働時間162.3時間と比べても非常に長いことは言うまでもなく、異常とも言える状態が見てとれる。
この労働時間は年齢が高くなっても改善される傾向は薄く、50代になっても8時間以上働いていると回答した割合が69%、10時間以上でも21%にものぼる。これは業界の慢性的な人材不足の問題が数値として表れたと同連盟は考える。
職種別に労働時間を見ると、音響関係が二極化しつつ突出して長く12時間以上と回答した割合が38%、次いで演出も22%、さらにほとんどの職種で30%以上が10時間以上働いていると回答し、監督、各種デザイナー、CG、シナリオライターのみが比較的に時間に余裕を持った働き方ができており、他の職種では超長時間が常態化している様子がうかがえる。
これらの労働時間の傾向に男女による性差は薄く、むしろ体力的には劣ると思われる女性のほうが長時間労働をしている割合が高くなっている。絵や映像などを制作する業務においては男女の働き方についての差はあまりなく、「できるまでやる」という文化が根付いていることがうかがえるという。
続いて収入面で見ると、全体の37.7%がアニメ関係からの仕事が月収20万円以下、つまり年収240万円以下であると回答している。アニメ業界以外の仕事に従事しているかの質問には77.6%が「現在は従事していない」「従事したことがない」と回答しており、業界全体の4人に1人程度は年収240万円以下で生活しているとの結果になった。
さらに詳しく見ると、年齢別では20代の13%が月収10万円未満、67%が20万円未満と回答しており、年齢が上がるにつれて年収が上がっている様子が見えるが、日本の年代別平均年収と比べるとどの年齢層でも明らかに低調であることがわかる。
その一方で男女間での収入差は日本全体の値よりも小さいため、ここでも業界内での男女による仕事の差はあまり見られないことがわかる。アニメ業界は性別に関係のない実力主義のジョブ型雇用が一般的であり、男女雇用機会均等の観点からは比較的平等な業界であるとも言える。
次に収入を職種別で見ていくと、仕上げとシナリオライターの収入が突出して低く60%以上が月収20万円未満、アニメーターや美術もそれぞれ43%、45%が月収20万円未満、年収換算で240万円以下しかないことがわかる。しかしアニメーターはその一方で年収1000万円を超えるとの回答も11%存在し、腕を磨けばしっかりと稼げると言うことがわかった。その証拠に、アニメーターのキャリアアップ先と言われるキャラクター/メカデザインやプロップ/衣装デザインでは月収70万円以上、年収換算で840万円以上との回答が約15%にのぼった。また、前述の通り演出は超長時間労働で収入も全体的に高いとは言えないが、監督になると半数以上が月収50万円以上であると回答しており、この分野でも着実なキャリアアップが収入にも結びついている様子がうかがえる。
しかし日本全体の傾向を見るとプロジェクトマネージャーの平均年収は891.5万円であるとの調査結果もあり、アニメ業界全体の賃金が低く抑えられているとの見方もある。なお、最終学歴と収入の相関関係を見ていくと、高卒者と大学院修士課程修了者がさほど変わらない収入であること等から、やはり学歴よりも腕次第という業界であることが改めて裏づけられる結果となった。
ここまでの月間平均収入と労働時間を掛け合わせて時給換算をしてみると、600円〜800円相当となる比率が14%と最も多く、中央値でも1111円と、2024年3月現在の最低賃金の全国平均額1004円をやっと超えた数字、東京の最低賃金1113円より僅かに低い数字となった。
これらを職種別に見ると仕上げが最も安く中央値が667円、次いで音響関連が875円。一番高い職種は監督の2111円だった。業界内での格差もあるが、業界全体を俯瞰しても異常な低賃金状態であることがわかる。
業界に関する知識をどこから学んだか聞いたところ、現在の30代以上の年代では先輩や上司など職場でのつながりで仕事を覚えていたのが、30代未満ではその割合がぐっと減り、独学や学校、会社の研修の比率が増えている。かつて徒弟制度のように先輩後輩間で代々行われてきたアニメの技術承継が途絶える危機にあることがこのアンケートでも浮き彫りとなった。
次にハラスメントに関する項目を見ていくと、「ハラスメントを受けたことがある」が65.8%、「ハラスメントを見聞きしたことがある」が85.6%にのぼり、社会全体と比べるとアニメ業界でのハラスメントはやや多いと言える。その一方でこれらのハラスメントを報告した人は26.9%と低く、誰に相談したらいいのか、相談して解決してもらえるとの安心感がない実情がうかがえる。
今回の調査で雇用形態を聞いたところアニメ業界全体で正社員、契約社員あるいはアルバイトだと回答した割合は32%だが、制作関係、美術、CGのうち正社員、契約社員、アルバイトのいずれかであると答えた割合が80%を超えている。他の職種では80%程度かそれ以上がフリーランスであると回答しており、特定の職種以外はフリーランスがほとんどを占める業界だということが裏付けられた。
契約社員を含めた社員とフリーランスを比べると、収入の中央値は社員の方が高いものの、労働時間の中央値も社員の方が長く、時給換算した時の値は大きな違いがないことがわかる。さらに収入の上限を見るとフリーランスでは年収1000万円に迫る、あるいは超えている人も少数いる一方で、社員では年収840万円未満が、契約社員では720万円未満が上限となっており、安定はしているが取り立てて豊かとも言えない実態がうかがえる。