「今まで何ともなかったのに、ある日桃を食べたら急に喉がイガイガしてきた」。近年、大人になってから、こうした食物アレルギーを突然発症する人が増えているといいます。中でも特に多いのが、花粉症の人が食物アレルギーを発症するケースです。
ではなぜ、花粉症の人が食物アレルギーにもなってしまうのでしょうか。今回は、アレルギー学がご専門で、国立病院機構 相模原病院 アレルゲン研究室 室長の福冨友馬医師に、花粉症と食物アレルギーの関係性について詳しくお話をうかがいました。
■花粉症の人が食物アレルギーも発症する「交差反応」とは
━━花粉症の人が食べると、食物アレルギーを発症しやすい食べ物があるそうですが、詳しく教えていただけますか。
花粉症の人が発症しやすい食物アレルギーには、代表的な3パターンがあります。まず、最も多いのが、カバノキ科アレルギーの人がバラ科、マメ科(大豆製品含む)、セリ科の食べ物、ヘーゼルナッツを食べて発症するパターンです。
次に多いのが、草の花粉アレルギーの人がウリ科の食べ物やトマト、オレンジなどを食べて発症するパターン。そして、頻度としては少ないですが、スギ・ヒノキ花粉アレルギーの人がバラ科果物、柑橘系果物、梅干しを食べて発症するパターンです。
━━なぜ、花粉症の人はこれらの食べ物で食物アレルギーを発症しやすいのでしょうか。
花粉のアレルゲンと果物・野菜のアレルゲンは、構造がよく似ています。そのため、花粉のアレルゲンに対してアレルギーを持つようになった花粉症の人が、果物や野菜のアレルゲンにも反応してしまい、食物アレルギーを発症することがあるのです。
このような反応を「交差(こうさ)反応」といいますが、交差反応は、形の似た花粉のアレルゲンと食べ物のアレルゲンを免疫の抗体が区別できないことで起ります。
この場合、食べ物を食べることにより食物アレルギーになっているわけではなく、基本的にはまず花粉のアレルギーがあり、食物アレルギーはそれに巻き込まれて起こっている状態です。花粉に対してアレルギーがあるのですから、本来は花粉だけに反応すればいいのですが、体がアレルゲンを区別できず食べ物にも反応してしまっている、というイメージですね。
━━なるほど。では、交差反応による食物アレルギー症状が出てしまったら、どのように対応すればいいですか。
「果物を食べて少し喉がかゆくなる程度」といった軽い症状の場合、症状が出たらできるだけその食べ物を食べないようにするのがいいですが、症状が我慢できるくらいなら、少し食べたとしても特段問題はありません。
ただ、喉がかゆくなるだけでなく、苦しくなる、まぶたが腫れるなど症状の重い方は、基本的にその食べ物を食べないという対応が必要です。そして、検査をして何のアレルゲンに反応するのかを正確に知っておいたほうがいいですね。また、症状が出た時にアレルギーの薬を飲むと早く改善しやすくなりますので、そうした薬を備えておくといいでしょう。
アナフィラキシーを起こしてしまったことのある人は、アレルギーの薬を備えるほか、アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和するアドレナリンの自己注射薬、「エピペン」を持っておくのが望ましいです。
果物の食物アレルギーでアナフィラキシーになることは少ないですが、はじめに解説した食物アレルギーの代表的な3パターンのうち、スギ・ヒノキ花粉に関係したバラ科果物や柑橘系果物などによる食物アレルギーでは、アナフィラキシーを起こすことがあります。
■投薬治療のほか、生活習慣や食生活の見直しが症状改善につながることも
━━交差反応による食物アレルギーは、症状が悪化することもありますか。
花粉症が悪化すると、食物アレルギーも悪化します。先ほどもあったように、交差反応による食物アレルギーは花粉のアレルギーに巻き込まれているだけで、基本的には花粉症なんです。
春になって花粉症がひどくなると、普段平気な食べ物でもアレルギー反応が出やすくなります。また、花粉がたくさん飛んだ年はアレルギーの数値も高くなりますので、そういう年は、新たに食物アレルギーを示してしまう食べ物も増えます。花粉症の重症度合いに引きずられて、食物アレルギーが悪くなったり良くなったりするんです。
━━では、花粉症を悪化させないためには、いつ頃から対策をするのがいいのでしょうか。また、花粉症において薬の併用(内服薬と点鼻薬・目薬の併用)は問題ありませんか。
花粉症に関しては、一般的に、「花粉が飛び始める少し前から薬を飲んだ方がいい」といわれています。ただ、症状がひどい方はそのような早めの対策が必要ですが、症状が軽い方は症状が出始めてから薬を飲むという対策で問題ないでしょう。
薬の併用は、もちろん問題ありません。症状が重い場合は、内服薬は抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬などを使い、鼻はステロイドの点鼻薬、目は抗ヒスタミンの目薬などを併用します。
━━花粉症について、服薬以外にできる、生活習慣や食生活の対策はありますか。
花粉症は、疲れやストレスが溜まっていたり、生活習慣が乱れていたりすると悪化しやすいです。ですので、できるだけ規則正しい生活や食事を心がけていただくのがいいでしょう。
また、砂糖のとり過ぎはアレルギー症状を悪化させやすいといわれており、特に鼻炎の人には砂糖をやめることをおすすめしています。詳しいメカニズムはわかっていませんが、実際に患者さんを診ていると、砂糖を控えるほどアレルギー症状が改善しやすい傾向にあります。
具体的にいうと、甘党でチョコレートをたくさん食べている、飲み物はカフェオレ、朝食は菓子パンなど、砂糖をたくさんとっている花粉症の人が摂取する砂糖の量を減らすと、花粉症の症状が半分以上よくなるケースはけっこう多いです。
なので、普段お菓子を食べ過ぎている人の場合、服薬以外で一番わかりやすくて効果的なのは、「お菓子をやめること」です。砂糖を控えると、だいたい2週間程度で効果が現れてきます。
■花粉症の人は、交差反応があることを知っておこう
これからの時期は花粉の飛散が本格的に始まりますので、花粉症の人は、「交差反応によって食物アレルギーが起こることもある」と知っておきましょう。
また、交差反応による食物アレルギーは、花粉症が悪くなるとそれに引きずられて悪くなってしまうため、なるべく花粉症を悪化させない工夫も大切です。症状に合わせた薬で対応しながら、規則正しい生活や食事、砂糖のとり過ぎにも注意し、これからのシーズンを乗り越えましょう。