野田サトル氏による人気コミックを実写化し、現在公開中の映画『ゴールデンカムイ』。明治末期の北海道を舞台に、主人公の元陸軍兵・杉元佐一(山崎賢人 ※崎はたつさき)が、アイヌの少女・アシリパ(山田杏奈 ※「リ」は小文字が正式表記)と共に、アイヌの莫大な埋蔵金の在りかが描かれた「刺青人皮(いれずみにんぴ)」を求めて北海道を旅するサバイバル・バトルアクションとなる。

公開3日間で観客動員数35万人、興行収入5.3億円を突破しヒットスタートを切った同作について、メガホンを取った久保茂昭監督にインタビュー。有名アーティストのミュージック・ビデオを数多く手がけ受賞作も多数の久保監督は、映画『HiGH&LOW』シリーズの監督としても知られている。もともと『ゴールデンカムイ』のファンだったという監督が、どのように同作に取り組んだのか、話を聞いた。

※編集部注:本記事は一部ネタバレを含んでいます。知らない状態で映画をご覧になりたい方はご注意下さい。

  • 久保茂昭監督 (C)野田サトル/集英社 (C)2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

映画『ゴールデンカムイ』監督に決まった時は「本気で泣きました」

――映画『ゴールデンカムイ』のお話が来た時は監督も驚かれたそうですね。

候補として残っているとは聞いていたんですけど、まさか僕になるとは思っていませんでした。僕は原作の大ファンだったので、監督に決まった瞬間は本気で泣きました。

――「『HiGH&LOW』シリーズの久保監督が!」という驚きもありましたが、どういう部分が求められていたのですか?

壮大な舞台を大胆に繊細に描き、さらに邦画っぽくないアプローチも……という形でご期待いただいていました。それから、松橋(真三)プロデューサーとは映画『小説の神様』も一緒にやらせていただいていたので、そこで信頼いただけていたのだったら嬉しいです。

――制作を進められる際には、どういう部分を重要視していたのでしょうか?

僕は原作の大ファンでもあったので、自分の持ち味は一度置いておいて「この世界観を描けるのか」と頭を真っ白にさせたところが始まりでした。とにかく一つひとつのアプローチを丁寧にしていかないとダメだと思ったんです。

撮影スタッフとの準備が始まる半年以上前から自分で北海道に行って、原作のもととなる場所での取材を重ね、北海道、明治、アイヌ文化へ自分なりにアプローチをして、ちょっとずつ準備をしていきました。僕の中では準備期間が2年くらいあって、直近の1年くらいでスタッフが増えて一緒に制作が始まったという感覚です。

シーンごとに“伝えるアクション”を意識

――冒頭は日露戦争の二〇三高地の戦闘がしっかりと描かれていて、導入としてずっしりとくるものがありました。

今回、主要キャストと共有するために、原作での各キャラの心情と動きを追った「杉元ノート」「アシリパノート」「白石ノート」「鶴見ノート」「土方ノート」などを作っていたんですが、僕の中ではさらに「二〇三高地ノート」も作っていたんです。原作で二〇三高地のシーンがどれだけ出てくるんだろうと思ってまとめたら、実は2〜3巻分くらい出てくるので、それくらい大事なシーンなのだと思いました。そこの描写が軽いと、その後の説得力が全部なくなってしまうと思ったので、しっかり撮らせてもらいました。

あのシーン、よく観ると軍人たちは全員いるんです。尾形(眞栄田郷敦)と谷垣(大谷亮平)はわかりやすいですが、実は月島(工藤阿須加)や、他の第七師団のみんなも参加しています。尺上ではカットした場面もありましたが、二〇三高地のシーンをみんなに体験してほしかったので、大事に撮りました。この作品に命を懸ける……と言ったら、プロデューサーに「それはやめてくれ」と言われたんですが(笑)。原作を実写化するにあたり、様々なアプローチで、自分でできることを最大限に探りながら挑んだ感覚です。

――今後も観たくなるような映像もあり、気になりました。

エンドロールにまで映像が入っているのは『ハイロー』の時と同じで、詰め込みすぎて尺に収まらなくて(笑)。エンターテインメントとして、この先にもさらに物語の続きが待っていることは感じてほしいです。

――今作でどこまで描くんだろうと思っていたんですが、1つの作品としての盛り上がりが、杉元とアシリパの再会のアクションにあったところが印象的でした。

クライマックスをどこに持っていくかというところで、アイディアを出しました。馬ぞりをクライマックスにして、アシリパと杉元の気持ちが戦いの中で結ばれる。杉元がアシリパに対して「この子は本気だ」とわかるというところを描きたかったのと、「この先どこまでもついてくる」という第七師団のしつこさを表したかったので、馬車に乗ってる月島の姿だったり、二階堂が追っかけてきたり、原作よりも長く描かせてもらいました。

――最近は日本映画もアクションに力を入れている作品が増えてきましたが、『ゴールデンカムイ』ではどのようなアクションを目指されていたのでしょうか?

まず雪山を舞台にしているところが大変で、新しいアプローチをしていますし、アイディアを出し合って、大自然サバイバルの面白さもお伝えできたと思います。戦争のシーンも、日露戦争の際に日本兵がこういう戦いをしていたという臨場感を、「邦画としてここまでできるんだぞ」という肉弾戦として伝えられればと思っていました。

とはいえ『ゴールデンカムイ』はどこかしらエンターテインメントが入っているからこそ愛されていると思っています。だからギリギリの命のやりとりを、エンターテインメントとして表現したいということは意識しました。二〇三高地は壮絶な戦い、杉元VS尾形は腕の試し合い、白石VS牛山はコメディ、月島や二階堂は命の削り合い……と、一つひとつテーマを決めて、アクションや殴り合いの羅列ではなく、変化を楽しんでもらいたいな、と。それぞれのキャラが立っているので、キャラに合った手も考えなければいけないですし、シーンごとに“伝えるアクション”を意識したアプローチをしています。

■久保茂昭監督
1973年生まれ。これまで、EXILE、安室奈美恵、DREAMS COME TUREなど数々の有名アーティストのミュージック・ビデオを500作品以上監督し、「VMAJ年間最優秀ビデオ賞」を5年連続受賞。ドラマ『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』(15)を皮切りに、同シリーズの映画公開作品を監督。その他の監督作品に、高橋ヒロシ氏による不良漫画の金字塔『クローズ』『WORST』のコラボ映画『HiGH&LOW THE WORST』(19)や『小説の神様 君としか描けない物語』(20)などがある。

(C)野田サトル/集英社 (C)2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会