インフルエンザウイルスの大流行や帯状疱疹罹患者の急増など、従来とは異なる感染症傾向が見られる中、宴会が増える年末年始に向けて免疫対策を復習しておきたいと考える人も少なくないはず。そこで今回は、大正製薬が医師の久住英二先生に尋ねた、感染症予防のために"実際に意識している"免疫対策を紹介する。
■免疫対策のポイント
①腸内環境を整えよう
久住先生は、人間には約1.8兆個もの免疫細胞があり、病原体から身を守るために働いていると説明。このうち好中球やNK細胞は、病原体と認識したら即座に攻撃する"自然免疫"を司るという。
ワクチン接種は、病原体を記憶するメカニズムにより有効になる。樹状細胞とリンパ球のT細胞が司令塔となり、B細胞が抗体というタンパク質を作って感染を防ぎ、感染した細胞をT細胞が攻撃して殺すことを"適応免疫"と呼ぶそう。免疫細胞はほとんどが骨髄で作られ、リンパ節や脾臓などのリンパ組織や胸腺で教育を受け、様々な担当部署に配属されるという。
消化管は口から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門と1本の管であり、口と肛門は開いていることから、消化管の中はある意味、体外ともいえるそう。食べ物にはウイルスや細菌、真菌(カビ)などの病原体が付着しているが、栄養素と一緒に病原体を取り込んでしまうと病気になるため、消化管には表面を覆う粘液、様々な免疫細胞や抗体が存在し、防衛している。これを「腸管免疫」と呼ぶのだとか。
小腸にはパイエル板と呼ばれる免疫器官があり、そこにはT細胞やB細胞、NK細胞など多数の免疫細胞が集結し、病原体やウイルスと戦っている。大腸には膨大な腸内細菌叢(フローラ)があり、病原体が増殖するのを妨げ、消化を助けたり、人体に必須の栄養素を作り出したしするなど、人体に有益な働きをしているという。
フローラは免疫にも大きな関係があり、バランスが良いと免疫が適正に働き、フローラが乱れると自己免疫疾患が引き起こされ、体に良くない反応が起こるそう。そのため、腸内環境を整えることは健康を維持する上で非常に大切と指摘している。
②血流やリンパの流れを良くしよう
血液やリンパの流れが良くなると、リンパ球などの免疫細胞が体内を移動しやすくなり、結果として病原体を発見し、働きかける反応が向上するという。そのためにすすめているのが「軽い運動」。運動による体温上昇も免疫細胞の活性化に役立つとのこと。また、毎日なるべく湯船に浸かって血行を促し、身体を温めてから就寝するのもおすすめとしている。
一方、身体の細胞を酸化させてしまうおそれがあるタバコは、免疫細胞の働きを抑制し、血管が収縮して血流が悪くなり、血管壁を傷つけることで血管を老化させるという。さらに、煙に含まれる一酸化炭素は、体内で酸素を運搬する役割のヘモグロビンと強く結合して酸素運搬能力を奪い、体内を酸欠状態にしてしまうのだとか。
③自律神経を整えよう
自律神経は免疫細胞にも働きかけ、その機能を制御している。そのため、自律神経を整えることは免疫を健やかに保つ上で重要としている。
自律神経の機能を低下させるのが、睡眠不足や体内時計の乱れ。毎晩、なるべく決まった時間に寝て起きて、成人は7時間ほどの睡眠時間を確保し、良質な睡眠をとることが望ましいとのこと。
反対に自律神経の働きを正常化する上で役立つのが、運動習慣だそう。健康に良い運動は、例えばジョギングであれば、一緒に走る人と会話が出来るくらいのスピードで、時間も30分以内が良いとされている。筋トレも自分の体重を使った自重トレーニングで十分なのだとか。また運動は睡眠の質を向上させる効果もあるとしている。
飲酒も自律神経を整える上で要注意。お酒を飲むとよく眠れると思っている人は少なくないが、実は逆でアルコールは睡眠の質を低下させる。
過度な飲酒では睡眠時間が短くなる可能性もあり、疲労や自律神経の乱れにつながる場合もあるという。また、アルコールの分解では、免疫細胞にとって重要なアミノ酸であるタウリンが消費される。タウリンを奪ってしまうという点においても、過度な飲酒は免疫対策として推奨できないとのこと。
また、精神的なストレスも免疫機能を低下させる非常に大きな要因になるそう。ストレスで交感神経が優位になり、血管が収縮し、血流が悪化する。さらに、交感神経が優位な状態が続くと、リンパ球など免疫のキーとなる細胞の働きが低下するのだとか。
反対にリラックスした精神状態で副交感神経が優位になると、血管が弛緩し、血行もスムーズになる。心身ともに無理をしすぎず、リラックスできる時間を意図的に作ることをすすめている。
免疫対策に有効な注目栄養素
この他、免疫対策に有効な注目栄養素として、腸内細菌叢を育てる「β-グルカン(白米、大麦ご飯など)」、免疫細胞を活性化させる「タウリン(イカ・タコ・牡蠣などの魚介類)」、「ビタミンB群(豚肉、魚介類)」、免疫細胞自体を作る「タンパク質(卵、肉、魚、大豆など)」、骨(骨髄)づくりにかかわる栄養素(カルシウム、ビタミンDを含むきくらげ、鮭など)の摂取をすすめている。
久住英二先生
久住英二先生は、1999年新潟大学医学部卒業。内科医、特に血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修後、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しいという。