中国で火傷病が発生し、花粉の輸入が停止に

火傷病は、リンゴやナシなどのバラ科の果樹が火傷病菌(Erwinia amylovora)に感染することによって大きな被害を受ける病害です。花が枯れたり、葉が火にあぶられたような外観になったり、果実に粘液状の細菌泥が見られたりなど、さまざまな症状が現れます。感染経路はさまざまですが、花粉を通じて感染することも多くあります。

火傷病にり病した果実(画像提供:農研機構)

リンゴやナシなどの実をならせるには、受粉が必要です。これらのバラ科の果樹は「自家不和合性」で同じ品種の花粉がついても結実しないため、受粉用の別品種の木が必要になります。受粉昆虫を使う場合などもありますが、多くの農家は人の手で授粉作業を行っています。花粉を自家採取して授粉する場合もありますが、購入する場合もあります。

ナシの花とミツバチ(イメージ画像)

2016年の公益財団法人中央果実協会の報告書では、ナシ農家の3分の1ほどが花粉を購入に頼っていると推定されています。購入される花粉のほとんどが中国からの輸入ものです。(※)
しかし、中国で火傷病が発生したことにより中国産花粉が輸入停止となり、多くのナシ農家が影響を受けることになりました。授粉できないとナシが実らず来年の収穫が見込めないため、輸入に頼っていたナシ農家にとっては死活問題となっています。

※出典:「」

国産花粉の自給が必要

ナシの木

中国産花粉の輸入停止は当分続くと見られ、国内での自給が求められています。これまでも中国産の花粉は中国国内の事情によって需給が不安定だったこともあり、以前から花粉の国内自給が必要だといわれてきました。

東京都稲城市で60年以上ナシを栽培している川島実(かわしま・みのる)さんによると「穂木を継いでもまともに花粉が採取できるまでには3年かかります。それでも今後、国産花粉の自給を進めていかなければなりません」とのこと。

「来春の授粉を乗り切れさえすればよい」というわけではなく、「中長期的に花粉をどう確保するか」という課題に向き合う必要があります。

花粉の確保に向けて協力体制が必要

来春の授粉問題はもちろん、今後に向けて花粉の自給体制を整えるには、産地内だけでなく産地間で花粉を融通するなどの協力体制が不可欠になります。

川島さんは今回の輸入停止騒動以前から、自らネパールから持ち帰った優秀な花粉採取用のヤマナシを育て、国内で増やしてきました。

「うちでストックしてある花粉も可能な限り提供していますし、ヤマナシの穂木も困っている農家に送っています」と川島さん。「来年の収穫に響かないように、今、農家は懸命に努力しています」とのこと。

おいしいナシを来年も消費者へ届けるために、全国のナシ農家が今日も奮闘しています。