2023年11月2日に発売された、『将棋世界2023年12月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)の記事内容から、気になるものをいくつかご紹介したいと思います。

八冠達成の金字塔をさまざまな角度からレポートする総力特集

12月号は藤井八冠誕生の号です。全国の将棋ファンから注目を浴びた第71期王座戦五番勝負第4局は、永瀬拓矢九段の想いを中心にお届けしています。では、その一幕をご紹介しましょう。

(以下抜粋)
藤井は△4五銀と桂を食いちぎった。永瀬はすぐに▲同歩と応じ、△5五角に▲2七飛と引く。△9九角成と香を取られたが、▲7七角と合わせて△同馬▲同桂。永瀬は▲2七飛に1分50秒ほど使ったが、あとは10秒以内に指している。
△4五銀が指されてから20分もしないうちに、興味深い投稿がX(旧ツイッター)に上がった。渡辺明九段が、「△4五銀って下のほうの候補手なのに永瀬王座は網羅してんのか、、、」と記したのだ。第2図(△4五銀の1手前)の局面をAIに探索させ、候補手の写真も一緒にアップしている。それを見るとAIは△5五角を最有力と示し、本譜の△4五銀は7番目くらいの手と見ていることがわかる。
永瀬にこの話を伝えると、「渡辺先生、調べるの好きですねえ」と言ってから、ハハハと高笑いをした。「そうなんです。網羅してるんですよ。渡辺先生を驚かせましたね」と言ってからまた笑った。
(大川慎太郎「これが、将棋だ。これが、棋士だ。」より)

希代の戦略課・渡辺九段が竜王戦を詳解

棋界最高峰の第36期竜王戦は藤井竜王と伊藤匠七段の最新研究が激突しています。事前研究が物をいい、昔よりも速いペースで進む1日目、心理状態も含めた封じ手直前のドラマを、渡辺明九段が考察しています。棋士は封じ手直前何を考えるのか。希代の戦略家である渡辺九段のタイムマネジメントは興味深い内容になっています。

(以下抜粋)
午後6時の指し掛け時刻まであと50分という状況だったんですが、藤井さんはこの歩打ちを着手する前、ちらちらと愛用の電波時計を見ていました。「ここで封じ手にしてもいいんだけれど、どうしよう。指し手が決まっているのに指さないのもバカバカしいよなあ」という雰囲気が、モニター画面から伝わりました。
逡巡の末に藤井さんは△7六歩と打ち、伊藤さんはノータイムで▲8六金と上がったわけですけれど、ここが重要な勝負どころでした。△7六歩に対する▲8六金を封じ手にしたほうが先手はよかったんじゃないか、というのが一理ある意見ですよね。本譜で△4五飛の次の一手はすさまじく難しかったので、この金上がりを封じ手にしていれば△4五飛の局面を一晩中、先手は考えることができました。対局者的には△4五飛は必ずしも100パーセントではなく、可能性としては△5五飛もあるから、早く限定させたい思いもあったんでしょうけど、そっちは▲4四歩があってどう見ても互角はありそうですからね。
感想戦では封じ手がほぼ敗着ということになりました。結構ここは大事なところだったと思います。△7六歩には▲8六金の一手だからすぐに指してしまった、及び直前に連続長考が続いているからさらに時間を使いたくない意識が働いた、ということなんでしょうけど。本譜は先手が△4五飛に対する次の手を初日に決断しなくてはいけなくなったのが痛かったです。
(渡辺明九段解説、今井和樹「大舞台の初々しい輝き」より)

若手棋士のインタビューや戦術特集も充実

12月号はほかにも「ドキュメント 八冠誕生」、ABEMAトーナメント2023。井出隼平五段、北村桂香女流二段のインタビュー、戦術特集「三間飛車の芸術! 穴熊の姿焼き」など充実の内容になっています。付録も、保存版「現役棋士ポケット名鑑 2023年秋版(上巻・あ~た)」など、価値ある企画が目白押しです。

紙版、電子版が書店やAmazonほかのネット書店で販売されていますので、ぜひチェックしてみてください。

『将棋世界2023年12月号』
発売日:2023年11月2日
特別定価:920円(本体価格836円+税10%)
判型:A5判244ページ
発行:日本将棋連盟
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